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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.01 ランクール編

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06 碧色の閃光、そして異変


「こんな罠まで仕掛けてたのか」


「涼風の貴公子、参る」


 細身剣(レイピア)を掲げ、ナルシスが真っ先に飛び出した。


「ったく、早ぇよ」


 セリーヌに良いところを見せたいのが丸わかりだ。

 俺も長剣(ロングソード)を抜き、爆炎の中へ踏み込む。


 だが、予想以上に煙が濃い。罠としては悪くないが、視界まで潰されるのは厄介だ。


「がうっ」


 その瞬間、ラグが上空へ跳ぶ。同時に、右手の紋章が熱を帯びた。見えない力が腕を包み込み、剣身が淡く輝き始める。


 爆炎を抜けてきたルーヴを、一閃で斬り払う。青緑の軌跡は流星のごとく、闇を裂いた。


 碧色の閃光。この光が、俺の二つ名の由来だ。


「リーダーはどこだ」


 煙と炎で、群れの中央が見えない。


「誰かが倒したか、爆炎で吹っ飛んだか……」


 逃げた可能性は低い。ルーヴは群れを重んじる魔獣だ。


「串刺しの刑」


 ナルシスの突きが、一頭の喉を貫いた。


「腕は悪くねぇ。技名をどうにかしろ」


 そう言った直後、背後に殺気を感じる。

 爆炎を回避した数頭が、セリーヌに突進していた。


「くそっ」


 胸が縮むような焦りが走る。


 昼間の魔法は確かに凄かったが、本気の魔獣相手にどこまで通用するかは未知数だ。

 ナルシスは前線で手一杯。今、動けるのは俺しかいない。


 けれど、セリーヌは微動だにしなかった。相手を見据え、静かに杖を掲げる。


煌熱創造(ラクレア・フラム)!」


 炎の奔流が地を舐め、突進してきたルーヴたちをまとめて呑み込む。


「やっぱり規格外れだな……」


 しかも、無詠唱でこの威力だ。


斬駆創造(ラクレア・ヴァン)!」


 真空の刃が掠め過ぎ、俺の背後で魔獣の悲鳴が上がる。


「リュシアンさん、集中してください」


「悪い」


 守るつもりが、逆に援護されている。

 情けなさを振り払うように、剣を握り直した。


「一気にいく」


 群れへ突っ込む。

 横から飛び掛かってきた一頭を身を捻って避け、そのまま胴を断つ。


 碧色の光が闇を走るたび、ルーヴたちは次々と崩れ落ちていった。


※ ※ ※


「これで終わりか?」


 ラグが左肩へ戻ってくる。周囲を見渡しても、動く影はない。


「ルーヴなら、こんなもんだろ」


 剣を収めると、ナルシスが呆然としていた。


「いつの間に終わったんだい? この僕が、まだ数頭しか倒していないというのに」


 乱れた金髪を整えながら、間の抜けた顔を晒している。


「死骸は集めて燃やしてしまおう」


 気を利かせたつもりらしいが、それは悪手だ。


「ダメだ。毛皮は高値で売れる。街の復興資金になるんだからな」


「ぐぬぅ……その手があったか」


「リュシアンさん、さすがです」


 セリーヌが柔らかく微笑む。

 たったそれだけで、少し誇らしい気分になる。


「でも、リーダー魔獣が見当たらねぇな……」


 そう呟くと、セリーヌの表情が強張っていることに気付いた。


「どうした?」


「山の方から……強い魔力と、獣の声が聞こえます」


 魔力を持たない俺には捉えられない。耳を澄ませても何も聞こえない。


「気のせいじゃねぇのか? 風の音とか」


「姫を疑うのかい? 僕にも感じるとも」


「幻聴だ。すぐに寺院で診てもらえ」


 軽口を叩いてみるが、妙な胸騒ぎが消えない。


「がるるる……」


 ラグが低く唸った。

 その直後、山の方角から重い遠吠えが響く。空気そのものが震えた。


 木々に止まっていた山鳥たちが、一斉に夜空へ飛び立つ。続けざま、木が倒れる轟音が響いた。

 何かが、一直線にこちらへ迫ってくる。


「気を付けてください」


 セリーヌの声に緊張が混じる。

 山際の木々が薙ぎ倒され、最後の防風林が崩れ落ちた。


 そして現れたのは、巨大な魔獣だ。

 ルーヴに似ているが、大きさが違う。三倍近い。しかもそれだけじゃない。


「頭が……ふたつ」


 思わず息を呑む。


「ルーヴ・ジュモゥ……ってところか」


 冗談のつもりで名付けたが、誰も笑わない。


「ルーヴたちが人里に降りたのは、あれに追われたからか」


 剣を握り直し、呼吸を整える。


「一旦退くべきじゃないかな……」


 ナルシスの引きつった顔が視界に入った。


「退けるかよ。後ろには街があるんだぞ」


 そんな選択肢はない。

 脳裏に浮かぶのは、あの男の子の泣き顔だった。


「男なら、大事な物は自分の手で守らなきゃダメなんだよな……」


「え? 何か言ったかい?」


「なんでもねぇ」


 苦笑した、その時だった。


「巨大な四足魔獣……二年前の……あの気配に似ている……」


 セリーヌが青ざめている。


「おい、どうした!?」


 様子がおかしい。

 震えているのは恐怖だけじゃない。目が、今じゃなく過去を見ていた。


「ナルシス。俺たちでやるしかねぇ」


「姫のためだ。真の実力をご覧に入れよう」


 ナルシスが地面を蹴る。

 気負いすぎだ。嫌な予感がする。


 死骸を飛び越え、真正面から巨大魔獣へ突っ込んでいく。

 だが、双頭の魔獣はその動きを見逃さない。


「くそっ」


 俺も駆け出す。同時に、ラグが宙へ跳んだ。


 すると、ナルシスが腰の革袋から何かを取り出すのが見えた。

 正体に気付き、反射的にセリーヌを振り返る。


「セリーヌ、目を逸らせ」


 まばゆい白光が炸裂し、魔獣の悶える声が夜を裂く。


閃光玉(せんこうだま)か」


 高価な道具だが、惜しげもなく使ったらしい。これで数十秒は視界を潰せる。


 だが、異様な光景が飛び込んできた。

 苦しんでいるのは、左の頭だけ。右の頭は、平然と牙を剥いたままだ。


「危ねぇ」


 巨体に似合わない速度で、前脚が薙ぎ払われる。

 回避したナルシスの脇腹を、爪が浅く裂いた。


 吹き飛ばされながらも、ナルシスは踏み留まる。

 だが、その腕輪に異変が起きていた。緑色だったラインが、黄色へ変わっている。


「嘘だろ……」


 ランクCの魔力障壁(プロテクト)が、一撃で六割以下まで削られた。


 しかも、ナルシスはまだ攻める気でいる。

 巨大魔獣の前脚が振り切られた瞬間を狙い、細身剣(レイピア)を構えた。


「串刺しの刑!」


「ナルシス、逃げろ」


 間近にいるあいつは気付いていない。

 右側の頭がわずかに首を引き、大きく息を吸い込む。


「そいつ、吐息(ブレス)を使うぞ」


 魔獣の喉奥から生じたのは、横倒しの竜巻のような衝撃波だった。


 轟音と共に大地を抉り、ナルシスを軽々と吹き飛ばす。

 悲鳴すら上がらない。


 地面を何度も転がったナルシスの腕輪から、ガラスが砕けるような警告音が漏れた。

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