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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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11 強く気高き、紅い薔薇


 斬り結ぶアルバンとモーリス。それをただ見ていることしかできない自分が、たまらなく腹立たしい。


 俺の怒りに呼応するように、髪を乱すほどの風が吹き荒れる。そこに重なるのは、彼等の剣がぶつかり合う悲鳴だ。


「おまえら。もう少し冷静になれ」


 クズどもに利用された挙げ句の殺し合い。こんな馬鹿げた結末は認めない。


 しかし、現実は余りにも残酷だった。


「はあっ!」


 モーリスの一撃がアルバンの剣を弾き飛ばす。

 アルバンは呆然とその軌跡を見送り、モーリスが大上段に剣を振り上げる。


「すまない……」


「モーリス、やめろ」


 叫びも空しく、勝負を決する一撃が振り下ろされようという、その瞬間。


紅炎乱舞(ルイム・ブリュイ)!」


 魔獣の吐息(ブレス)を思わせる一筋の炎が、背後から勢いよく吹き荒れた。


 荒れ狂う紅蓮の炎が狙い違わずニコラの背を直撃し、その体を吹っ飛ばした。追って放たれたもう一筋が、その先にいたアルバンとモーリスをも弾き飛ばす。


「やっと来てくれたか……」


 この技を使う人物はひとりしか知らない。


「ごめんね〜。やり過ぎちゃった?」


 ぺろりと舌を覗かせ、悪びれた様子もなく現れる女戦士。俺の隣へ立つと、いつもの妖艶な笑みを見せ付けてきた。

 こんな人でも、今だけは女神に見えてしまう。


「はぁい。遅くなったわね。通信は聞いてたんだけど、こっちも色々あってね〜」


「通信って、何のこと」


 突然の事態に取り乱した女魔導師のDが、金切り声を上げる。

 俺はその慌てぶりを眺め、目一杯の皮肉を込めて言い放つ。


「魔導通話石を持ってるのは、おまえらだけじゃねぇってことだよ」


 モーリスと別れた後も、通話状態の石を胸ポケットに忍ばせておいた。シルヴィさんが聞いてくれると信じての判断だ。


「見世物を邪魔して悪いけど、あのふたりが伸びちゃった以上、どうしようもないでしょ。あたしの顔を立てて、許してちょうだいね」


(くれない)戦姫(せんき)か。おもしれーことをしてくれるな……よし、規定変更だ』


 地面に転がった通話石から、Gの声が漏れる。


『DにM。その阿婆擦れを痛めつけろ。但し、絶対に殺すな。そんな上玉、めったにお目に掛かれるもんじゃねー。散々犯して、廃人にしてやるよ』


「あら、楽しみね。滅茶苦茶にして、って言いたいところだけど……あんたみたいな陰湿男は、お・こ・と・わ・り」


 唇へ左の人差し指を当て、腰をしならせる。そのまま右腕一本で、斧槍(ハルバード)を軽々と担ぎ上げた。


 魔鉱石から作られる魔導武器マジック・ウエポンは軽くて丈夫なことで知られているが、片手で振り回すなど、細い腕からは想像できない。


「さっさとかかって来たらどう? ふたりまとめて、()かせてあ・げ・る」


 挑発へ応えるように、重量鎧(ヘビー・アーマー)のMが前に出てきた。その後方で、Dも魔導杖(まどうじょう)を構えている。


「シルヴィさん。こいつらには聞きたいこともある。加減してください」


「う〜ん。あんまり自信ないけど……あたしだって暴れたい気分なんだから」


 全身を炎が包むかのように闘気が漲っている。触れただけで切り裂かれそうな、鋭く激しい怒りだ。

 シルヴィさんは斧槍(ハルバード)を構え、一気に駆け出した。


「悪いけど、あんたは邪魔」


 互いの中間地点で身を起こそうとするニコラ。その背へ斧槍の一撃が食い込み、鎧を砕く音と共に鮮血が舞った。これで派手に動くことはできないだろう。


「あんたたちの陰湿なやり方にイライラしてんのよ。堂々と戦ったら?」


 Mの大剣が腹部を狙って迫る。


 シルヴィさんは柄で受け止めると、即座に後方へ飛び退いた。

 大剣を押し込んでいたMは予想外の動きに体勢を崩し、前のめりになる。


 その隙を逃さない。振り上げた斧槍が、鎧の継ぎ目を狙って首筋へ走る。


轟響創造(ラクレア・トネール)!」


 そこへ、地を這う紫電(しでん)が割り込む。Dの援護魔法だ。


「もぅっ!」


 声を荒げるシルヴィさんは、後方へ飛び退くと同時に武器を一閃。紫電は即座に払われ、霧散した。


「あんた、鬱陶しいのよ」


 シルヴィさんはDを睨むが、彼女を守ろうとMが立ちはだかる。


 しかし何を思ったか、シルヴィさんは斧槍を肩へ担ぎ、Mに突進を仕掛けた。

 相手は重量鎧に身を包んでいる。裸同然のあの人がぶつかれば、弾かれるだけでは済まない。


「シルヴィさん!?」


 焦る余り、思わず声が出ていた。


「はっ!」


 勢いは殺さず、槍先を地面へ突き立てる。

 次の瞬間、槍を支点に身体が華麗に宙を舞う。まるで曲芸だ。


 突然に標的を見失い、狼狽するM。後ろに控えていたDも、空を見上げることしかできない。


 上空で前転したシルヴィさんは武器を引き抜き、落下と回転の勢いを乗せて振り下ろした。

 深紅の軌跡が空に円を描く様は、一輪の薔薇が咲いたようだ。


咲誇薔薇ロジエ・グロワール!」


 深紅の一撃がDの肩口から腹部までを斬り裂く。


 驚愕に目を見開いたまま、女魔導師は崩れ落ちた。それはまさに一瞬だった。


 吹き上がった返り血は加護の腕輪の魔力障壁(プロテクト)で弾かれた。紅の戦姫に届くことはない。


 唇を舐めて恍惚の笑みを浮かべる戦姫は、烈火のごとくMの背後を強襲する。


 鋭い突きが鎧の継ぎ目を打った。胴と腰の境目へ穂先が食い込む。


「ダメだ。浅い」


 致命傷に至らないのは俺にもわかった。Mはお構いなしに武器を振り上げる。


 肉を切らせて骨を断つか。このままだと、強烈な一撃が来る。


「シルヴィさん、危ない」


 だが、その口元は静かに笑っていた。美しく、妖艶に。


紅炎乱舞(ルイム・ブリュイ)!」


「があぁぁっ!」


 炎の力を秘めた深血薔薇(フォンデ・ロジエ)が紅く輝く。穂先から噴き出した炎が鎧の隙間へ潜り込み、Mを内側から焼き尽くした。


 確かにこれなら、どれほどの武装も無意味。シルヴィさんの作戦勝ちだ。


「もう終わり? もっと激しくして欲しいんだけど……まだ足りないわ」


 引き抜いた斧槍が、ダメ押しとばかりにMの喉を貫いた。


 容赦のなさも相変わらずだが、その強さと美しさもまた変わらない。

 シルヴィさんはDの遺体の隣へしゃがみ、何やら調べ始めた。


 それを不思議に思いながら、加護の腕輪と共に転がっている通話石へ視線を落とす。


「G、見てるんだろ。てめぇの部下も大したことねぇな。降参するなら今のうちだぜ。従えば、命だけは助けてやるよ」


『クックッ……降参だと? てめーの頭はお花畑か。見世物は始まったばっかりじゃねーか。そっちの阿婆擦れも、物足りねーって顔だろ?』


 いつの間にか近付いていたシルヴィさんが通話石を拾い上げる。


「あら。よくわかってるじゃない。仕上げはあなたでいいわよ。ゆっくり、じっくり、()かせてあげる」


『クックッ……いつまでそう言っていられるか見物だな。イかせてやるのはこっちの役目だ。もう許してくださいって懇願するほど、滅茶苦茶にしてやるよ』


「あんた、ホントに最っ低ね」


 シルヴィさんは通話石を俺の手へ戻し、加護の腕輪を付け直してくれた。でも、俺の顔を覗き込みながら不適に微笑んでいる。


「リュシー、動けないのよね? ってことは、何をしてもいいってこと?」


「は? ちょっと……」


 両頬を押さえられたが、何か固い物が当たっている。


「何を持ってるんですか?」


「知りたい? リュシーが今、一番ほしい物。多分、あの()が持ってるんじゃないかと思ったら大当たり」


 そう言って、通話石へ視線を向ける。


「聞いてる? 魔導師のあの娘が、腰の革袋に入れていた方は偽物でしょ? 本物は首から提げてたこっち」


 指に摘まんでいるのは、紐付きの小さな瓶だ。中には白く濁った液体が揺れている。


『ほぅ。良く見付けたな』


「シルヴィさん。それって、まさか……」


「ん? 解毒薬」


 あっさりと言い放つ。


「それが本物っていう確証はあるんですか? どっちも偽物かも」


「やりかねないわよね……でも、毒粉塵まで持たせてたのよ。万が一を考えて、解毒薬も渡してるはずでしょ?」


 なぜか小悪魔のような笑みを浮かべる。


「どう? あたしと心中してみない?」


「絶対しません」


 伸るか反るかの大博打。勝利の女神がいるのなら、今すぐここへ降りてこい。

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