↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/394

08 逃走と遭遇


 盆地の底へ飲み込まれるように、馬車が小さくなっていく。それを視界の隅に捉え、アルバンと緩やかな斜面を下っていた。


 鬱蒼と生い茂る木々が陽光を遮り、まだ日没までは時間があるというのに薄暗い。空気は湿り気を帯び、遠くからは絶え間なく轟音が響いてくる。


「オーヴェル湖にあるっていう、滝の影響か……」


 大気を震わせるその音は、まるで巨大な魔獣の唸り声のようだ。


 不意に、レオンの顔が頭をよぎる。


 もしあいつなら、こんな湿地帯を正面から進まない。もっと高所を使うか、敵の退路を先に断つ。あるいは、自分だけ先行して情報を拾いに行くか。


 真正面からぶつかるより、相手が嫌がる形を選ぶ男だ。


「腹が立つほど合理的なやつだからな……」


 ひとりつぶやきながら、薄く笑みが浮かんでしまう。


「にしても歩きにくいな。地面がぬかるんでるのは、滝が近いのと関係があるのか?」


「そうでしょうね。この盆地も、長い年月を掛けて滝の水が地形を削った結果だと聞きました」


「へぇ。自分の街でもねぇのに詳しいんだな」


 前を歩くアルバンの背へ声を投げると、少し照れくさそうに笑った。


「旅先の成り立ちを調べるのが好きなんですよ。歴史とか、名物とか。美味しい店の情報なんかは、みんな喜びますし」


「それは確かに女性受けしそうだな」


 知的で顔も整っている。冒険者にしておくには惜しい男だ。


「まぁ、モテそうではあるな」


「どうでしょう。僕は元々、リーズに押し切られて旅に出た側なので」


「どこの冒険者も女に弱ぇんだな」


 思わず笑うと、アルバンも肩を竦めた。


「リーズを助けたら、冒険者は辞めます」


「まぁ、それも生き方のひとつだ。こんな命がけの仕事、いつまでも続けられねぇしな」


 そう返したところで、アルバンがふと足を止めた。


「碧色さんは、どうして冒険者を?」


 振り返った視線が真っ直ぐこちらを見ている。


「兄貴を探してる。でも、本当の目的は別なんだ」


 腰の竜骨剣へ視線を落としながら続けた。


「竜を探してる」


「実在するんですか?」


「さぁな。でも、だからこそ追い掛ける価値と浪漫がある」


「がう?」


 相棒のラグは、俺の左肩の上で首を傾げる。

 こいつの存在があるからこそ、伝説を否定する気になれない。


「無事に見付けられると良いですね」


「あぁ。きっと見付けてみせる」


 それから一時間ほど歩き続け、ようやく盆地の底が見えてきた時だった。


「あれは?」


 木々の隙間から外界を覗いた瞬間、視線が止まる。街へ続く用水路と並木道。その先に広がる廃墟の外周を、一台の馬車が移動していた。


「俺たちが乗ってきた馬車か……」


「恐らく、Gの差し金です。碧色さんを探しに行かせたんでしょう」


「思った通りか」


 街道を登っていく馬車を見送りながら、小さく息を吐く。


 少なくとも数人は外へ出た。街に残る戦力は減っているはずだ。


「攻めるなら今か」


 ニコラとカロルを除けば、敵は残り四人だ。


 一団を仕切るボスで、Gと呼ばれる剣士。アンナを傷付けた剣士のC。大剣使いのM。そして、女性魔導師のD。


 一気に踏み出そうかと思案していた矢先、横手の茂みが大きく揺れた。


「がううっ!」


「は!?」


 ラグの警戒声と同時に飛び出してきたのは、ワニ型魔獣クロコディルだ。しかも、全長四メートル級が五体。


「なんでこんな所にいやがる」


 主な生息域は南方の熱帯地帯だ。湿地だからといって、ここに現れる魔獣じゃない。

 慌てて竜骨剣を抜き放つ。


「気を付けろ。外皮は斬撃が通りにくい。口の中か腹を狙え」


「わかりました」


 アンナに聞いた撃退法を思い出しながら、アルバンに叫ぶ。


“あんなの楽勝だよ。口の中を狙って、矢を打ち込むだけでいいんだから”


 簡単に言ってくれたものだ。こっちは近距離戦しかできない。


「しかもこいつら……」


 話している最中だろうが、魔獣にとってはお構いなしだ。

 先頭の一体が地面を蹴り、俺の腹部を目掛けて跳躍してくる。


「うおっと」


 横へ飛び退くと、クロコディルは勢いそのままに大木へ噛み付いた。

 嫌な音が響き、太い幹が抉り取られる。


「牙と突進に気を付けろ。踏ん張った瞬間が合図だ」


 下敷きにされたら終わりだ。

 続けて飛び込んできた別個体へ、今度はこちらから踏み込む。


「まぁ、一番いいのは……これだ」


 回避と同時に右脚を蹴り上げた。

 腹部へ叩き込まれた一撃で、魔獣の体勢が崩れる。


「ふっ!」


 その喉元へ、体重を乗せた突きを繰り出す。

 乳白色の腹部は柔らかい。刃は抵抗なく肉を裂き、そのまま内臓を断ち切った。


「まずは一体。って、おい!」


 視線を向けた先で、アルバンがクロコディルに左腕を噛まれていた。


「問題ありません!」


 噛み付かれたまま、剣を口内へねじ込む。

 後頭部から刃先が突き抜け、魔獣は痙攣しながら崩れ落ちた。アルバンは何事も無かったように腕を抜き、篭手(こて)で守られた左腕を見せてきた。


「無茶すんな」


 這い寄ってきた別個体の目へ剣を突き刺し、そのまま蹴り飛ばす。


「うおっと……」


 体勢を崩してよろめくと、踵が何かに当たった。


「は?」


 振り返って絶句する。そこにいたのは、新たなクロコディルが五体。


「多すぎだろ……」


 完全に縄張りの真ん中へ入り込んだらしい。さすがに付き合いきれない。


「アルバン、逃げるぞ」


「ちょっと、碧色さん!?」


「この数を相手してたらキリがねぇ」


 閃光玉も魔法石も使えない以上、長引かせる方が危険だ。


 アルバンを先行させ、大木を盾にしながら一気に森を抜ける。

 並木道まで飛び出したところで、ようやくクロコディルたちは追跡を諦めたようだった。


「はぁ……はぁ……」


 隣で肩を上下させるアルバンが、不思議そうにこちらを見てくる。


「碧色さんでも……逃げることあるんですね」


「当たり前だろ。無駄な戦いはしねぇ主義だ」


 剣に付着した血を払い、鞘へ収める。


「なるほど……僕らの場合、モーリスが負けず嫌いで」


「あぁ。苦労してそうだな」


 そう返すと、アルバンは小さく笑った。


「でも、仲間想いなんですよ」


「良い競争相手って感じだよな」


「いえ。僕では敵いませんよ」


「じゃあ、リーズもあきらめるのか?」


「え!?」


 アルバンの顔が赤いのは、夕日のせいだろうか。


「男なら、大事な物は自分の手で守らなきゃダメなんだとさ」


「誰の言葉なんですか?」


「小さな師匠の受け売りだ」


 エリクの顔が浮かび、思わず口元が緩んだ。


「小さな師匠?」


「まぁそういう意味じゃ、おまえに言われた悪魔にだってなれる、ってのと根本は一緒だな……自分から勝負を降りるような真似だけはするなよ」


「そうですね」


 アルバンが静かに頷く。しかし次の瞬間、その表情が鋭く変わった。


「誰か来ます」


 つられて並木の奥を覗き込むと、ひとりの男がこちらへ歩いてきているのが見えた。

 腰に提げた剣が揺れ、軽量鎧(ライト・アーマー)が夕日を照り返す。


「剣士か?」


 アルバンが小さく息を呑んだ。


「ニコラ……」


「は? あいつが?」


 金髪に色白の青年。おそらく北方出身者だろう。人懐こい顔立ちは、とても危険人物には見えない。

 男は迷いなくこちらへ近付き、数メートル手前で立ち止まった。


 俺はいつでも抜けるよう、剣の柄へ手を掛ける。


「アルバン君、いるんでしょ?」


 柔らかな声だった。


「隠れてないで、出ておいでよ」


 どうして俺たちの存在がわかったのか。

 頭の中を困惑が埋め尽くしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。