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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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06 眠れぬ夜


 弓使いと戦士、そしてメラニー。三人の遺体を並べ、せめて火を放って供養しようと提案した時だった。


「こいつらに、そんな価値はねぇ」


 モーリスは男ふたりを見下ろし、吐き捨てるように言った。アルバンもまた、無言で頷く。


 そこまで言われては、命を狙われた相手に義理立てする気も失せる。

 結局、供養したのはメラニーだけだった。


 大司教であるジョフロワがいれば、まともな弔いもできただろう。しかし、無い物ねだりをしても仕方がない。


 火葬を終えた後、剣で地面を掘り返し、魔法石で周囲の土を吹き飛ばす。できた穴へ遺骨を埋め、簡単な塚を作った。クロードを一緒に埋葬してやれなかったことだけが、心残りになってしまった。


 その後、俺たちは敵の馬車を拝借することになった。


 だが、さっきまであいつらが欲望をぶちまけていた荷台へ、そのまま転がり込む気にはなれない。せめてもの抵抗として、敷かれていた絨毯を裏返し、毒で動けないアルバンを寝かせた。


「本当なら、夜明けまで馬を休ませたいところだけどな……」


 木陰で息を整える馬たちを見る。だが、こちらには時間がない。


 モーリスが御者台(ぎょしゃだい)へ乗り込み、馬車は夜の街道を静かに走り始めた。


 荷台では、アルバンが苦しげに息を荒げている。俺は荷台の端に座り込み、膝を抱えたまま、自分の両手を見つめていた。


 モーリスには休めと言われた。けれど、とても眠れる気分じゃない。


 脳裏へ浮かぶのは、戦斧(バトルアクス)の男が最後に見せた顔だ。


 血走った目。歯を剥き出しにした殺意。

 あの瞬間の憎悪が、焼き付いて離れない。


「碧……しょくぅ……殺す!」


 耳の奥で、何度も声が蘇る。


 みんな、こんな光景を越えてきたのだろうか。


 フェリクスさんも。シルヴィさんも。


「それに、あいつも……」


 レオンなら、きっと振り返りもしない。


 迷う俺を見れば、甘いと吐き捨てるはずだ。


 それに、前へ進む以上、同じことは何度でも起こる。


 その度に立ち止まっていたら、誰かを守れるはずがない。


「きゅうぅん……」


 ラグが腕へ飛び乗り、心配そうに顔を覗き込んできた。


 慰めようとしてくれているのだろう。その健気さに、少しだけ口元が緩む。


 ふと、仲間たちのことが頭をよぎった。


「シルヴィさんからの連絡もない」


 追撃を振り切るのに必死で、魔導通話石を切ったのは失敗だったかもしれない。連続使用は八時間程度だ。魔力石で補充しなければ、それ以上は保たない。


「あの人が、持ってるとは思えねぇ」


 酒だけは欠かさず持ち歩くのに、余計な荷物は嫌う人だ。


 脳裏に浮かぶのは、胸当てを持ち上げながら笑う姿。


『胸が重いから肩が凝るのよ。これ以上ひどくなったら戦えないわ』


 絶対に、荷物を持ちたくない言い訳だ。せめてレオンと一緒にいてくれれば、あいつの魔力で通話石が使えるのだが、望みは薄いだろう。


「碧色。起きてるか?」


 御者台から、モーリスの声が飛んできた。


「そういや、言っておくことがあった」


「なんだ?」


「AとBの加護の腕輪、回収してたよな。死んだ仲間の腕輪は、何があっても持ち帰れって言われてんだ」


「身元隠しか」


「多分な。俺たちの腕輪は取り上げられたんだ。魔力障壁(プロテクト)なんてない方が、死に物狂いで戦うだろう、とか言われてさ……最悪だ」


 吐き捨てるような声だった。この一件に関わる連中への憎しみが、隠しきれていない。


「本当は調べに回したかったんだけどな……」


 これだけの騒ぎを起こす連中だ。ここで確実に潰しておきたい。


 だが、仕方ない。


 御者台へ近付き、回収していた腕輪をモーリスに手渡した。


「偽物にすり替えりゃいいんだろうけど、そんな都合の良いものもないしな」


 申し訳なさそうに道具袋へしまうモーリスを見ながら、ふと疑問が浮かんだ。


「そういえば、全部話すって言ってたよな。ジュネイソンに着く前に聞いておきたい」


「長くなるぞ?」


「時間はたっぷりあるだろ」


 御者台の脇へ腰を下ろと、モーリスは半年前の話を始めた。


 アルバンとモーリスは、五人で冒険を続けていたらしい。二人の幼馴染みでもある弓使いのリーズ。そして旅の途中で出会った、男性剣士のニコラと女性魔導師のカロル。


 目的は、リーズの母が患った難病を治す秘薬探し。その途中で立ち寄ったのが、ジュネイソンだった。酒場で、マリーの噂を聞きつけたのだという。


「藁にもすがる思いだった。本当は竜を探そうと考えてたんだ……でも、伝説の存在が簡単に見付かるはずもねぇ」


 聞き慣れた言葉に、胸の奥が騒いだ。


「どうして竜を……」


「ああ。俺たちの村じゃ、叡知(えいち)を授ける神みたいに語られてたからな。けど旅をしてわかったんだ。実際は悪魔みてぇな存在だって……もう最悪さ」


「悪魔?」


「そうだろ。すべてを焼き尽くす吐息(ブレス)に、化け物じみた牙と爪。魔獣の王だとか、破壊の化身だとか……誰に聞いてもそんな話ばっかだ」


「おまえ、その話をどこで?」


「どこって、この辺りじゃ誰に聞いてもそう答える。村の伝承は嘘なんだよ」


 違和感が残る。


 モーリスの故郷でも、竜は神聖視されていた。なのに、外へ出れば真逆の扱いを受けている。地域によって伝承が違うだけなのか。それとも、二種類の竜が存在したとでもいうのだろうか。


「悪い。続けてくれ」


 話の続きを促した。


 マリーの両親であるアルシェ夫妻を訪ねてみると、娘を取り戻してほしいと懇願されたのだという。


 その一方で、大司教の計画も進行していた。ジュネイソンを襲撃し、マリーを知る者を皆殺しにする。そのために雇われたのが、この騒動を起こしている六人の冒険者だった。


 そして、モーリスたちが動き出す前夜。街は魔獣の群れに襲われた。


 混乱の中、アルシェ夫妻の家へ踏み込んできた六人に、モーリスたちは制圧されたという。


「街の連中は皆殺し。けど俺たちは冒険者だったから、生かされた」


 そのままアジトへ連行され、利用され続けた。


「そこからは本当に最悪だった……奴隷のような日々の始まりだ」


 悔しさを含んだ、大きな舌打ちが響く。


「そこで上手く立ち回ったのがカロルだ」


 モーリスが苦々しく顔を歪める。


「体を使ってリーダーに取り入りやがった。ニコラは、あいつに惚れてるってのによ」


 複雑な関係らしい。


「リーズを人質にしろって言い出したのも、多分カロルだ。あいつはリーズの容姿や性格に嫉妬してたからな」


 やがて六人は、大司教そのものへ牙を剥いた。マリーの癒やしの力を知ってしまったからだ。戦力にもなる。金にもなる。そんな存在を、放っておくはずがない。


 その結果が、寺院襲撃。しかし、モーリスたちを含めた十人掛かりでも、寺院は落とせなかった。


 二度の失敗で警護はさらに強化され、先日の魔導師集団が集められたというわけだ。


「だから、別の手段を取った」


 クロードとメラニーという仕掛け人を作り、大司教の包囲網を打ち崩す戦士を探していたらしい。


「それが俺か」


「ああ。強けりゃ誰でもよかった。そいつを犯人に仕立てて、大司教ごと消すつもりだった」


 完全に貧乏くじだ。しかも、クロード経由でこちらの動きは筒抜けだった。


 俺たちが寺院へ踏み込む日程に合わせ、魔導師のカロルと、女性魔導師のDが、護衛にすり替わっていたという。俺たちは、知らないうちに敵の計画へ組み込まれていたというわけだ。


「想定外だったのは、あんたが強すぎたことだな」


「褒めてるのか、それ」


「褒めてるさ。俺とアルバンの救世主様だ」


「で、どうしてジョフロワまで攫ったんだ?」


「単純さ。マリーが、大司教に懐いてたからだ」


 崇拝するジョフロワを人質にされては、マリーも逆らえない。

 とことん、やり口の汚い連中だ。


「敵は残り四人、だったか。ニコラとカロルは信用できるのか?」


「ニコラは大丈夫だ。カロルは敵だと思った方がいい。どの道、あいつとは縁を切る」


 夜風が吹き抜ける。


 待ち伏せされている以上、この先も簡単には進めないだろう。


 気を抜けば、足元を掬われる。


 眠れぬまま、馬車はジュネイソンの廃墟へ向かって進み続けた。

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