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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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04 裏切りの刃と、踏み越える覚悟


 アルバンとモーリスと名乗る剣士たち。力を貸してほしいと言われても、すぐに信用できる話じゃない。


「向こうにふたりいる、って言ったよな。おまえらで対処できねぇのか?」


「ですから、こうしてお願いしているんです。恐らくランクA相当の力量がある上に、ひとりは魔導通話石を持っています。もし本隊に知られれば……」


 人質になっている仲間が危ない、ということか。


 必死に訴えるアルバンの様子に、嘘の気配はない。モーリスの苛立ちも芝居には見えなかった。


「確認させてくれ。ふたりいるってことは、全部で四人か?」


「いえ、正確には五人です。戦力には数えませんが、メラニーさんが馬車に……クロードさんは、ここへ来る途中で始末されました」


「始末って、仲間なんだろ?」


 アルバンは顔を歪め、視線を落とした。


「あのふたりは無関係なんです。金で雇っただけの街人ですから……」


「金で雇った?」


 大司教の話と繋がる。ふたりが偽物の親を演じていたということか。


 思案していると、モーリスが落ち着きをなくし、施設の奥へ目をやった。


「おい、時間がないぞ。戻りが遅いと警戒される。やるなら、さっさとやっちまおう」


「わかってる……」


 ふたりの緊張が伝わってくる。逃げではない、踏み込む覚悟の目だ。


「モーリス。手筈通りに。うまく、ビーを誘い出して」


「ビー?」


「あ、彼等はイニシャルで呼び合うんです。弓使いがA、戦士がB」


 アルバンは視線で奥を示した。


「ここからおよそ五分。宿舎の死角に馬車があります。弓使いは毒矢、戦士は戦斧(バトル・アクス)。気を付けてください」


 毒矢。ナルシスを撃った奴か。


「じゃあ、そっちのモーリスが戦士を誘い出した隙に、弓使いを倒せばいいんだな」


「手際よく頼むぜ。俺も、そう長くは誤魔化しきれないからよ……」


 このモーリスという男。野性的で粗暴な雰囲気だが、どこか頼りない。

 面倒な話だが、ここで見捨てる選択肢はない。


「仕方ねぇ。協力してやる。その代わり、全部終わったら話は聞かせてもらうぞ」


 重い溜め息が漏れるが、敵が内部分裂していたのは嬉しい誤算だ。

 ふたりに見えない位置で構えていたスリングショット。そこから魔法石を外し、ベルトに戻した。


 宿舎を回り込み、馬車があるという場所へ向かう。


 アルバンの話では、グラセールで足を失えば馬を求めてここに来る、そこまで読まれていたらしい。


 完全に誘い込まれていた。仮に街道を逸れて進んでいたとしても、別働隊が馬を走らせているという。


 アルバンと共に木陰へ身を潜め、モーリスの動きを見送る。

 馬は外され、近くの木へ繋がれている。油断しているのは間違いない。


 荷台の中で魔力灯を使っているのだろう。幌越しに漏れる灯り。浮かび上がる三つの影が、いやらしく揺れていた。

 胸の奥に、嫌なものが沈む。


 モーリスが馬車へ駆け寄る。予定通りなら、俺を見つけて足止めされていると報告しているはずだ。


 やがて出てきたのは戦士だけだった。上半身裸で、戦斧を担いだ巨体。


 ふたりの姿が消えるのを待ち、入れ替わるように馬車へ近付く。


 息を殺し、荷台へ身を寄せた。


 聞こえてくるのは、男の荒い息と、女のすすり泣き。


「おまえは用済みだ。俺の視界から、さっさと消えちまいな」


 荷台が軋む。それはきっと、メラニーが堪える心の悲鳴だ。

 すると、全裸の女性が荷台から駆け出してきた。後ろ姿しか見えないが、おそらくメラニーだろう。


 その背中に、乾いた音が響く。


「あぁっ!」


 彼女の背に矢が突き立ち、崩れ落ちた。


「おほっ、命中〜」


 ズボンを履きながら現れた男が、クロスボウを脇に抱えて愉快そうに笑う。


「素直に逃がすわけねーだろっての。用済みなんだからよ」


 クロスボウを小脇に抱え、呑気にベルトを締める弓矢使い。


 考えるより先に、体が動いていた。

 隣で袖を引くアルバンを振りほどき、剣を構える。こいつも加護の腕輪をしていない。即座に制圧できる。


 鞘に収めたままの剣を振り上げ、そのまま後頭部へ叩き込む。


「があっ!」


 手応えはあった。だが、倒れない。


「は?」


 自分の目を疑った。なぜ、立っていられるのか。

 首筋を押さえた弓矢使いの目が、俺とアルバンを捉える。


「碧色の閃光!? 裏切ったのか!」


 クロスボウがこちらを向く。だが、その動きは想定内だ。


 氷の魔法石を叩きつけた。冷気が爆ぜ、クロスボウごと右肩までを凍り付かせる。


「はひっ!?」


 男の右足首から淡い光が漏れている。どうやら腕輪を足首へ嵌めているらしい。

 割と強力な魔法石だったが、腕一本しか封じられなかった。それだけ強固な魔力障壁(プロテクト)を持っているということだ。


「はひいっ!?」


 弓使いは慌てふためき、ポケットへ左手を差し入れる。まだ動く気か。


「がう、がうっ!」


 ラグが警戒を促す叫びを上げた。


「無駄だ」


「ふざけんなっての!」


 男は何かを地面へ叩き付けた。白煙が一気に広がる。


「てめぇら、絶対に殺してやるからな」


 男の足音が遠ざかる。


「碧色さん、このままじゃ!」


「分かってる。追うぞ」


 煙幕玉か閃光玉を使うことは想定済みだ。

 用意しておいた風の魔法石を白煙の中へ投げ付けた。


「ぬおっ!」


 突風が吹き荒れ、弓使いが転倒。白煙を即座に散らす。


「待て、助けてくれって!」


 男は油断させる素振りをしつつ、左手で短剣を投げてきた。

 軽く上体を捻って避ける。


「クロードとメラニーの恨み。それから、ナルシスの分」


 振り下ろした一撃が、男を地面へ叩きつけた。男の腕輪から、ガラスが割れたような警告声が漏れる。


「まずはひとりか」


 息を吐くと、背後に殺気が生まれた。


「あぶねぇ!」


 慌てて飛び退くと、魔獣のような形相で剣を構えるアルバンがいた。その刃が、弓使いの首を刎ねる。


「そこまでする必要があるのか!?」


 すると、冷たい目で睨まれた。


「甘いですよ」


 静かな声。


「あなたにとって大切なものはありますか」


 答えを待たず、続ける。


「それを守るためなら、すべてを捨てる覚悟が必要です。時には、悪魔にだってなる」


 その言葉が、胸の奥に突き刺さる。


 否定できない重さだった。


 もし、あいつがここにいたら。


 ふと、そんな考えがよぎる。


 レオンならどうする。


 答えは、考えるまでもない。


 躊躇なく斬る。


 情けも、迷いも挟まずに。


 情報を引き出すだの、見逃すだの。そんな選択肢は、最初から存在しない。


 “ぬるいんだよ”


 聞こえた気がした。


 あの、鼻で笑うような声が。


「ちっ……」


 無意識に奥歯を噛み締める。


 わかってる。


 あいつのやり方が、正しい場面もあることくらい。


 でも、それでも。


 全部を切り捨てるような真似は。


「俺には、まだ無理だ……」


 小さく吐き出した言葉は、誰に向けたものでもない。


 それでもアルバンは、わずかに目を細めた。


「何か言いましたか?」


「なんでもねぇ」


 首を振り、魔剣を握り直す。


 やり方は違ってもいい。


 だが、守るものは同じだ。

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