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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.05 ジュネイソンの廃墟編

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03 囮の策。森で交わる思惑


「ここまで来れば、とりあえず大丈夫だろ。少しは時間を稼げるはずだ」


 街道を大きく外れ、鬱蒼とした森の奥へ踏み込む。大木に遮られ視界は利かないが、追跡を振り切るには十分だ。


 偶然見つけた小川のほとりで下馬すると、びゅんびゅん丸は堪えきれない様子で水へ顔を寄せ、一気に飲み始めた。その音を背に、周囲を警戒しているアンナを伺う。


「どうにか振り切れたからいいものの、なんで魔法石を使わなかったんだ」


「え?」


 ぽかんとした顔。というより、呆れている。


「リュー兄(にい)、それ本気で言ってる?」


「なにが?」


 盛大な溜め息が返ってきた。


「街で火の手が上がったの、リュー兄が放った魔法石のせいでしょ。衛兵にまで使ったら、私が犯人です、って言ってるのと同じじゃん」


「あ……」


「ほんともう。勢いだけで突っ走るんだから。もう少し慎重にね」


「悪い……」


 まさかアンナに説教されるとは思わなかった。


「そういう所、全然変わってないね。アンナがいなかったら捕まってたでしょ。まだ完全に振り切ったわけでもないしさ」


「そうだな。鉱石と魔法石の産出地だ、重要拠点ってわけか。思ったより手練れが揃ってた」


 馬上で狙いにくい状況とはいえ、アンナの攻撃を凌いだ騎兵が五騎。振り切ったとはいえ、追撃を諦めるとは思えない。


「あの五人、なかなかだよ。特に先頭の人。腕章が見えたから衛兵長だと思うけど、油断できないね」


「連射すればどうだ? おまえの夢幻翼(レーヴ・エール)、魔力の矢だから打ち放題だろ」


 言いながら、アンナが手にするクロスボウに視線を落とした。


「確か、大型の魔力石を装填すれば百発はいけるって……」


「そういうことは良く覚えてるんだね」


「羨ましいから、より鮮明に記憶してただけなんだけどな」


「魔力石って高いじゃん。節約してるんだよ。連射なんて軽々しく言わないで」


「確かに……」


 俺も、竜の力が不足した際にに使うことがある。その価値は嫌というほどわかる。


「でも節約なんて言ってたら、いつまで経ってもジュネイソンに着かないよね……」


「やっぱり戦うしかねぇか」


 できれば誰も傷つけたくはない。だが現実は甘くない。


「あ、いいこと思いついた」


 手を打つ音に、びゅんびゅん丸とラグが同時に顔を上げる。


「アンナがびゅんちゃんに乗って囮になる。リュー兄は先に行って」


「囮? どうやって?」


「任せて」


 アンナは周囲の枯れ木を拾い集め、手早く十字に組む。


「ナル君と野宿したんだよね? びゅんちゃんの鞍の荷物に外套(がいとう)あるよね。一枚ちょうだい」


 外套を被せると、即席の人形ができあがった。


「なるほど。俺に見立てるってわけか。やるな」


「でしょ? もっと褒めて! 逃げ切れたら甘いもの追加ね」


「おう。好きなだけ食え」


 満面の笑みを見せるアンナ。その背で、作戦の残りを詰める。


「逃げる先はヴァルネットだ。フェリクスさんに会えれば庇ってくれる。ダメなら衛兵長のシモンだ。捕まっても話は通じる。悪いようにはしねぇだろ」


「シモンさん?」


「大森林で会っただろ。俺の名前を出せ。とぼけるようなら、この呪文を使え。あいつの目を見て、ドンブリって言うんだ」


「ドンブリ? なにそれ」


「奴の精神を崩壊させる呪文だ」


 即席人形と共にびゅんびゅん丸へ跨がるアンナ。その様子を見守りながら、白馬の首筋を軽く撫でた。


「主人が心配だろうけど、もう少しだけ力を貸してくれ」


 ナルシスは、十六歳の祝いに父から買い与えられた馬だと言っていた。それからはずっと、あいつが面倒を見ているらしい。兄弟のように育った相棒だ。


「リュー兄も気を付けてね。ひとりで寂しくても寂しくても泣いちゃダメだからね」


「泣くか! さっさと行け」


 笑いながら手を振るアンナ。西日がその背を柔らかく照らす。


 これで追撃は分散できる。


 シルヴィさんとレオン。あのふたりなら、切り抜けてくるはずだ。エドモンたちも街へ潜り込めただろうか。


※ ※ ※


 薄闇を切り裂くように警笛が響く。


 しかし、びゅんびゅん丸を失ったのは痛い。グラセールからジュネイソンの廃墟へも、ジュネイソンまでは馬車で一日半。遅れるほど、大司教とマリーの命が危うくなる。


 街道沿いを急ぎながら、思考を巡らせる。

 それにしても、ふたりを攫った理由がわからない。マリーの外見と癒やしの力が目当てなら納得できるが、大司教の必要性が見出せない。


「やっぱり金か」


 大司教を盾にすれば、教団からの身代金は容易に引き出せる。


「じゃあ、どうして俺が狙われる」


 答えは出ないまま、視界にひとつの建物が入った。野営施設だ。


 思わず足を止める。


 馬を借りるだけで大きく前進できる。

 だが、それは誰かの足を奪うという罪悪感もある。


「少しだけ、借りる」


 自分に言い聞かせるように呟き、馬車置き場へ近づく。二台の馬車と六頭の馬。好都合すぎる状況に、逆に警戒が強まる。


「ごめんなさい」


 手綱へ腕を伸ばした時だった。


「ちっ!」


 背後に気配が生まれた。

 咄嗟に茂みへ飛び込む。転がるように体勢を立て直し、魔剣へ手をかける。


 影はふたつ。鎧姿の男。野営施設の利用者がどうかは怪しい。


「がるるるる……」


 ラグの低い唸りが空気を張り詰めさせる。


 こちらが不利な位置だが、ふたりなら対処できる。


 待ち伏せを気付けなかった自分に舌打ちした。


「待ってください。戦うつもりはありません」


 片方の男が剣を収め、両手を上げる。


「ほら、おまえも」


 もうひとりも渋々それに倣った。


 油断はしないまま、茂みから姿を現す。


 俺とほぼ同年代だろう。端正な顔立ちの男と、不機嫌で無気力そうな男だ。


「俺を知ってるのか」


「はい。碧色の閃光……リュシアンさんですよね」


 端正な顔立ちの男が名乗る。


「私はアルバン。こっちはモーリス。あなたと同じ冒険者です」


「おい、本名を出すな!」


「信頼を得るには必要だ」


 噛みつくモーリスを制し、アルバンは続けた。


「大司教様と少女を攫った連中に、仲間を人質に取られています。あなたの力を貸してほしい」


「その一味の仲間じゃねぇのか」


 手を挙げるふたりに加護の腕輪が見当たらない。意図的に外しているのだろう。身元が割れ、犯罪に荷担したと知れれば、冒険者ギルドから即座に除名処分される。


「違います。従わされているだけです」


「信用できる理由は?」


「向こうに、奴らの仲間がふたりいます。仕留めた後で、すべて話します」


「アルバン、本気か」


「他に手がないだろ」


 言い争うふたりを見ながら、静かに息を吐く。


 面倒な匂いしかしない。

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