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04 協力者との共闘


 アルバンとモーリスと名乗る剣士たち。力を貸して欲しいと言われても、信用できない。


「向こうにふたりいる、って言ったよな。おまえらで対処できねぇのか?」


「ですから、こうしてお願いしているんです。恐らくランクA相当の力量がある上に、一人は魔導通話石を持っています。もし、本隊に知れるようなことになれば……」


 人質に捕られている仲間の命が危ない、ということか。


 必死に訴えてくるアルバンを見るに、嘘をついているとは思えない。モーリスも本名を晒すなと怒っていたが、芝居ではなさそうだ。


「確認させてくれ。ふたりいるってことは、併せて四人だな?」


「いえ、正確には五人です。戦力とは見なしませんが、メラニーさんが馬車へ同乗しています。クロードさんはここへ来る途中、始末されました」


「始末って、仲間なんだろ?」


 アルバンは悲しみに顔を歪めてうつむいている。


「あのふたりは無関係なんです。お金で雇っただけの街人ですから……」


「金で雇った?」


 つまり、大司教が言っていたことは真実で、ふたりが偽物の親を演じていたということか。始末されたということは用済みというわけだが、どうしてクロードだけが。


 思案していると、落ち着きを無くしたモーリスが、野営施設の奥へ視線を向けた。


「おい、アルバン。のんびり話してる時間はないぞ。戻りが遅いと警戒される。やるなら、さっさとやっちまおう」


「分かってる……」


 茂み越しにも、二人の緊張がはっきりと伝わってきた。挑むようなこいつらの眼差しは、決意に満ちた本気の目だ。


「モーリス。さっき打ち合わせた通りに頼むよ。うまく、ビーを誘い出して」


「ビー?」


 変わった名に、思わず反応してしまう。


「あ、彼等はイニシャルで呼び合うんです」


 そう言って、野営施設の奥へ視線を投げるアルバン。


「ここからおよそ五分。宿舎の死角に我々の馬車が停まっています。中には、弓矢使いのAと戦士のB。弓矢使いは毒矢を使います。戦士は大きな戦斧バトル・アクス。気を付けてください」


 毒矢。恐らく、ナルシスを襲った相手か。


「じゃあ、そっちのモーリスが戦士を誘い出した隙に、弓矢使いを倒せばいいんだな?」


 あいつの怒りも込めた一撃を見舞ってやる。


「なぁ、手際よく頼むよ。俺も、そう長くは誤魔化しきれないからよ……」


 このモーリスという男。見た目は野性的で粗暴な雰囲気だが、どこか頼りない。


「仕方ねぇ。とりあえず協力してやるとするか……後で話を聞かせてもらってから、その後のことは考える」


 重い溜め息が漏れるが、敵が内部分裂していたのは嬉しい誤算だ。

 ふたりに見えない位置で構えていたスリングショット。そこへつがえていた魔法石を外し、ベルトへ差し戻した。


 その後、宿舎を通り過ぎ、馬車が停まっているという場所へ急いだ。


 アルバンの話では、弓矢使いの指示で俺を待ち伏せていたのだという。グラセールの騒動で足を失えば、必ず馬が必要になると。


 悔しいが、まんまと敵の思惑に填まってしまった。仮に街道を逸れて進んでいたとしても、大司教とマリーを連れている別働隊が馬を走らせ、俺を探しているらしい。


 言葉を交わしながらアルバンと二人で木陰に身を潜め、馬車へ走るモーリスを見送った。

 馬は外され、近くの木へ繋がれている。あいつらも完全に気が緩んでいるはずだ。


 恐らく、荷台の中で魔力灯を使っているのだろう。かろうじて視認できる仄かな明かりが闇夜へ浮かび、幌へ映し出すのは三つのシルエット。規則的な動きを繰り返し、踊るように妖しく蠢き続ける。

 その光景に、嫌悪感を覚えざるを得なかった。あいつらは、メラニーを相手にお楽しみ中というわけだ。


 馬車の荷台へ駆け寄るモーリス。手はず通りなら、宿舎の向こうで俺を見付け、アルバンが足止めをしていると報告しているはず。


 女好きである弓矢使いは、絶対に戦士へ頼むという彼らの判断は正しかった。馬車から出てきたのは戦士のみ。鍛え抜かれた上半身の肉体を晒し、ズボンにブーツという軽装。肩へ担いだ巨大な戦斧が異様に目立っている。


 ふたりが見えなくなるまで待ち、入れ替わるように馬車へ近付いた。


 息を殺して、荷台へ背を付けしゃがみ込む。幌から漏れてきたのは、男の荒々しい息づかいと、すすり泣く女の声。


「おまえは用済みだ。俺の視界から、さっさと消えちまいな」


 荷台が軋む悲鳴を上げた。それはきっと、メラニーが堪える心の悲鳴だ。

 すると、全裸の女性が荷台から駆け出してきた。後ろ姿しか見えないが、おそらくメラニーだろう。


 アルバンはふたりを金で雇ったと言っていたが、本当の夫婦だという。旦那を殺された悲しみは計り知れない。そういう意味では、この夫婦も被害者だ。これから先の彼女を思うと、やりきれなくなってきた。


「あぁっ!」


 その時だ。闇夜に似つかわしくない射出音が響いた。全裸の女性は苦悶の声を上げ、うつ伏せに倒れる。


「おほっ、命中〜!」


 慌ただしくズボンをはく音と共に、裸足でクロスボウを手に飛び出してきた男。倒れたメラニーを眺め下ろし、肩を揺らして笑う。


「うひっ! 素直に逃がすわけねーだろっての。言ったろ。用済みだって」


 クロスボウを小脇に抱え、呑気にベルトを締める弓矢使い。


「せめて、アッチの具合が良ければ生かしておいても良かったんだけどさぁ……なぁんか、色々ダメだわ」


 矢は、背後から胸を射貫いている。どう見ても助からない。


 考えるより先に、体が動いていた。隣で袖を引いていたアルバンを振りほどき、腰に下げた剣を身構える。こいつも加護の腕輪をしていない。今なら即座に制圧できる。


 鞘に収めたままの剣を振り上げ、男の後頭部を目掛けて思い切り振り抜いた。


「があっ!」


 確かな手応えと共に、呻きを上げてよろめく男。だが、倒れることなく踏み止まる。


「は!?」


 自分の目を疑った。なぜ今の一撃を受けて、平気で立っていられるのか。

 首筋を押さえた弓矢使いは、何が起こったのか分からないといった顔で振り向き、俺たちの姿に目を見開いた。


「碧色の閃光!? 裏切ったのか!」


 弓矢使いは恨みがましい視線をアルバンへ向け、クロスボウを構えた。だが、その動きは想定内。俺は氷の魔法石を投げ付けた。


 弾けた石から冷気が(ほとばし)り、瞬く間にクロスボウごと、右肩までを凍り付かせた。


 男の右足首から淡い光が漏れている。どうやら腕輪を足首へ嵌めているらしい。そして、ランクA程度という情報も間違いない。割と強力な魔法石を使ったのだが、魔力障壁プロテクトを破るどころか、腕一本しか凍らせることができないとは。


「はひいっ!?」


 慌てふためき、ポケットへ左手を差し入れる弓矢使い。まだ抵抗するつもりか。


「がう、がうっ!」


 ラグが警戒を促す叫びを上げた。


「ムダだ。色々残念だったのは、てめぇの方だったみてぇだな」


「ふざけんなっての!」


 男は左手へ握っていた何かを地面へ叩き付けた。直後、視界へ広がる大量の白煙。これは煙幕玉だ。


「てめぇら、絶対に殺してやるからな」


 男の足音が遠ざかってゆく。


「碧色さん、このままじゃ!」


「分かってる」


 煙幕玉か閃光玉を使うことはお見通しだ。こちらは全ての仕込みを終えている。

 用意しておいた一つの魔法石を握り、白煙の中へ飛び込んだ。


「これでどうだ!」


 白色の魔法石が砕けた。突風が吹き荒れ、白煙を即座に散らす。


「ぬおっ!」


 風に煽られた弓矢使いが転倒。その間に敵との距離を詰め、鞘に収めたままの魔剣で男を狙う。


「待て、助けてくれって!」


 男は恐怖の色を浮かべながらも、左手で短剣を投げ付けてきた。

 だが、軽く上体を捻ってそれを避ける。


「クロードとメラニーの恨み。それから、ナルシスをやられたお返しだ」


 振り下ろした一刀が、男の背中を直撃。潰れた虫のように大の字に崩れると、足首に填めている腕輪から、ガラスが割れたような警告声が漏れた。


「まずは一人か」


 大きく息を吐くと、背後にいたはずのアルバンが、物凄い勢いで駆け込んできた。


「あぶねぇ!」


 慌てて飛び退いた直後、俺は見た。魔獣のような形相で剣を構えたあいつを。その刃が、倒れた弓使いの首を刎ねた瞬間を。


「そこまでする必要があるのか!?」


 すると、視線だけで射殺さんとばかりに、鋭い目つきで睨まれた。


「碧色さんは甘いですよ。あなたにとって大切な物はありますか? そのためになら全てを投げ打ち、悪魔にだってならなければいけない時があるんです」


 その一言が、余りにも重すぎて。俺の生き方すら強く批判するような眼差しに、胸の奥が小さく悲鳴を上げていた。

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