↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/394

14 勝ち取るための剣


 木々が生い茂る林の中、開けたこの場所へ西日が差し込んでいた。茜に染まった葉は、昼とは異なる表情を見せる。どこか寂しげなその光景は、俺たちから離れようとするセリーヌの心を映しているように思える。


 もう、昨日までのあいつじゃない。

 ここに立つのは、一族の使命を背負い、それを全うしようとする戦士だ。


 そんな思考を断ち切るように、シルヴィさんが俺と老剣士の間へ歩み出た。水袋を軽く掲げ、しなやかに腰を揺らして進む。


 酒を流し込む喉元に、思わず視線が引き寄せられる。そこから胸元、さらに腰へと続く曲線。引き締まりながらも、女性らしさを失わない身体。


 場違いなほど艶やかなその存在が、なぜか俺の進むべき道を示しているように感じられた。


「くそっ……」


 頭を振り、余計な思考を振り払う。

 勢い任せだが、正しい道を進んできたはずだ。

 この先がどれだけ歪んでいようと、自分の信じた道を貫くだけだ。


「これから互いの剣で打ち合ってもらうわ。ただし、命の奪い合いはなし。逝《い》かせたら負けだから、寸止めで我慢してね」


 シルヴィさんは軽く指を立てる。


「決定打を先に入れた方の勝ち。必要以上に距離を取ったら棄権扱い。いいわね?」


 俺とコームさんは黙って頷いた。


「わかってると思うけど、閃光玉や魔法石みたいな目立つ攻撃は禁止。以上よ」


 腰の革袋を地面へ下ろし、スリング・ショットと鞘を外す。手にするのは竜骨魔剣シャドラス・ベインだけ。


 余計なものはいらない。これは、剣と剣の勝負だ。


 シルヴィさんが下がると、視界に残るのはコームただひとり。

 数歩先にその姿を捕らえ、剣を正眼に構えた。


 コームさんの構えには隙がない。

 両手で剣を握り、腰を落とした姿には、積み重ねてきた歳月が滲んでいた。

 だが、気圧される暇はない。勢いで押し切る。


「ふっ」


 呼気と共に踏み込むと、セリーヌとの戦いが脳裏をよぎる。

 もう負けない。負けられない。あの時とは違う。


「はっ!」


 下からの斬り上げを見せかけ、横へ流れる。左へ回り込み、間合いをずらす。


 だが、通じない。

 コームさんの視線は、微動だにせず俺を捉えていた。


 返ってきたのは胸元を狙う横凪の一閃。

 鋭く、無駄のない軌道。しかし、その間合いに俺はいない。

 掠める軌道を見切り、そのまま一歩踏み込む。


「だあっ!」


 狙いは膝。剣ではなく、まず動きを封じる。

 前屈みの体勢から、突き出すように蹴りを放つ。


 老剣士が後方へ跳ぶ。その動きは想定内だ。

 着地に合わせて踏み切り、懐へ飛び込む。


「うらあぁっ!」


 すかさず突きを繰り出した。

 寸止めの決闘とはいえ、ここには治療役もいる。躊躇はしない。


 老剣士は顔を守るように剣を突き立てた。

 右から左へ振るわれた動きに、突きが弾かれる。


「くっ!」


 勢いは止まらない。

 そのまま、体当たりの形でぶつかった。


 びくともしない。こちらが弾かれた。

 軽量鎧(ライト・アーマー)の奥にある身体の芯が、まるで岩のように動かない。


 直後、老剣士の肘打ちを喉に受けた。


「ぐっ!」


 息が止まる。視界が揺れる。

 そこへ、首を狙った横薙ぎが迫っていた。


 反射で受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 首を刈られていてもおかしくなかった。


 刃の向こうで、老剣士の瞳が迫る。

 怒りとも憎しみともつかない、深い色だ。


 考える暇はない。蹴りが襲い来る。


「ちっ!」


 刃を押し返し、後方へ飛び退く。

 かすめるように回避した。


 構え直し、呼吸を整える。身体が重い。

 竜臨活性《ドラグーン・フォース》の反動が、じわじわと体を蝕んでいた。


「どうした? 息が上がっているようだな」


「うるせぇ。これからだ」


 余裕の声が、神経を逆撫でする。


「リュシアン・バティスト。いつもの勢いはどうしたんだ。僕と代われ!」


「黙ってろ!」


 ナルシスの声を切り捨てる。

 ラグの姿もない。近くで、この戦いを見ているのだろう。


 乱れた呼吸を静め、意識を集中する。

 狙いは膝だ。再び狙ってくるとは思わないだろう。


「はっ!」


 踏み込み、足下を狙う構えで誘う。


 コームさんの足がわずかに引く。


「そこだ」


 横凪へ切り替え、手元を狙う。

 足を狙ったのは囮だ。このまま武器を弾く。


 だが、受け止められる。そして、いなされる。

 腕に伝わる奇妙な感触。刃が容易く逸らされ、体勢が崩れる。


 返しの一撃が肩へ迫る。

 上体を反らしてかわすも、左肩に鋭い痛みが走った。


「ぐっ」


 だが、振り上げた直後の脇腹はがら空きだ。

 そこを突く。


「がっ!」


 突如、視界が跳ねた。

 地面へ下ろされる老剣士のブーツが見えた。


 蹴り飛ばされた身体がよろめく。

 左手を付いて支えたが、しゃがんだ所へ刃が振り下ろされようとしている。


 間に合わない。


 咄嗟に、相手の懐へ飛び込んだ。

 下半身を目掛け、左肩からぶつかる。


 相手のすね当てが、斬り裂かれた左肩に触れる。

 痛みなど感じている暇はない。

 強引に押し込むと、老剣士は前のめりに崩れた。


 最大の好機。

 剣を握る手に力を込め、振り返る。

 しかし、倒れたはずの老剣士も、身を翻(ひるがえ)しながら刃を振るってきた。


「ちっ!」


 剣の勢いに怯み、思わず下がる。

 その一歩が致命的だった。

 コームさんは横転し、林の中へ逃げ込もうとしている。


 隠し持っていた短剣(ショート・ソード)をベルトから抜いた。

 すかさず投げるが、姿は捉えられない。


「くそっ。卑怯だぞ!」


「必要以上に距離を取らなければ負けではない、という取り決めのはずだ」


 大木の向こうから、息を乱した声がする。


「動きが見え透いていたな。だが、筋はいい」


「偉そうに!」


 吐き捨てると、コームさんが姿を現した。

 夕日が男の姿を照らしているのを見て、ある戦法が閃いた。


「これしかねぇ」


 剣を持ち上げ、太陽へ向ける。角度を捻ると、太陽光を弾いた。

 閃光が弾け、コームさんの視界が揺らぐ。


 目を細めた所へ、一気に踏み込む。


「だらあぁっ!」


 力任せの横一閃は受け止められた。


 即座に連撃へ移行。

 左からの一閃。上段からの袈裟斬り。すくい上げの一閃。


 だが、ことごとくいなされる。手応えがない。

 続く一閃で、違和感の正体に気付いた。


 老剣士の剣は刃が波打っている。触れた瞬間に引き、力を逃がしているのだ。


 しかし、関係ない。押し切るしかない。


「貫け。シャドラス・ベイン!」


 狙いはただ一点。再び晒された脇腹だ。

 そこへ突きを繰り出す。


 その瞬間、世界が静止した。

 脳裏に浮かぶのは、セリーヌの顔だ。

 もう一度同じ道を歩むために、何としてでも勝つ。


 俺たちの出会いは偶然でなく、竜の力の導きだとしたら、こんな所で終わるはずがない。


『これは運命の悪戯か? あるいは、時代が汝を選んだか?』


 問いが響く。


 なら、答えは決まっている。


 ここで、勝つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。