表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/381

13 譲れぬ想い


 セリーヌの澄んだ瞳に、言葉を失った俺の顔が映っている。


(わたくし)もマリーさんを助けたい気持ちはあります。ですが、故郷へ戻ることも急を要するのです。本来であれば、リュシアンさんの呪いを解くことよりも優先すべきでした」


「セリーヌ様の仰る通りです。我々は、すでに多くの時間を失っています」


 老剣士の言葉に、セリーヌが鋭い視線を向けた。


「コーム、言い過ぎです。私の命を救って頂いた御恩を忘れてはなりません」


「失礼しました。出過ぎたマネを」


 頭を下げるコームを見ながら、拭えない違和感が残る。


「セリーヌが故郷へ帰らなきゃならないのはわかった。でも、それは故郷の同胞に対する思いであり、神器を失った罪悪感でもあると思うんだ。俺が気にしてるのは、君の本心が見えないってことだ」


「本心……ですか?」


 戸惑いと不安が入り混じった表情。そんな顔のまま送り出せるはずがない。


「君はどうしたいんだ。ここに残りたいと、俺たちと旅を続けたいっていう気持ちは、これっぽっちもないのかよ?」


「それは……」


 視線を落とし、やがて小さく微笑む。


「ヴァルネットで過ごした日々は……とても大切な時間でした。ひとりで旅をしていた私にとって、あれは夢のような日々で……」


 言葉が一度途切れる。


「ですが、現実へ引き戻されるのです。災厄の魔獣のことを思い出すたびに。あれだけは、どうしても止めなければなりません」


「俺たちも手伝う。ここには腕の立つ連中が揃ってる。もっと頼ってくれよ」


「ありがとうございます。そのお気持ちだけで充分です」


 深く頭を下げる姿に、どうしようもない距離を感じた。

 結局、俺は部外者だったというわけか。竜の力なんて物を勝手に与えられた挙げ句、その真相も理由もわからないまま、置き去りにされるだけの存在でしかないのか。


「だったら、俺の力は何のためにあるんだ。どうして俺に、この力を授けた?」


「きゅうぅん……」


 左肩の上で、ラグが情けない声を上げる。


「何のためだ。あの竜は何を望んだ。俺に何をさせたいんだ」


「リュシアンさん……」


 悔しさに拳を固く握る。噛み締めた奥歯が、悲鳴を上げるように軋む。

 そこへ、足音が近付いてきた。


「待ちたまえ、君たちっ!」


 つま先へ重みと痛みが加わった。


「おまえ……」


「美しい姫君が困っているではないか。話のすべては聞き取れなかったが、お城へ帰らなければならない、ということかな? だがそれを見過ごすことはできない。そういうことで良いんだな、リュシアン・バティスト」


「まぁ、そんなところだ」


 ナルシスは息を整え、静かに剣を抜いた。


「ならば実力行使だ。ここを通るなら、我々を倒してからにしてもらおう」


 抜き放たれた細身剣(レイピア)の切っ先が、コームに向く。


「己の主張が通らぬことを不服に、力を振りかざすなど野蛮な愚行。剣士の資格はない」


 吐き捨てるように言い放つコームに、ナルシスが大きく踏み出した。


「何とでも言うがいい! ここで見過ごす方が、よほど愚かというものだ」


「ならば斬るまでだ。所詮は『外の者』。野蛮な血脈は変わらぬらしい」


 コームの手が柄にかかる。その目には、情けなど微塵も見えない気迫が漂う。


「やめろ」


 ナルシスが気持ちを代弁してくれたお陰で、俺は随分と冷静になっていた。

 それを切っ掛けに、状況を客観的に捉えることができた。


「こんなところでやり合うな。コームさんから見れば、ただの言い掛かりだ」


 すると、ナルシスから鋭く睨まれた。


「どちらの味方なんだ!?」


「仕方ねぇことなんだろ」


 ナルシスと自身へ言い聞かせ、視線はセリーヌを追っていた。

 申し訳なさそうにしながらも、決心が揺らぐことはないのだろう。


「永遠に会えなくなるわけじゃないだろ? 長老に謝罪を済ませたら戻って来いよ。いつでも大歓迎だ。全員の力を合わせれば、災厄の魔獣とやらも絶対に倒せる」


「勝手なことを言って申し訳ありません。許してください」


 消え入りそうな声が切ない。

 セリーヌに近付くと、彼女は加護の腕輪を引き抜いた。


「ギルドへ返却をお願いいたします。この宝石を換金し、解約料に充ててください。宿にある荷物も処分を願います」


「冒険者も辞めるつもりなのか?」


「はい。中途半端なままでは、自分を許せません」


「そうか……」


 腕輪と宝石を受け取り、腰の革袋へ収めた。淡々と行いながらも、セリーヌを本当に行かせてしまっていいのかという激しい葛藤と、暴れ出してしまいそうな衝動に心が揺れる。


 セリーヌにも本来の目的がある。俺に邪魔をする権利はない。彼女を応援してやるのが大人の対応というものだろう。


 顔を上げると、彼女は柔らかく微笑んでいた。俺の好きな、包み込まれるような優しさに満ちた笑顔だ。


「短い間でしたが、大変お世話になりました」


 深々と頭を下げるその姿を、見ていることしかできない。


「僕は絶対に認めないぞ!」


 ナルシスが叫ぶ。


「リュシアン=バティスト。君が黙って見送るというのなら勝手にすればいい。僕は姫に付いていく」


「ナルシスさん、どうかわかってください」


 セリーヌは困り果てているが、本音を言えるナルシスが羨ましくもある。

 ナルシスはいつでも自分に正直だ。セリーヌに対して正面から全力でぶつかっている。


 それに比べて俺はどうだ。


「だあぁっ!」


 やり場のない怒りを吐き出すように大きく吠えた。

 驚いたラグが、逃げるように上空へ羽ばたいてゆく。


「いいか、俺が理想としてる冒険者ってのは、もっと洗練されて理知的なんだ! でもな、今の俺はそんなもん到底認めねぇ。到底受け入れられねぇ!」


 唖然とするセリーヌの顔を見据える。


「理屈なんてどうでもいい。俺は自分に嘘をつきたくねぇ」


 手を伸ばし、その体を抱き寄せた。


「おい、なにを!?」


 ナルシスなど完全に無視して、セリーヌの存在を、温もりを全身で確かめた。

 柔らかい花のような香りが鼻孔を通して全身へ伝い、胸の中と心の隅々までを満たしてゆく。


「ずっと側にいてくれって言っただろ……俺の気持ちは、これからも変わらない……」


「ですが……」


 俺の胸を両手で押し退け、後ずさるセリーヌ。戸惑いを浮かべた顔は今にも泣き出しそうだ。

 しかし、拒まれようとも引けない。


 感情が溢れ出し、それを押し留める(すべ)など今の俺にはなかった。

 思い描いた場所を手に入れるため、竜骨魔剣の(つか)へ手を掛ける。数歩先に立つ、老剣士を睨む。


「悪いな……前言撤回だ。やっぱり、行かせるわけにはいかねぇ」


 静かに告げる。


「勝負だ。俺が勝ったら、故郷の場所を教えろ。負ければ潔くあきらめる」


「リュシアン=バティスト。場所を教えろ、とはどういう意味だい?」


 不思議そうな顔をするナルシス。


「俺は既にお尋ね者だろうが。迷惑がかかるから一緒には行けない……おまえの他に誰かを同行させる。俺はマリーを助けて、無実を証明してからすぐに追う」


「リュシアンさん……」


 呆気に取られるセリーヌを無視して、一歩を踏み出す。

 俺にはもう、コームしか見えない。こいつさえ現れなければ、セリーヌは故郷へ帰るという考えを改めたかもしれない。


 老剣士は呆れ顔で溜め息をこぼし、首を振っている。


「望み通り、現実を教えてやろう」


 外套(がいとう)を脱ぎ捨て、冷たい視線を向けてくる。


「リュシアン・バティスト、君も顔色が優れないようだ。僕が力を貸そう」


 踏み出してくるナルシスを睨んだ。


「これは俺の戦いだ。邪魔するんじゃねぇ」


 自力でこの局面を乗り越えてみせる。竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使ったばかりで体も疲弊しているが、そんなことは言い訳にしかならない。


「大事な物は、自分の手で守るんだ……」


「なんなのあなたたち。男って本当に単純ね」


 背後から、シルヴィさんが歩み出してきた。

 水袋を手に、からかうような視線を向けて口元を拭う。


「止めてもムダですよ」


「そんなんじゃないわよ。あたしが勝負に立ち会ってあげるから、好きにやりなさい」


「ありがとうございます」


 息を吐き、コームの姿を視界へ捕らえた。


 俺はこの手で、望む未来を掴み取る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ