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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

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11 断罪の果て、襲来する影


「さっさと話さないと、腕が折れるぞ」


 捻り上げた右腕へ、さらに力を込める。


「ぐうっ……あの娘が住んでいた……ジュネイソンの街は……魔獣に襲われ、滅んだ……両親もその時に……他界している」


「デタラメを言うんじゃねぇ。だったら、俺たちと一緒に来た両親は誰だって言うんだ」


「私が……知るわけがないだろう……」


「それが本当なら、どうしてマリーだけが助かった。何か知ってるな?」


 右腕を捻ったまま、小指を掴む。


「一本ずつ折ってやる。何本目で口を割るか、見ものだな」


 耳元で低く囁く。逃げ場はない。


「待て、待ってくれ……ジュネイソンへの襲撃を指示したのは、私だ」


「は?」


「あの娘がここへ来てすぐ、証拠を消すために冒険者を雇った。魔獣をけしかけさせ、両親の遺体もこの目で確認している」


 そういえば、牡鹿亭の客から、魔獣に滅ぼされた街の話を聞いたことがある。


「マリーを手に入れるために、街ひとつ潰したのか」


「やむを得なかった……悪魔に魂を売る行為だとわかっていた……だが、あの子には黙っていてほしい……時が来たら、私から話すつもりだ」


「その時は、いつ来るっていうんだ」


 わずかに力を加える。右小指があり得ない方向へ折れ曲がった。


「自分が何をしたか、わかってるのか?」


 かすれた悲鳴。続けて薬指へ指をかけた、その時だった。


 外が騒がしい。人の悲鳴と、魔獣の咆哮。


 嫌な予感が、胸の奥で膨らむ。


「ジョフロワ。てめぇは終わりだ。そこで女神に慈悲を乞え」


 竜骨魔剣を抜く。刃に宿る碧の光が、静かに脈打つ。


「神に代わって、制裁だ」


 刃が老人の右太ももを貫いた。広間に悲鳴が満ちる。


 床へ崩れ落ちた大司教を見下ろす。血が広がる。

 しかし、この程度でも生ぬるい。


「ここで待ってろ。外を確認したらすぐ戻る。すべてをはっきりさせてやる」


 先日のドミニクの一件が頭を過ぎった。逃げられるわけにはいかない。

 革袋を開け、奪った魔導輪と交換に黄色の魔法石を取り出す。大司教の顎を掴み、口をこじ開けた。


「これで死にはしないだろ」


 石を放り込み、強引に噛み砕かせる。


「ぐがあぁぁぁ!」


 痙攣する身体を一瞥する。


「ったく、大げさだな……少しは大人しくしてろ」


 倒れた魔導師たちへ視線を向ける。


「こいつを連れて逃げようなんて思うなよ。ギルドを通じて、必ず探し出してやる」


 壇上から飛び降り、そのまま出入口へ向かった。


※ ※ ※


「どうなってんだよ!?」


 目の前の光景に、言葉を失う。

 寺院前には野次馬の富裕層。その足元には大量の匂い袋。鼻を刺す血の臭い。


 空を見上げると、旋回する影が目に付いた。

 大鷲型魔獣グラン・エグルの群れだ。


 迎え撃っているのは、セリーヌひとりだった。

 黄金に染まった髪。竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使っているのは明らかだ。


「アンナとマリーは?」


 頭上を警戒しながら問いかける。


「外に出た直後、閃光が弾けました。恐らくクロードさんの声……抵抗するマリーさんを脅して、無理矢理に連れ去ったようです。気付いた時には、馬車が走り去っていました」


「馬車!?」


「三人はそれに乗っているかと。アンナさんが追ってくださっています」


「遅かったか……あの夫婦、偽者かもしれねぇ」


「本当なのですか?」


「それを確かめる。馬車を追うぞ」


 辺りに散らばる匂い袋は魔獣を呼び寄せるためのものだ。

 待ち伏せていた馬車といい、計画的な犯行に違いない。


「お待ちください。先に上空の魔獣を片付けます」


「放っておけよ。寺院には魔導師がいるだろ」


「患者さんもいらっしゃいます。ここには防御壁(ぼうぎょへき)がありません。何かあれば、どうされるおつもりですか」


 揺るがない強い眼差し。こうなってしまうと絶対に折れない。


「わかったよ。さっさと片付けるぞ。いいな?」


「はい」


 気持ちが良いほどの即答だ。


「全部で十体ってところか」


 グラン・エグルもギルドに討伐対象として記録されていた。両腕を広げた以上もある巨大な姿は圧巻だ。獲物を鋭い爪で掴み、落として殺害する空の狩人だ。


 寺院の側には、粉々に砕けた馬車と、食い散らかされた馬の死骸も見える。


「剣が届かないのは厄介だな」


 俺の攻撃で可能性があるとすれば、竜牙天穿(りゅうがてんせん)ただひとつ。セリーヌの竜術も効果範囲を外れている。


「待てよ……」


 ひとつの可能性が閃いた。


「セリーヌ。俺が作る魔力球に、竜術を打ち込んでくれ」


「どういうことですか?」


「合体技だ。無属性なら干渉しない。急げ」


 刃の切っ先を、頭上で旋回する魔獣どもへ向けた。

 剣先へ意識を研ぎ澄ませ、魔力を収束させる。


「竜牙(りゅうが)……」


 刃へ碧色の球が膨らむ。だが、魔剣が力を喰らう。

 力を振り絞り、大きさと威力を保持する。すると、セリーヌの術が解き放たれた。


「光竜滅却(リミテ・リュミエール)!」


「天穿(てんせん)!」


 刃から放たれた碧色の魔力球が、セリーヌの放った黄金色の魔力を含んだ。

 金色の軌跡を描き、上空へ舞い上がる。


「行け!」


 三体の魔獣を飲み込み、魔力球が爆散。閃光が空を埋め、群れを飲み込んだ。

 残光が消えた時、魔獣の姿は残っていなかった。


「あいつらの死骸も残らねぇ……報酬ゼロかよ」


 力が抜ける。竜臨活性(ドラグーン・フォース)も切れた。


「踏んだり蹴ったりだな」


 苦笑が漏れる。紋章から飛び出してきたラグが、俺の左肩へ着地した。

 セリーヌは匂い袋を焼いていた。最後まで抜かりがない。


「真面目だよなぁ」


 視線を戻し、眼下の街並みに目を向ける。


「問題はここからだ。麓までどうするか」


 魔獣の襲撃で馬車は襲われ、残りの馬も逃げてしまった。徒歩では三、四時間の覚悟が必要だろう。


「がうっ!」


 ラグの鳴き声に続き、山道から蹄の音が聞こえてきた。

 その音はまるで、天からの救いのように思えた。


「どうして馬が?」


 山道へ視線を向けると、思いも寄らない人が現れた。


「は? なんで!?」


「はぁぃ。あたしの可愛いリュシー。大好きなお姉さんが、迎えに来てあげたわよ」


 颯爽と馬を操るシルヴィさん。左手には、もう一頭の手綱を握っている。


「ほら、急ぐんでしょ。乗って」


「助かります」


 呆然と馬の背に乗り、セリーヌを引き上げる。


「霊峰(れいほう)の入口で待ってたら、アンナから連絡が来てね。この馬はちょっと拝借してきたの」


「連絡って、どうやって?」


「これよ」


 シルヴィさんの掌には、魔導通話石があった。


「フェリクスから一組だけ預かってるの。大森林でもアンナが持ってたでしょ」


「そういうことか……あいつを連絡係に、悠々と追ってきたわけですか」


「勝手にいなくなるからでしょ。その娘とふたりきりになりたいのはわかるけど、駆け落ちみたい……あたしは強引なのって嫌いじゃないけど」


「シルヴィさんの好みは、今はどうでもいいんですけどね」


「どうでもいいってひどくない?」


「失礼なのはあなたです! 私(わたくし)たちは決して、やましい関係ではありません!」


 出た。即座の全力否定。

 いつものことながら地味に効く。

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