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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力に覚醒した俺は、《天壊竜撃》の魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

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03 奪う者と守る者


「冒険者ギルドの下請けとして動き、依頼を斡旋するというわけですか?」


 フェリクスさんは、セリーヌに目を向けた。


「飲み込みが早いな。楽をして儲けられる最高の仕事だろ。すでにふたつのパーティから快諾をもらってる。ここをリュシアンに預ければ三つ目。当面はそれで試運転だ」


「ちょっと待ってください。俺に預けるって、勝手に進められても……」


 視線が突き刺さる。

 獲物を定める猛禽の目だ。


「駆け出しのおまえを拾って育てたのは、この計画のためだ」


 冗談の調子じゃない。


「人はな、置き場所を間違えれば腐る。力があっても消耗するだけだ」


 指先で机を軽く叩く。


「俺は無駄にしない主義だ。俺が目をかけた人間が、凡庸で終わるのは気に入らないんだ」


 その言葉の裏に、もうひとつの影がよぎる。

 レオン・アルカン。


 あいつも、そのひとりってことですか。

 喉まで出かかった問いを、飲み込んだ。


 駒、とは言わない。

 だが意味は変わらない。


「パーティを抜けて一年。その間、自由も与えた。そろそろ恩を返してもいい頃だろ」


 重みは理解している。

 受けた恩も忘れていない。


「でも俺は、まだ目的を果たせていません。せめてそれまでは」


「兄さんか。荷物はこの街から発送されたんだったな。その後は行き詰まりだろ。いい加減、前に進め」


「絶対に探し出してみせます」


 真正面から見返す。


 フェリクスさんは小さく息を吐いた。


「ランクAで足踏みしている理由もそれか。兄さんに肩を並べるのはおこがましい、まだそう思ってるのか」


「はい。俺にとって憧れの存在です。それは変わりません。兄貴を探すために故郷を出ました。冒険者もランクも、そのための手段です」


 フェリクスさんへ挑むように、その目を見つめる。


「俺は壊すために強くなったわけじゃありません」


 沈黙が落ちる。

 通りの喧噪だけがやけに大きい。


「一緒に来い。世界は広いぞ。手掛かりも拾えるかもしれない。気楽にやれよ」


 不意に身を乗り出してきた。


「この国に革命を起こす。俺たちが時代を創るんだよ」


 拳が机を打つ。


「魔力が高い者が優遇される。治療も依頼も評価もだ。持たざる者は常に後回し」


 視線がわずかに揺れる。


「命の値段が、生まれで決まる国だ。知ってるだろ」


 それ以上は語らない。


「富裕層でもなく、魔力も持たない平民出の人間が、ここまでやれると証明するんだ」


 口元が上がる。


「面白いと思わないか」


 熱量が強い。

 だが理屈を否定しきれない自分がいる。


「もう少し時間をください。兄貴の手掛かりが掴めそうなんです」


「本当か?」


 疑いと期待が混じる。俺自身も半信半疑だ。


 隣のセリーヌは黙っている。神器と竜を知る彼女なら何か掴んでいるはずだ。


「ごめん、ちょっと手を貸して」


 商店の前から声が飛ぶ。

 両手に木製トレイを抱えたシルヴィさんだ。


(わたくし)が手伝います」


 セリーヌが立ち上がる。


 その背を見送り、フェリクスさんが口を開いた。


「ここまで待ったんだ。その言葉が本当なら、もう少し待つとするか。ただ、おまえさんの力を借りたい件がもうひとつあるんだ」


 羊皮紙が広げられる。


「王城から直接、ランクLにのみ下りた依頼だ。ブリュス・キュリテール。覚えがあるだろ」


「まさか」


 兄の手帳にあった謎の単語だ。


「ブリュス・キュリテール……魔獣の名前だったんですね」


「出所不明の目撃情報によると、三つの頭を持つ獣。背には竜のように巨大な翼、尾は蛇。寄せ集めのようだが、四足歩行の超大型個体らしい」


 羊皮紙へ目を落とす。


「綺麗に整えられた生き物じゃない」


 わずかに笑う。


「無理に繋げば歪む。だが歪んだものほど強い」


「突然変異種ですか」


「不明だ。生息地も能力もわからん。見つけ次第、確実に仕留めろ。それだけだ」


 曖昧すぎる。


「兄貴の手帳にあったなら未討伐ですよね」


「そうなるな。王城が直接出してきた依頼だ」


 皮肉が混じる。


「記録はない。だが存在する。都合の悪いものは残らない」


「隠されていると?」


「さあな」


 否定はしない。

 視線が遠くを見ている。


「フェリクスさん」


「なんだ」


「俺と話しながら、セリーヌを目で追うのはやめてください」


「目の保養だ。あんな女を抱けたら最高だよなぁ……体型も抜群だな」


「真面目な話の最中なんですけど」


「聞こえてる。記録は本当にない」


 また、悪い病気が現れてしまった。


「シルヴィも惜しいんだ……もう少し慎ましさがあればな」


「すっごくわかります。って、そうじゃねぇ。魔獣の情報をください」


「今はこれがすべてだ。おまえさんのランクを上げがてら、こいつを探すつもりだった」


 フェリクスさんが羊皮紙を畳むと、ふたりが戻ってきた。


「遅くなってごめんね。お酒が多くて迷っちゃった」


 ひとつだけジョッキが大きい。


 俺たちは果実を絞ったソフトドリンク。加工肉と野菜を挟んだ四人分のクローズド・サンドが置かれる。


「おい、シルヴィ」


 ふたりが席へ着くなり、フェリクスさんが怪訝そうな声を上げた。


「なぁに」


「俺の酒は」


「さっき飲んだでしょ。おじさんなんだから、体をいたわりなさいよ」


「まだ現役だ」


「あっちは現役でも、冒険者を引退なんて言ってる人にはあげられないわね」


 ドリンクを飲みながらむせてしまった。

 セリーヌがすかさず背中をさすってくれる。


「リュシアンさん、大丈夫ですか」


「あぁ、悪い……」


 昼間から何の話だ。


「で、話はまとまった?」


 俺の気持ちなど露も知らず、クローズド・サンドを手に尋ねてくるシルヴィさん。

 すると、フェリクスさんがすかさず口を開いた。


「一ヶ月だ。それで進展がなければ俺と来い。その間、シルヴィたちもこの街に滞在させる。好きに使え」


「あたしたち、物じゃないんだけど」


「言葉の綾だ」


「気遣いがないからフラれるのよ。外見と腕が良くても、中身がね……」


「そっくりそのまま返してやる」


「なんか言った?」


「このドリンク、果実の味をそっくりそのまま冠して、やるなぁって」


 苦しい言い逃れをして、フェリクスさんはセリーヌを見る。


「君はどうする」


「お断りいたします。私にも旅の目的がありますので」


「旅? 冒険者なんだろ」


「成り行きです。それと情報を得る近道になればと」


 木製カップに視線を落とすが、その目は遠い。

 彼女を手伝いたいのが本音だが、フェリクスさんの手前、軽々と口にできない。


「セリーヌのことはそっとしておいてください。俺じゃ不満ですか」


「どうせなら、美女もいた方が……いたたっ!」


 シルヴィさんが、その耳を引っ張った。


「ちょっかいは自粛して。さっさと革命の拠点探しをしてよね」


「拠点探し?」


 思わず反応してしまった。

 あの場所も、このままでは持て余すだけだ。


「一ヶ月待ってもらう詫びに、拠点を提供します。その代わりお願いが……」


※ ※ ※


「うまく逃げ切ったか」


「恐らく大丈夫だと思います」


 セリーヌとふたり、息も絶え絶えだ。

 中央広場の馬車乗り場で、ベンチに腰を下ろした。


 あの後、セリーヌを遠ざけ、フェリクスさんとシルヴィさんには昨晩の一件を打ち明けた。

 口裏合わせを条件に天使の揺り籠亭を拠点に決定。その後、牡鹿亭へ戻り、クレマンさんとイザベルさんに退職を告げた。


「悲しんでたな」


 イザベルさんの顔が浮かぶ。


 いつでも帰ってこい。

 クレマンさんの言葉が残る。


 揺り籠亭の二階をフェリクスさんが買い取り、引っ越しをすると説明した。

 真実ではないが、納得してもらうためだ。


 賊のドミニクが報復してこないとも限らない。

 いつかは離れなければならない場所だった。


 そうして、一行の引っ越しが慌ただしく始まった。シルヴィさんたちは昨日から押さえていた宿をキャンセルし、揺り籠亭へ荷物を運び始めた。


 騒ぎの間に、セリーヌと牡鹿亭を飛び出した。俺の荷物は後でも運び出せる。


「急ぐぞ」


「はい」


 呪いのことは、みんなに悪くて巻き込めないとセリーヌに告げてある。

 素直に応じてくれた彼女には申し訳ないが、ふたり旅を果たす口実なのは否めない。


 まずはシャンパージェの街で、魔導杖(まどうじょう)を手に入れる。

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