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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.04 霊峰アンターニュ編

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02 断罪の剣聖


 なぜ、依頼の報酬受領に俺たちが関わる必要があるのか。


 セリーヌと顔を見合わせるが、答えは出ない。考えを巡らせる間にも、シルヴィさんは話を進めていく。


「あたしたちはブノワの護衛依頼を受けていたでしょ。本人には逃げられたけど、報酬は事前にギルドへ預けられているはずよ」


「受け取りだけなら、ふたりでも……」


「それだけじゃないの」


 軽く肩をすくめ、シルヴィは続けた。


「あの植物型魔獣も討伐対象として手配されていたのよ。大森林で襲われた生存者が申請したんでしょうね」


 言われてみれば、シャルロットの手配書に、それらしい記載があった気がする。


「でも、あいつは地底湖の底ですよ。討伐の証拠なんて……」


「あるのよ」


 短く言い切り、シルヴィさんは口元を緩めた。


「レオンが魔力映写(まりょくえいしゃ)に収めてたの。赤竜(せきりゅう)に焼かれる前後の記録よ。証拠としては十分でしょ」


 思いがけない収入だ。本来なら素直に喜ぶべきだが、別の顔が脳裏をかすめる。


「それなら、ナルシスがいる時に……」


 言い終える前に、首へ腕が回された。


 ぐっと引き寄せられ、視界が塞がる。鼻をくすぐる酒の匂いと、軽装越しに伝わる柔らかな感触が、容赦なく頬を押しつぶした。


 逃げ場がない。


 地獄と天国の挟み撃ちとは、こういう状況を言うのだろう。


「余計なことは言わなくていいの」


 耳元で、低く囁かれる。


「あなたは黙って付いてきて、全部の報酬を受け取ればいいの。わかった?」


「全然、わかりません」


 抗議は軽くいなされ、そのまま腕を掴まれる。思考が追いつく前に話はまとまり、四人で冒険者ギルドへ向かうことになった。


※ ※ ※


 扉をくぐると、空気がわずかに張り詰めた。


「わっ。いらっしゃいませっ」


 シャルロットが、やや緊張した面持ちで出迎えてくれた。シルヴィとレオンを紹介した瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。


 ランクS。

 その肩書きだけで、場の空気が変わる。


 さらに、セリーヌとシルヴィさんが並べば、注目を集めない方が難しい。


 ざわめきの中を進み、受付へ。いつもの中年女性が、淡々と手続きを進めていく。


 レオンの腕輪に記録された映写を確認し、書類をめくった。


「確認が取れました。討伐対象の情報とも一致しています。では、報酬の計算を行います」


 ブノワの護衛が四千ブラン。

 ベルヴィッチアの討伐が一万五千。


 そこへさらに、数字が積み上がる。


 レオンが仕留めたグラン・ショーヴにも個別の賞金が設定されており、三体分で計一万二千。


 合計、三万二千ブラン。


 思わず息を呑んだ。想像していたより、はるかに重い額だ。


「これはすべて、彼の記録にして」


「だから、どうして俺なんですか」


 口を挟むと、職員が一瞬だけ視線を上げる。


「詳しい話は後よ」


 シルヴィさんは即座に言い切った。


「とにかくリュシーを稼がせてランクSへ引き上げる。それが、あたしたちの目的なんだから」


「は? 俺を、ランクSに?」


「つべこべ言わずに、受け取りなよ。俺だって不本意なんだ」


 背後では腕を組んだレオンが、露骨に不機嫌そうな顔をしている。


「そう言うのももっともだ。賞金の大半は、おまえの手柄だしな」


 顔をしかめ、短い舌打ちをする。


「フェリクスさんの命令だ。従うしかない」


「納得いかねぇよ」


 漏れた声に、レオンがゆっくり視線を向けてきた。


「何が?」


「俺ひとりの手柄にするなんて、筋が違うだろ。実際に戦ったのは、みんなだ」


「だから何」


 淡々と返され、言葉に詰まる。


「功績を分けても誰の得にもならない。ランクが上がれば受けられる依頼が増える。結果的に全員が得をする」


「それは、結果論だろ……」


「現実論だ」


 かぶせるように言われ、視線を逸らされた。


「理想で動くなら、冒険者は長生きしない。まして命令だ。従えないなら最初から前に出るな」


 胸の奥が、鈍く痛んだ。


「おまえ……俺のこと、嫌いだろ」


 半分、冗談のつもりだった。


「別に。信用してないだけだ」


 返ってきた声は、まったく冗談ではなかった。


 逃げるように、セリーヌに視線を向ける。


「セリーヌは、どう思う」


(わたくし)は助けて頂いた身です。口を挟む立場ではありません。皆様に従います」


 最も反対しそうだった彼女が、あっさりと引いた。


 これで、味方はいない。


「相変わらず、変な所で真面目なんだから」


 シルヴィさんが溜め息をつく。


「いい? お金は五人で分配。討伐記録はリュシーに付ける。これで決まり」


 結局、押し切られた。

 三万二千ブラン。そのすべてが、俺の討伐記録として計上される。


 カウンターに置いた腕輪を、シルヴィさんが何気なく取り上げた。


 嫌な予感が走る。


「随分と怠けてたんじゃない? ランクS昇格に必要な成績、ようやく半分を過ぎた程度じゃない」


「いや……それは……」


「後でお説教ね」


 果実酒の瓶底で、頬をぐりぐりと突かれる。

 既に始まっていた。


「ですが、リュシアンさんは人助けに奔走されております。この街の皆様からも慕われています」


「ふうん。まぁ、それはそれ。でも一番大事なことを後回しにしてたんだから、やっぱりお説教ね」


 ギルドを出て、勇ましき牡鹿亭へ向かう。

 最後尾を歩くレオンの横に並び、歩調を落とした。


「昨日の夜は、悪かったな」


「なんのこと」


「牡鹿亭を出た後、賊を警戒して巡回してくれてたんだろ」


「ああ。あれか」


 歩みは緩まない。


「別に気にしてない。俺は仕事をしただけだ」


 少しの間を置いて、低い声が続く。


「油断してる時が一番危ない。呑気に酒なんて飲んで……ぬるいんだよ」


「悪い……」


「ただ」


 一拍置き、低い声が続く。


「自分の立場は考えろ。守られてる側が綺麗事を言うと、反感を買う」


 言い返そうとして、言葉が出なかった。


「すまない……」


「謝るな。同じことを繰り返すな。それだけだ」


 それきり、会話は途切れた。


 気まずさを抱えたまま牡鹿亭へ戻ると、入口に見覚えのある人影が立っていた。


 端正な顔立ちに整えられた顎髭。肩にかかる黒髪。魔力を帯びた銀の軽量鎧(ライト・アーマー)。そして背に負うのは、象徴とも言える聖剣ミトロジー。


 ランクL。断罪の剣聖。


「フェリクスさん」


「おう、リュシアン。元気そうだな。かれこれ一年ぶりか」


「ご無沙汰してます。相変わらずランクAのままで、すみません……」


「気にすんな。積もる話は、綺麗な女性のいる店で聞いてやる」


 相変わらずの軽さだ。四十手前なのだから、もう少し落ち着いてほしい。

 だが、この人がわざわざ足を運ぶ理由が思い浮かばない。胸の奥に、嫌な予感だけが残る。


「綺麗かどうかはわかりませんけど、女性ならこの店にも。お酒も安くしておきますから」


 牡鹿亭を指さすと、険しい顔を向けられた。


「随分と商売上手になったなぁ。この街の空気に当てられて、丸くなっちまったんじゃないのか?」


「いえ。そんなことは……」


 目を合わせただけで、嫌な汗が伝う。


「場所を変えるぞ。シルヴィ、魔導師のお嬢さんを連れて来い。レオンは残って、エドモンとアンナに合流しろ」


 すれ違いざま、即座に腕を掴まれた。

 反対の手には、シルヴィさんが持っていた果実酒の瓶まで握られている。


「あたしのお酒、返してよ」


「後で買ってやる」


 豪快にあおりながら歩き出すフェリクスさんに引かれ、大通りへ。

 賑やかな街並みを抜け、やがて通り沿いの軽食店に腰を下ろした。


「まぁ座れ」


 木製テーブルのひとつへ腰を下ろすと、シルヴィさんに買い物を指示した。


 向かい合う形で席に着く。

 フェリクスさんは一度だけセリーヌを見て、にやりと笑った。


「聞いたぞ。彼女もかなりの腕前らしいな。ふたりで組んでるのか?」


「いえ。パーティは組んでいません。たまたま行き先や目的が同じで、共闘を続けているんです」


「ありゃ、そうなのか。俺はてっきり……えらく美人の彼女を見付けたもんだと、嫉妬してたんだが」


 口元が歪む。


「それなら、俺が恋人に立候補してもいいわけだ」


「お断りします」


 即座に返された言葉に、フェリクスさんは目を細めた。

 面白いものを見るような視線のまま、口元だけが緩む。


「いいね。はっきり物を言う女性って、嫌いじゃない」


 その笑みが引っ込み、表情が改まる。


「本題だ」


 視線が真っ直ぐこちらへ向けられる。


「リュシアン。お嬢さんも含めて気に入った。単刀直入に言う。ふたりを俺の傘下に迎えたい。力を貸せ」


「傘下って……パーティに入れってことですか?」


「似てるが違う」


 軽く首を振る。


「俺はそろそろ前線を退く。これからは元締めとして、複数のパーティを抱えるつもりだ」


 言葉の意味が、すぐには理解できなかった。


「ランクLの俺なら、すべての依頼を受けられる。それを振り分ける」


 そして、口元に笑みを浮かべる。


「報酬は三割を分配。さらに給与制だ。毎月の支給もある」


 白い歯を見せ、得意満面に笑う。


「討伐記録は各自へ計上。ランクに応じて給与も上がる。最高だろ?」


 この人、何かやるとは思っていた。

 だが、ここまでとは。

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