表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/374

15 眠る背中、動き出す影


「交渉成立ってことでいいのか? 街へ戻ったら、ギルドで正式に書面契約が必要なんだけどな……って、あれ?」


 さっきから、完全に独り言だ。


「セリーヌ?」


 背中に触れた額から、規則正しい寝息が返ってきた。


「おい……」


 なんなんだよ、こいつ。


 意気消沈したまま、日没後にヴァルネットに帰還。衛兵の詰め所で馬を返却する。

 対応に現れたのは、大森林で助けた若い兵士だった。


「兵長のシモンさんにもよろしく伝えてくれ。それから、ひとつ頼まれて欲しいんだ……」


 用事のついでに話を聞けば、面白い情報が転がり込んできた。


「街の入口に、ナルシスさんを乗せた白馬が現れたんですよ。ナルシスさんは傷だらけだし、急いで寺院に送り届けたところなんです」


「なんだか悪かったな。ありがとう。俺たちも危険な依頼の帰りなんだ」


 ナルシスも治療中に脱走し、洞窟では殴られ刺される大惨事だ。

 レオンが応急処置をしてくれたそうだが、安静が必要だ。


 黙って寝ていろ。

 何なら一生、寺院に閉じ込められてしまえ。


 セリーヌとふたり、夜の大通りを進む。


「ナルシスさんもご無事で良かったですね。明日、お見舞いに甘辛ボンゴ虫を差し入れに行って参りますね」


「面白そうだな。俺も行くよ」


「面白そう? どういう意味ですか?」


「あぁ。こっちの話だ」


 涙目でそれを食べる姿を思い浮かべ、ひとりほくそ笑む。

 そこで、ふと気づいた。


「天使の揺り籠亭が修繕中ってことは、今晩の宿はどうするんだ?」


「はうぅ……考えていませんでした」


 肩を落とす姿が、妙に胸に引っかかる。

 思わず、抱き寄せたくなってしまう。


 宝石の入った革袋と、長老から貰った首飾りは襲撃で失われた。

 今の彼女には所持金がない。


「牡鹿亭で待ち合わせてるし、一緒に来ないか? 二階に空き部屋があった。ひとりくらい泊めてくれるだろ」


「いえ。ご迷惑はかけられません」


「俺が癒やしの力を借りたいんだ。腕の感覚が戻らなくてさ」


 それは本当だ。

 赤竜(せきりゅう)を倒してから右腕の痺れが抜けず、感覚も薄れている。

 ラグの姿が見えないことも、不安を増幅させていた。


「恐らく、相当な体力と魔力を奪われたのだと思います。心配ですね」


「だろ? だから一緒に来てくれ……と、その前に、最後の一仕事があるんだ」


「一仕事、ですか?」


「あぁ。今回の黒幕を制裁する。証拠は、さっきの衛兵からひとつ手に入った。次は冒険者ギルドだ」


 昨日助けた恩を売り、若い衛兵が持ち出してくれた書類を魔力映写で写し取った。

 証拠は、着実に揃いつつある。


※ ※ ※


「おかえりなさいっ!」


「がふぅっ!」


 冒険者ギルドへ入るなり、腹に強烈な体当たりを受けてよろめく。


「おいぃ、殺す気か」


「いつも同じじゃつまらないと思って。恋する乙女の愛情突進(ラブ・チャージ)です」


「同じでいいんだよ。同じで。それ以上なんて求めてねぇ」


 シャルロットのお下げを掴み、幼さの残る顔を覗き込む。


「リュシアンさん、痛い……優しくしてくださいよ……」


「ギルドが二十四時間運営だからって、今、何時だと思ってんだ? 二十時過ぎだぞ。良い子は寝る時間だ」


「また子供扱いして! 私だって立派な大人……」


 言葉に詰まり、視線が俺の背後へ向かう。そこにはセリーヌがいるはずだ。


「参りました」


 途端にしゅんとする。


「あれ? セリーヌさんも無事だったんですね。命が危ないって聞いて、心配してたんですよ」


 今度はセリーヌへ抱きつく。同姓とはいえ、正直うらやましい。

 羨望の視線を送っていると、別方向から殺気のような圧を感じた。


「まさか……」


 恐る恐るカウンターの奥を見ると、赤竜以上の威圧感を放つ大男。

 シャルロットの父、ルイゾンさんがいた。


 見なかったことにしよう。

 そっと視線を戻し、本題へ入ろうとシャルロットを呼んだ。


「そういえば、あのふたりに会いませんでしたか? (くれない)戦姫(せんき)さんと、二物(にぶつ)神者(しんじゃ)さん。ムスティア大森林の護衛依頼に受注情報があったんです」


「おまえ、知ってたのか!?」


「え? 教えてあげようと思ったら、後で聞くって言うから……」


「そういうことか」


 人の話はちゃんと聞くべきだな。


「あぁ、会ったよ。この後、牡鹿亭で落ち合うんだ」


「いいなぁ……私も会いたいです」


「明日紹介してやるよ。それより、頼みがあるんだ」


「エッチなお願いとお金の話以外なら何でも言ってください。あ、軽めなら頑張りますけど」


 頬に手を当て、腰をくねらせている。


「いや。それはいい」


 追加の証拠を集めるよう頼み、別れ際に声をかける。


「情報の扱いには気をつけろ。素性の分からない相手には、簡単に喋るな」


「はい……すみません」


 肩をすぼめるシャルロットの頬を軽くつねる。


「これは罰だ。反省しろ」


 そうして、セリーヌと共に次の場所へ向かった。


※ ※ ※


「ここは……」


「あぁ。ここが目的地だ」


 不思議そうに建物を見上げるセリーヌ。

 それもそのはず。なにしろここは、襲撃された天使の揺り籠亭だ。

 既に封鎖は解かれ、表向きは落ち着きを取り戻している。


「悪い。そこの屋台で飲み物でも買って、少し待っててくれ」


 紙幣数枚を渡し、宿へ入る。


「こんばんは」


 襲撃を受けたのは、セリーヌの泊まっていた一室のみ。

 四十過ぎの夫婦が経営する安宿だが、手入れの行き届いた小綺麗な建物だ。


「いらっしゃいませ。あいにく改装中で、宿泊はお断り……あれ、リュシアン君?」


 店主のジャコブさんが顔を覗かせた。


「様子を見に来ました。大変でしたね」


「いやぁ、驚いたよ。夜中に突然の爆発でね。妻と飛び起きたら、ウチの二階だもの」


 苦笑するジャコブさんの背後から、妻のバルバラさんも現れる。


「まさか部屋を壊されるなんてね。“いつも通り”なら、窓を破るくらいでしょうから」


「え?」


 ジャコブさんの顔が強張るのを見逃さない。


「この宿が襲撃されるのは初めてじゃない。まぁ、冒険者が多く泊まる宿だ。多少の騒動は付き物ですよね」


 ナルシスからの情報だ。

 そして、二階の中央に泊まっていたセリーヌが、襲撃の前日、なぜか一番端の部屋へ移された。


「これを見てくれ」


 カウンターに書類を叩き付ける。


「これは大森林の依頼を受けた冒険者の名簿。こっちは衛兵が保管していた、この宿の宿泊名簿だ」


 指先で紙面をなぞり、ゆっくりと視線を上げる。


「名前の重なる連中が何人もいる。そいつらは、例外なく行方不明だ」


 ジャコブさんの喉が、小さく鳴った。


「偶然だろ?」


 絞り出すような声。

 その言葉が、どれほど頼りないかは、本人が一番理解しているはずだ。


「偶然、ねぇ」


 短く笑う。否定もしない。

 そのまま、視線をバルバラさんへ移した。


「賊のブノワに吐かせたよ。贄の確保、名簿、部屋替えの指示……全部だ」


 腰から短剣を引き抜き、カウンターへ突き立てる。


「賊は全員始末した。安心しろ。誰かに口を塞がれる心配もない」


 逃げ道を、ひとつずつ潰していく。


「冒険者を泊める。目星を付ける。賊に流す。失敗すれば、事故か喧嘩に見せかけて処理する。手慣れすぎてるんだよ」


 バルバラさんを正面から見据え、ゆっくりと笑みを作った。


「セリーヌを狙ったのは宝石も目当てだろ。革袋と首飾り、返してもらうぜ」


「言いがかりよ! いい加減、怒るわよ!」


「もう怒ってるだろ」


 カウンターを回り込む。

 距離が詰まるたび、ふたりの呼吸が乱れていく。


「顔見知りに刃を向ける趣味はねぇ。衛兵に任せるつもりだった」


 間を置く。


「だが……」


 短剣の切っ先が、バルバラさんの喉元へ触れた。


「嘘をついたら、その気遣いは消える」


 声を荒げる必要はない。

 静かに、淡々と告げるだけでいい。


「衛兵はここまで調べないだろうな。でも俺は違う。賊の死体を転がして、金銭問題で殺し合い。そう書類を整えれば、話は早い」


 震える瞳を、逃がさない。


「どうする。吐くか」


 刃が、わずかに沈む。


「それとも……」


 笑みを深くする。


「ここで、終わるか」


 軽く脅すつもりだった。

 だがもう、引き返せる線は越えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ