↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.03 ムスティア大森林・洞窟編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/394

09 白剣と蒼風、そして紅の戦姫


「終末の担い手。てめぇに終焉をくれてやる」


 曲刀(シミター)を投げ捨て、籠から取り戻した乳白色の長剣(ロングソード)を抜き放つ。


 改めて見ても、この剣は異様だ。華美な装飾はないが、そこに在るだけで視線を奪う。


 神竜剣も、内から溢れる力を感じさせる名品だったが、この剣は違う。使い手を選ぶんじゃなく、使い手そのものを押し上げる。そんな錯覚がする。


 これなら戦えるという、確信に近い感触が灯った時だった。


「があっ!」


 広間の入口から悲鳴が響き、重いものが倒れる音が重なる。全員の視線が、一斉にそちらへ向いた。


 現れたのは、軽量鎧(ライト・アーマー)を纏い、細身の長剣を携えた男だった。


 昨日会ったばかりの相手を忘れるはずがない。二物(にぶつ)の神者(しんじゃ)、レオン・アルカンだ。


「なんで、あいつが……」


 レオンは左手で引きずっていた男を床へ放り捨て、その背中を容赦なく踏み付けた。


「この派手な男、お仲間だろ?」


 転がされた男に目を向ける。後ろ手に縛られて呻く顔には、見覚えがあった。


「やっぱり……」


 森の入口ですれ違った商人。いや、商人を装っていた男だ。


「ブノワ。おまえもヘマをしたもんだねぇ」


 ドミニクの反応が答えだった。レオンは呆れたように肩をすくめる。


「ここを聞き出したけど、取り込み中か。金目の物だけもらって退散するか」


「新たな贄(にえ)を獲得」


 仮面の男が杖を振るうと、天井から巨大な三つの影が舞い降りた。グラン・ショーヴだ。


 嫌な記憶が脳裏を掠める。あの超音波を受ければ、レオンでも危険だ。


「超音波に気を付けろ」


 警告を飛ばし、腰のスリング・ショットに手を伸ばす。その時には、レオンの左手が淡い白光に包まれていた。


 俺を一瞬だけ窺う、値踏みするような目だ。


「蒼(そら)駆ける風、自由の証(あかし)。この身へ宿りて敵を裂け。斬駆創造(ラクレア・ヴァン)!」


 振るわれた左手から、五条の真空刃が顕現(けんげん)。飛びかかったグラン・ショーヴが、一瞬で切り刻まれていた。血と肉片が宙を舞い、床へ叩きつけられる。


 レオンは澄ました顔のまま、散らばる残骸を見下ろす。


「今の警告、悪くなかった」


 一瞬、意味を測りかねたが、すぐに理解した。礼でも皮肉でもない。戦場で通じる判断だった、という評価だ。


「やっぱり超音波か。察しは付いてたけど」


 そう言って、足元に何かを投げ捨てた。


「魔獣の鳴き声を遮断する耳栓。賊のくせに妙だと思った」


 最初から対策済み、ということか。


「レオン・アルカン……厄介だねぇ」


 ドミニクが苦々しく呟く。


「でも、護衛を頼んだ冒険者は、もうひとりいたよねぇ?」


「あたしのこと?」


 艶のある声が、場違いなほど軽やかに響いた。現れた女性を見て、言葉を失った。


 切れ長の瞳。結い上げた黒髪。深血薔薇(フォンデ・ロジエ)と呼ばれる深紅の斧槍(ハルバード)を肩に担ぎ、露出の多い深紅のビキニアーマーを纏った細身の戦士。


「シルヴィさん……」


 色気だけじゃない。戦場に立つ者特有の危うい余裕が漂っている。


「はぁい、あたしの可愛いリュシー。あなたの危機に、綺麗なお姉さんが来てあげたわよ」


 投げキッスまで飛んできた。懐かしさより、驚きの方が勝る。この人は相変わらずだ。


 歩み寄るたび、口元のホクロが妖艶さを際立たせるが、酒の匂いが鼻を突いた。


 つい、ため息が漏れる。酒癖と大胆すぎる性格さえなければ、本当に完璧なのに。


「大木に刻んであった印、リュシーでしょ? 助かったわ」


「余計なお世話でしたね」


 銀のラインが刻まれた、ランクSの腕輪。二つ名は、紅(くれない)の戦姫(せんき)。この人が相手だと知っていれば、警戒を促す印なんて必要もない。


「とりあえず、話は後ですね」


 仮面の男へ向き直る。それでも、奴の余裕は崩れない。


「束の間の喜び。まとめて捕らえる」


「やれるもんならな」


 腰の革袋から魔力石を取り出し、強く握る。賊どもが、白目を剥いたまま迫ってきていた。


「シルヴィさん、援護を」


「もちろんよ。レオン、いいわね?」


「どうせ断れないだろ。俺はあの魔獣を狩る」


 レオンが、僅かに足を止める。


「無理はするな。やっと面白くなってきた」


 気遣いじゃない。俺を戦力として認めたからこその言葉だ。


 三人が、それぞれの戦場へ動き出す。


「リュシー、一緒にいくわよ」


 斧槍(ハルバード)を構えたシルヴィさんが、賊どもを睨む。


「その前に、やり残しがある」


「あら、残念。まとめて地獄へ逝かせて、あ・げ・る」


 武器の唸る音を背に、賊どもの奥でへたり込むドミニクを見据えた。完全に戦意を失っているが、ここで死なれても困る。


 俺も無闇に突っ込んだわけじゃない。左手に握っている魔力石から、力も吸収した。左肩には、いつものようにラグも現れている。右手の紋章が疼き、碧色の光が刃を包む。


「ラグ、反撃だ」


 体が軽い。解放感と高揚が全身を満たし、視界に映る前髪が銀色に染まる。


 ひとりの賊が飛び出してくる。曲刀を受け止めるが、両腕がわずかに押し込まれた。


 一撃が重い。身体能力まで強化されている。


「邪魔だ」


 迷っている暇はなかった。脇へ流し、体勢を崩した賊の背を捉える。剣を振るい、右肘から先を斬り飛ばした。


 噴き上がる鮮血に顔をしかめる。何度見ても慣れない光景だが、敵は止まらない。白目を剥き、残った腕で掴みかかってくる。


 一瞬だけ、躊躇いが生まれた。命を奪う覚悟がまだ追いつかない。咄嗟に腹を蹴り飛ばし、距離を取っていた。


「リュシー。こいつらは自我を失くしてる。とどめを刺してあげるのが情けよ」


 シルヴィさんの足元には、すでにふたり転がっていた。


 覚悟を決めるしかない。


 剣を握る手に力を込めると、巨大な火球が賊どもを追い越して迫ってきた。


「仮面の男の魔法か……」


 蹴り飛ばした男が炎に呑まれ、燃え上がる。


 横へ飛び退きながら剣を構えた時、剣先が火球に飲み込まれた。すると、刃が炎を掻き消していた。


「まさか……」


 燃え盛る男を避け、進路を塞ぐ別の賊と向き合うと、無心で肩口を斬り裂く。肉を断ち、骨を砕く感触が腕に伝わった。


 目を閉じれば、魔獣を斬るのと変わらない。それでも、人間だという事実が迷いを生む。


「くそっ」


 刃を引き、心臓まで一気に斬り裂いた。


 倒れる男の向こう。神殿内から戦況を見渡す仮面の男を睨む。


 ランクールの惨状。大森林の冒険者。セリーヌとナルシス。すべてを背負い、剣を振る。


「付与(エンチャント)! 氷竜刃(グラッセ・ラム)!」


 刃を氷属性の青白い光が包む。振るった斬撃が、出口まで一直線に氷の道を作った。


「上出来だ」


 座り込んだままのドミニクの皮鎧を掴む。


「出口で待ってろ。絶対に逃げるな……って、その足じゃ無理か」


 自嘲気味に呟き、氷の小道に引きずり上げた直後、神殿から膨れ上がる魔力を感じた。


 視線を向けると、風の魔法が生み出した真空の刃が迫っていた。


「効かねぇよ」


 扇状に広がる刃へ向け、長剣を一閃。鋭い斬撃が、真空刃を打ち払う。


 間違いない。この剣は魔法剣だ。それも、相当な魔力を秘めている。


「やるじゃないか、碧色」


 横手から短い笑い声が聞こえる。


 視線を向ける余裕はないが、はっきりとわかった。レオンは今、俺を“並んで戦う相手”として見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。