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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.01 ランクール編

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03 無自覚な規格外


「実は、先ほどの依頼ですが……複数討伐だったんです」


 シャルロットが申し訳なさそうに切り出した。


「父が確認したところ、討伐対象が想定より多かったみたいで。共闘扱いにしないかって」


「なるほどな」


 それなら話は早い。


「あの……共闘、とは?」


 セリーヌが小さく首を傾げる。


「知らないのか? 一案件限りで手を組む制度なんだ」


 歩きながら説明を続ける。


「報酬の分配で揉めることも多いから、嫌がる冒険者もいるけどな」


 セリーヌ相手なら問題はない。むしろ、あの魔法があれば依頼はかなり楽になる。


「俺は構わねぇよ。今回の報酬にこだわりはないからな」


 あの親子との約束が果たせれば十分だ。

 そう考えながら、ちらりとナルシスを見る。


「ってわけで、あんたはもういいぜ」


「リュシアンさん。まさか、この方とふたりきりで依頼を受けるつもりですか?」


 シャルロットの一言に、過剰に反応したのはナルシスだ。信じられないものを見る目を向けてくる。


「は? 何か問題あるか?」


「問題だらけですよ。いかがわしい」


 真顔で言われ、思わず言葉に詰まる。

 顔を背けると、ナルシスが大げさに髪を払った。


「これも何かの縁だ。彼だけでは心許ないし、姫もギルドの仕組みに詳しくないようだ。今回は僕も協力しようじゃないか」


「結構です」


 セリーヌがきっぱりと言い放った。


「なぜですか!? 僕では釣り合わないと? ちなみに姫の冒険者ランクは?」


 狼狽えるナルシスを、セリーヌは不思議そうに見ている。


「ランク……とは何のことでしょうか?」


「え?」


 ナルシスが固まった。

 嫌な予感が走り、改めて彼女の腕を見る。


「まさか……」


 そこで気付く。加護の腕輪がない。

 冒険者登録時に支給される腕輪が、彼女の腕には見当たらなかった。


「あのな。ギルドに登録しないと依頼は受けられないぞ」


「そうなのですか?」


「衝動買いみたいに依頼を取ろうとしてたのかよ。わがまま王女か?」


(わたくし)は、わがまま王女などではありません。少し魔法が使えるだけの、ただの村人です」


「あれで少しか……」


 カロヴァルを一撃で両断した風魔法が脳裏をよぎる。

 あれほどの使い手はそうそう見ないが、本人は本気で言っているようだ。


 どこか世間とズレている。なのに立ち振る舞いは妙に洗練されている。


「事情があるのはわかった。まずは登録だ」


 魔獣退治より疲れそうな予感がする。

 頭を掻きながらギルドへ戻った。


※ ※ ※


「冒険者ギルドでは、登録や解約、依頼の斡旋を行っています」


 受付へ戻ると、シャルロットが職員らしい口調で説明を始めた。


「活動内容は、魔獣討伐や護衛依頼、資源採掘など様々です」


 セリーヌは素直に頷いている。


「では、こちらの登録証書へご記入をお願いします。本登録まで済めば、正式に依頼を受けられます」


 受付に向かったふたりを眺めながら、近くのソファへ腰を下ろした。なぜか、ナルシスまで当然のようについてきている。


「確認ですが、登録条件は十八歳以上です。問題ありませんか?」


「二十三になったばかりです」


「羨ましいですね……」


 シャルロットは自分とセリーヌの胸元を見比べ、そっと視線を逸らした。


 やめておけ。悲しくなるだけだ。


「それにしても、相棒はどこに行ったんだ」


 辺りを見回しても姿がない。好奇心旺盛なあいつのことだ。寄り道でもしているんだろう。


「この服も、女将(おかみ)さんに怒られるな……」


 シャツもエプロンも返り血まみれだ。剣の代金を免除してもらえたのがせめてもの救いだった。


 気が付くと、シャルロットとナルシスが書類を前に固まっている。


「どうした?」


 覗き込み、俺も言葉を失った。


 字が壊滅的だった。


 読めなくはないが、読み解こうという強い意志が必要になる。


「問題ないだろ。それより金はあるのか?」


 この話題には深入りしない。


「登録料と、依頼受注料が必要になります」


 気を取り直したシャルロットが、説明を続ける。


「依頼受注時には、報酬の五パーセントを前払いしていただきます。そのお金はギルドの運営資金になりますが、依頼中の事故を懸念して、前払いなんです」


「姫。お困りなら僕が立て替えよう」


 ここぞとばかりに、ナルシスがしゃしゃり出てきた。


「成功報酬から返して貰えれば構わない」


「おまえ、まだいたのか」


「失礼だな。共闘を約束したばかりだろう」


「はっきり断られてただろ。勝手に決めるな」


 ナルシスが肩を竦める。


「馬鹿だな君は。姫は照れているだけさ」


 何をどう解釈したらそうなる。


「ええっ!?」


 突然、シャルロットが悲鳴を上げた。

 振り返ると、カウンターに宝石が転がっている。


「ぶふっ!」


「うひえぇっ!?」


 ナルシスと同時に吹き出した。

 ひとつでも相当な価値がある。これだけあれば、一生遊んで暮らせる。


「足りませんか?」


 不安げなセリーヌは、渋々言葉を続ける。


「大切な品ですが、この首飾りもございます……」


 セリーヌが胸元へ手を伸ばす。


「待て、待て、待て」


 慌ててとめた。


「小さいのひとつで十分だ。シャルロット、換金を頼む」


「はい」


 革袋へ宝石を戻しながら、冷や汗が流れる。

 村人で済む話じゃない。魔法。所作。金銭感覚。やっぱり妙だ。


「ナルシス。他言無用だからな」


「僕がお金に困っているように見えるかい?」


「問題はそこじゃねぇ」


 こいつの場合は、付きまといが問題だ。


 ほどなくして、シャルロットが紙幣と腕輪を持って戻ってきた。


「こちらが加護の腕輪です」


「説明はあとでまとめてする。今は付けとけ」


 腕輪を受け取り、セリーヌの腕に通す。


「少し大きいようですが……」


「大丈夫。ここを押すんだ」


 宝石部分を押し込むと、腕輪が収縮し、二の腕にぴたりと収まった。


「凄いですね」


「外す時も同じだ。今は付けてるだけでいい」


 感心する彼女から離れ、依頼受注の手続きを進める。


 対象は狼型魔獣ルーヴ三十頭。群れで動く厄介な相手だ。

 一頭千ブラン。リーダー個体は二千。食堂の最安メニューなら、一週間は食える。


「活動時間は夜が中心だ。馬車の最終便は十六時。遅れるなよ」


「馬車……ですか?」


「ん? どうやって行くつもりだったんだ」


「徒歩で周囲を見ながら向かおうかと」


「徒歩!?」


 思わず声が裏返った。


「ランクールまで四時間はかかるぞ」


「そうなのですか?」


 本気で驚いている。


 街道は比較的安全だ。それでも、こんな目立つ女性がひとりで歩けば厄介事に巻き込まれかねない。

 しかも本人に、その危機感がまるでない。


「とにかく、徒歩はやめろ」


 少し強めに言ってしまった。

 セリーヌがぱちぱちと瞬きをする。


「ご心配、ありがとうございます」


 柔らかな微笑みを向けられ、不意に言葉が詰まる。


「別に、心配ってほどじゃねぇよ」


 咄嗟に視線を逸らしてしまった。


「それにしても……」


 セリーヌが不思議そうにこちらを見た。


「店員さんなのに、ずいぶんお詳しいのですね。先程の剣術も見事でしたし、あなたこそ冒険者になられた方がよろしいのでは?」


「は?」


 ここまで気付いてなかったのか。


「服装は店員だけど、これでも冒険者なんだ」


 シャルロットが腹を抱えて笑い出した。その無遠慮さが、妙に腹立たしい。


「すみません。戦う店員さんだったのですね。大変失礼いたしました」


 セリーヌは申し訳なさそうに頭を下げる。


「もういいって。それじゃ、また後でな」


 軽く手を振るとセリーヌは丁寧に会釈し、そのままギルドを後にした。

 ナルシスも後ろをついていくが、付きまとい確定だ。衛兵に突き出すべきかもしれない。


 ともあれ、ようやく解放された。

 女将さんに怒鳴られる未来を想像しながら、食堂への道を歩く。

 それでも、世間知らずなあの美女のことが、妙に頭から離れなかった。

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