↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/394

12 月下の決闘


「そもそも、魔導師なのに露出が高過ぎるんだよ。なんなんだ。その、けしからん法衣は」


 すると、セリーヌの頬が耳まで染まった。


「その……以前、立ち寄った街で……この法衣が売れないと、今日食べる物にも困ると、商店の男性が泣いていらしたもので……」


「売り付けられたのか? だったら買うだけ買って、着なきゃよかっただろ」


「それが……私(わたくし)の着ていた物を下取りさせて欲しいと仰られて……商店の奥で着替え、差額をお支払いしたのです」


 どこまで純粋なんだ。そんな店なら、下手をすれば着替えまで覗かれている。


 店を聞きだして、店主を問い詰めたい。


「そんなことはどうでも良いのです」


 セリーヌは白の長衣から手を離し、拳をぶんぶん振っている。必死な様子に、思わず息を吐いた。


「こうなれば、今晩お時間をください」


「はい?」


「二十二時。街の南門を抜けた河原でお待ちしております。その装備でいらしてください」


「装備? なんでだよ」


 告白かと思ったら、なぜか装備指定。予想の斜め上だ。


「詳細はその時にお伝えします」


 強い口調で言い放ち、俺を睨んできた。


「それと、待ち合わせていることは内密に願います。誰かに漏らせば、求める情報は得られないと心得てください。では、後ほど」


「待ってくれ。ちゃんと説明してくれよ」


 俺の声を無視して、セリーヌは足早に立ち去っていく。


※ ※ ※


 その夜。言われた通り河原にやってきた。月明かりの下、川面を眺めるセリーヌの後ろ姿が見える。


 銀色の光が髪を縁取り、淡い霧のような夜気が俺たちを包む。世界がこの一瞬だけ隔離されたかのようだ。


「話って何だ?」


 振り返る瞳に、強い意思が宿っているのがわかった。


「先にお伝えしておきます。私(わたくし)は竜眼(りゅうがん)という力を行使できます」


「竜眼?」


「はい。使用した相手の記憶を書き換える力です。二十四時間以内の記憶に限られますが」


「なんだよ、それ……」


 そんな力まで存在するのか。


「あなたにも一度、この力を行使しました。竜の力を使うところを拝見しましたが、正体がわからないままだったものですから」


 胸の奥がざらつく。


「俺の、正体?」


「はい。竜の力を扱えるにも関わらず、神器にも疎く、無知と言わざるを得ません」


「だから、それは一方的に与えられた力で……俺に力を授けた竜を探せば、すべての理由がわかると思ってるんだ」


「それが、あなたを警戒している理由です」


 セリーヌは諦めたように短く息を吐いた。


「ここへお呼び立てしたのは、その剣、神竜剣ディヴァインについてです。熟考しましたが、あなたに預けておくわけにはいきません。その資格があるかどうか、勝負してください」


「本気か?」


「本気です。私が勝ったら、剣を渡していただきます」


「俺に勝てると思うのか?」


「私が負ければ、知っていることをすべてお話しします。その上で、身も心も好きにしていただいて構いません」


 心臓が跳ねたが、流される時じゃない。


「俺だって、この剣は手放せないんだ。他に納得できる方法はねぇのかよ」


「ありません。その剣を持つ資格があるか。それだけです」


 きっぱりと言い放ってきた。交渉の余地はないということか。


「ドラグ……」


 セリーヌは何かを言いかけたが、慌てたように口をつぐんだ。


「いえ……“竜の力”は使いません。私も疲弊しており、制御できませんから」


「そりゃ大盤振る舞いだな」


 こちらも疲労困憊だ。竜の力も一日一回と決めている。


「きゅうぅん……」


 ラグが左肩の上で困ったように鳴く。


「では、始めましょう」


「どうあっても戦うしかねぇのか」


 杖を構えるセリーヌの姿には、揺るぎない覚悟がにじんでいる。


「手加減は無用です。本気で来てください」


「怪我しても責任は取れねぇぞ」


「負けません。むしろ本気で来なければ、あなたが命を落とします」


 静かな殺気が肌へ突き刺さる。呼吸を整え、剣を握り直すと、嫌な汗が背を伝った。


「がうっ」


 左肩から飛び立ったラグを合図に、一気に踏み込む。狙うのはセリーヌの魔導杖(まどうじょう)だ。奪えれば無力化できる。


「雷竜轟響(ヴォロンテ・トネール)!」


 紫電が真一文字に走った。触れれば電撃の餌食だ。


 雷(いかづち)の魔法石を投げ込み、雷撃を相殺する。弾けた雷光の横を駆け抜け、低い姿勢で飛び込んだ。闇夜に、碧色の剣光が走る。


「ふっ!」


 腹部を狙った横薙ぎの一閃。傷を負わせることになっても、今は手加減できない。


 だが、セリーヌは寸前で身を引いた。斬撃を受け止めた杖から、硬い金属音が響く。


「地竜裂破《ヴォロンテ・ラ・テール》!」


 次の瞬間、地面が爆ぜるように隆起した。


「ちっ」


 横へ飛び、迫る土壁をかわす。


 しかし顔を上げた時には、炎の渦が目前に迫っていた。


「ぐあぁぁぁっ」


 全身を灼く熱が襲う。息が詰まり、地面を転げ回って炎を消した。


 腕輪の魔力障壁(プロテクト)は赤に変わり、身体から煙が立ち上っている。


 四つん這いになっているところへ、セリーヌが静かに歩み寄ってきた。


「無力さを思い知りましたか。剣を渡すのならば、命までは奪いません」


 冷たい声音だが、その言葉が逆に闘争心へ火を点ける。


「ふざけんな。勝負はまだこれからだ」


 ふらつく足で立ち上がり、剣を構え直す。絶対に負けられない。


「吠え面をかかせてやる」


 再び駆け、立ち上がる際に腰の革袋から抜き取っておいた閃光玉を、左手で投げつける。


「きゃあっ」


 炸裂した閃光が闇を裂く。セリーヌが腕で顔を庇った隙に、雷(いかづち)の魔法石を彼女の足元へ叩きつけた。


「あぁぁぁっ」


 電撃に、セリーヌの身体が痙攣する。


 胸が痛まないわけじゃない。それでも、ここで情けをかける余裕はなかった。


 すかさず杖に手を伸ばした。


 だが、セリーヌは強く握り締めて離さない。


「こいつ……」


 膝蹴りが頭をよぎるが、格闘戦までは思い切れない。


「渡しません。絶対に」


 鋭い瞳がこちらを射抜く。退路を断たれたような圧だ。


 卑怯でも構わない。まともに押し切れないなら、こっちも手段を選んでいられない。


「これでどうだ」


 杖から左手を離し、法衣越しに胸を掴む。これで狼狽するはずだ。


「飛竜斬駆(ヴォロンテ・ヴァン)!」


 予想外の反撃だった。セリーヌは眉ひとつ動かさず、腹部へ衝撃波を叩き込んできた。


 破砕音と共に身体が浮き、背中から地面へ叩きつけられる。


「がっ!」


 肺から空気が抜ける。内臓が軋み、視界が揺れた。


 腕輪が警告音を鳴らし、魔力障壁(プロテクト)が消滅する。


「まだだ……」


 残る力を振り絞り、どうにか立ち上がる。セリーヌは杖を構え、俺を見据えていた。


「もう後戻りはできねぇ」


 この剣の先に、まだ知らない何かがある。兄が待っている気がする。


 そんな確信にも似た感覚だけが残っている。


「ラグ。来い!」


 右腕を水平に突き出すと、甲の紋章に、ラグの姿が吸い込まれた。全身へ凄まじい解放感が広がる。


「まさか竜臨活性(ドラグーン・フォース)を!? 一日に二度も使えば身体が……」


「関係ねぇ。負けたら終わりだ」


 全身が悲鳴を上げていた。次が最後の一撃になる。


 剣を構え、意識を刃へ集中する。


 この剣が神器だなんて大層なものなら、力を示せ。ずっと沈黙していたのは、俺が正当な所有者じゃないからなのか。


「応えろ。神竜剣(しんりゅうけん)ディヴァイン!」


 血流そのものが流れ込むように、力が剣へ集まっていく。碧色の刃が、銀色の輝きを帯びた。


 セリーヌの目が大きく見開かれる。


「神竜剣が呼応している……」


 その反応を見て確信した。今ならすべてを斬り裂ける。


 セリーヌが杖を振るう。


「飛竜斬駆(ヴォロンテ・ヴァン)!」


 真空の刃が顕現(けんげん)した。受ければ終わりだが、俺にもこの力がある。


 脳裏へ、一閃の光景が浮かんだ。ラグを模した銀竜が、大地を抉り、空を裂いて駆け抜ける。


「ここだぁ!」


 咆哮と共に、上段から剣を振り下ろした。


 銀の竜が奔流となって迸り、迫る真空の刃を打ち砕く。


 勢いは止まらない。そのままセリーヌを飲み込み、轟音が夜へ響き渡った。


 彼女の腕輪から警告音が鳴る。


 光が弾け、最後に残ったのは、仰向けに倒れたセリーヌの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーむ。主人公って最強なの? 弱くね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。