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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

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09 膨らむ不穏と恋慕


 しばらくして、凶悪そうな連中がやってきた。


 戦鎚(ウォー・ハンマー)を肩に担いだ返り血まみれのシモンと、中堅衛兵におぶわれたルノーさん。その光景は、遠目に見れば山賊に捕らえられた老人そのものだ。


 俺はといえば、竜の力の反動に襲われている最中で、疲労と倦怠感で口を開くのも億劫だった。セリーヌとナルシスがいる手前、アンナが間に入って事情を説明してくれている。


 そんな中、岩場へ腰を下ろしたルノーさんに、セリーヌが近付いた。彼女の右手に、青白い光が宿る。


癒命創造(ラクレア・グラッセ)


 柔らかな光が患部を包み込み、しゃがんでいたセリーヌが顔を上げる。


「このまま十分ほどお待ちください。すぐに痛みも引きます」


「ありがとよ。便利なもんだなぁ」


 ルノーさんは感心したように呟きながら、周囲を見渡した。抉れた地面と砕けた木々。セリーヌの魔法で生まれた巨大な陥没跡が広がっている。


「それにしたって凄まじい力だ……まるで竜の一撃だぞ。とても、おまえさんがやったとは思えねぇ」


「天をも破壊するといわれた竜の一撃。竜撃(りゅうげき)ですね」


 返り血をタオルで拭っていたシモンに、中堅衛兵も深く頷いた。


「滅相もない。(わたくし)は少々、魔法を(たしな)んでいるだけです」


 セリーヌは困ったように微笑み、すぐに否定する。

 すると隣に座っていたアンナが、にやにやしながら肩を叩いてきた。


「リュー(にい)の一撃が凄すぎてさ。あの人の魔法ちゃんと見てなかったんだよね。だけど、フェリさんが知ったら絶対に仲間へ誘うよね。そうなったら、エド君と入れ替えかなぁ」


「おまえ、さらっと酷いこと言うのな」


 アンナの話は妙に真実味を帯びている。絶望するエドモンの顔を思い浮かべていると、ルノーさんの豪快な笑いが響いた。


「謙遜するなよ。魔導師ってだけで凄ぇんだ。こんな力で無名だったのが不思議だぜぇ」


「田舎の出身ですので。冒険者ギルドなどありませんでしたから」


「でも、これからは大活躍だな。魔法と、ドンブリみてぇなデカい胸。そりゃ魔獣も男も一発で落ちる」


 つい反射的にセリーヌを見てしまった。

 しゃがんだ姿勢のせいで、豊かな胸元が押し潰され、服の脇から今にも零れ落ちそうだ。見てはいけないと思うほど、視線が吸い寄せられてしまう。


 するとアンナが眉を吊り上げ、ルノーさんを指差した。


「お爺さん、胸の話は不潔だよ。リュー兄みたいにムッツリじゃないから許せるけどさ」


「おい、誰がムッツリだ」


 否定したいが、セリーヌの胸元を見ていたのは事実だ。


「君さえよければ、王国魔導師への推薦もできるが」


 不意に、シモンがとんでもないことを言い出した。


「勝手なことを言わないでくれたまえ。彼女は僕の協力者として……」


「ナルシス、てめぇ」


 首へ巻かれた血塗れのタオルを掴んで、軽く締め上げる。


「どさくさに紛れて勝手なこと言ってんじゃねぇ」


「ぐえっ」


「おやめください」


 泣きそうな声に、場の騒ぎがすっと収まった。


「王宮へ仕えるつもりも、誰かとパーティを組むつもりもありません。ただの村人です。どうか、そっとしておいてください」


 その言葉に、張っていた空気がふっと緩む。誰からともなく笑いが漏れ、気付けば衛兵たちとも自然に言葉を交わせるようになっていた。少し前まで壁を感じていた相手と、こうして笑い合っているのが不思議だった。


「リュー兄、これ」


 アンナが放ってきたものを受け止める。掌に収まったのは、一握りほどの白い魔法石だった。


魔導通話石(まどうつうわせき)じゃねぇか。一組で五万ブラン以上する高級品だろ。ギルド支部同士の連絡に使われるくらいで、実物を触るのは初めてだぞ」


『え!? その声、リュシーなの!?』


「シルヴィさん!?」


 懐かしい声が石から弾け、胸が熱くなる。


『なんでアンナと一緒にいるのよ。あたしも行けばよかったぁ』


「魔獣討伐なんて退屈〜、って残ったのはシル(ねえ)じゃん」


 隣に立ったアンナが、からかうような声を上げる。


『なによそれ。ひどいわ!』


 誰に対して怒っているのかよくわからない。


『ちょっと、リュシー。久しぶりなのに、愛の言葉のひとつもないわけ?』


「いや、依頼の途中なんで……切りますね」


 通話石をアンナに返すと、周囲が微妙な空気に染まっていた。

 シルヴィさんを知るアンナだけは平然としているが、他は不思議そうな顔だ。


「がるるる……」


 左肩のラグが低く唸った瞬間、空気が一変した。

 セリーヌは治療を中断し、アンナもクロスボウを構えて警戒する。


「急にどうした?」


「静かにして」


 アンナの猫目が鋭く細められる。


「敵に囲まれてる。みんな、固まって」


 促されるまま断崖を背にして密集すると、セリーヌが不安げな顔を向けてきた。


「リュシアンさん……感じていた魔力が、さらに濃くなっています」


 ランクールで会った男の声が脳裏をよぎる。


「次はもっと面白いものを……なんて言ってたよな」


 すると、木々の奥から人影が現れた。冒険服や軽量鎧(ライトアーマー)を纏った者たちが、次々と森から姿を見せる。


 三十人近い。武器も装備もばらばらだが、全員が白目を剥き、獣のような低い唸り声を漏らしている。


「大森林絡みの依頼で、消息不明になった冒険者たちがいるって話なんだ……」


「その冒険者ってこと!?」


 アンナが悲鳴のような声を上げる。


「可能性があるってだけだ。でも、正気を失ってる」


 剣を抜きながら、衛兵を見る。


「ルノーさんの護衛を頼む」


 だが、問題は別にある。


 竜の力は使い切った。全身に重い倦怠感が残り、まともに動けるかも怪しい。

 そして何より、俺はまだ、人を斬ったことがない。


 手が震え、脇に嫌な汗が滲む。覚悟がまとまらないまま、敵は距離を詰めてくる。


 細身剣(レイピア)を構えるナルシス。戦鎚(ウォー・ハンマー)を握るシモン。杖を抱くセリーヌに、クロスボウを構えたアンナ。俺たちは円陣のように陣形を組み、後方では衛兵がルノーさんを支えている。


 森の空気が、張り詰めたまま静かに軋む。

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