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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

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05 空から来た女神


「彼等は衛兵ですよ。ルノーさんの奥さんが手配してくれたんです」


「こんな老人のために、すまねぇなぁ」


 頭を掻いて苦笑するルノーさんを支え、中堅衛兵に歩み寄る。


「ルノーさんをお願いします。俺はまだ、やり残したことがあるんで」


 そこへ、シモンが近付いてきた。


「アレニエ・エンセ。見付からないのか?」


「えぇ。早く探さないと」


 頭上の枝葉を見上げた時だった。


「ちょっと待て。アレニエだと?」


 ルノーさんが急に声を張り上げる。


「おまえさん、あいつを探してんのか?」


「は? えぇ、まぁ……」


「あいつの粘着糸に巻かれちまってな。盗られた物があるんだ。儂も行こう」


「いや、その足じゃ無理ですよ」


 慌てて止めると、ルノーさんは中堅衛兵を眩しそうに見上げた。


「おぶってくれるよな?」


 彼は明らかに困っている。


「いや、無茶です。取られた物を教えてくれたら俺が取り返しますよ」


「ダメだ。自分で取り返さねぇと気が済まん」


 俺の気が済まない。魔獣より、この人の発明品の方が危険だ。


「御老人。あなたも怪我をされているようだ。ここは彼に任せましょう。民衆の安全を守るのが、我々の務めですから」


 シモンを初めて褒めたいと思った。

 しかし、ルノーさんは不満そうに鼻を鳴らす。


「おい、熊。それならおまえが守ってくれ。さっさと行くぞ」


 熊。妙にしっくりくる呼び方だが、話がどんどんややこしくなっていく。


「ルノーさん。はっきり言いますけど、その怪我じゃ足手まといです」


牡鹿(おじか)の。言ってくれるじゃねぇか」


「えぇ、言いますとも。ルノーさんを背負った衛兵が付いてくるくらいなら、俺ひとりの方が絶対に強いです」


 勢いで言い切ると、シモンまで血まみれの顔で睨んできた。


「ほぅ。大した自信だな」


 そのまま腕を組み、低い声で続ける。


「そこまで言うなら、碧色の閃光の実力を見せてもらおう。我々はここで朗報を待つ」


 その瞬間だった。

 ルノーさんが、ぎょっとした顔でこちらを見る。


「碧色の閃光だと? おまえさんが、そうだったのかよ……」


 驚いたように目を丸くした後、観念したように肩を落とした。


「なら、儂の出番はねぇな」


 どうにか話は収まったらしい。


「牡鹿の。これを持っていけ」


 ルノーさんはリュックを漁り、筒状の道具を三本取り出した。ラグが興味津々に身を乗り出してくる。


 いや、食べ物じゃねぇからな。


「信号弾ですか」


「おう。残りを持ってけ。アレニエを仕留めたら打ち上げろ。魔力光が数分は残る。それを頼りに儂たちが向かうって算段だ」


「最初から、それを使ってくれてたら良かったんですけどね」


「馬鹿野郎。まさか本当に救助が来るとは思わねぇだろ。何本か使っちまったが、ここぞって時のために残してたんだ」


「そういうことですか。わかりました」


 信号弾をしまおうとリュックを開けると、包みが目に入った。


「ルノーさん、お腹空いてませんか? 女将(おかみ)さんの弁当、待ってる間にどうぞ」


「おおっ、弁当だと」


 さっきまでの険悪な空気はどこへやら。やはり空腹は人を荒れさせるらしい。

 本当は俺の昼飯だが、この場が収まるなら安いものだ。


 血まみれの熊と、危険物を量産する老人。この凶悪なふたりを大人しく座らせておけるなら、弁当ひとつくらい惜しくない。


「酒はねぇのか?」


「あるわけないでしょうが!」


 そして、ようやくアレニエ捜索に戻れた。剣を一刻も早く取り返したい。


 別れ際に聞いた話では、俺が助けた若い衛兵は、最初に倒れた仲間を連れて森を出たらしい。ルノーさんを探すため、再び森へ戻ってきたシモンの根性だけは認めざるを得ない。お陰で窮地を救われたのも事実だ。


「さてと。アレニエの巣穴か」


 アレニエは岩肌を削り、巣穴を作る習性がある。視線を巡らせると、小高い岩壁が目に入った。


「あの辺、怪しいな……」


 そう呟いた時だった。茂みが激しく揺れ、頭上から何かが落ちてきた。


「うおっ」


 押し倒され、そのまま後頭部を強打した。視界が一気に闇で覆われる。


「ふがっ……」


 顔へ何かが張り付き、激しく圧迫される。息ができない。


 混乱しながらも、顔に乗っているものをどかそうと手を伸ばす。すると、指先が食い込むほどの柔らかな弾力に触れた。


「ひゃうぅっ」


 頭上から、声が上がった。冒険者としての反射か、体は即座に臨戦態勢へ切り替わる。


 おそらく、森に生息するスライム種、スライム・フォレだ。それも二体。

 高所から飛び掛かり、吸盤で張り付きながら血を啜る厄介な魔獣だ。大きいものだと成人の頭部ほどになるというが、こいつもかなり大きい。手の平からはみ出すほどだ。


 しかし、声を出すスライムなんて聞いたことがない。まさか新種か。


 絶対に逃がすまいと、思わず両手へ力を込めた。


「ひゃあぁっ……」


 悲鳴を聞きながら、背筋と腹筋に力を込め、勢いよく上半身を起こした。

 だが視界の闇は晴れない。それどころか、両袖を引き裂くように何かが絡みついてきた。


 触手まで使うとは、とんでもない魔獣だ。


「くそっ」


 やむを得ず手を離し、絡み付く触手を振り払う。頭を覆っていた白い布のようなものが、するりと顔から滑り落ちた。


 そこで、ようやく視界が開ける。


「はぃ?」


 思考が止まった。目の前にいたのは、スライムよりもとんでもないものだ。


「いたたた……」


 白い肩と胸元を覗かせながら、後ろ手をついて座り込む絶世の美女。

 法衣のコートは大きくはだけ、長い脚が大胆なM字に開かれている。黒い下着まで丸見えだ。


「どうして君が?」


 まさかのセリーヌだった。


 状況が理解できない。視線だけが勝手に、彼女の白い脚と黒い下着を往復してしまう。


「はわわわわ……」


 俺の視線に気付いたセリーヌが、慌てて裾を押さえた。

 しかし支えにしていた手が離れたせいで、そのままあっさり後ろへ倒れる。


「きゃっ」


 長い脚が跳ね上がり、また黒い下着が覗いた。

 起き上がろうと必死にもがく姿が、妙に可愛らしい。


「あの……助けて頂けませんか……」


「悪い……」


 慌てて立ち上がり、彼女の手を取る。セリーヌは真っ赤になりながら、乱れた法衣を整えている。


 これはどう言い訳すべきか。事故とはいえ、胸を鷲掴みにしてしまった。シモンがいたら、間違いなく捕まっている。


「ごめん。魔獣に襲われたのかと思って……やましい気持ちはまったくない」


 勢い余って土下座すると、なぜか隣でラグまで伏せの姿勢になっていた。


 おまえは何をしてるんだ。


「落下して巻き込んでしまった(わたくし)にも非があります。咎めるつもりはありません。ただ……このような醜態を晒してしまうだなんて……どうか忘れてください」


 セリーヌは顔を真っ赤にしたまま、法衣の裾をぎゅっと握り締めている。


「わかった。絶対に忘れる。約束する」


 黒い下着なんて見ていない。本当に見ていない。


「リュシアンさんは、不思議な方ですね」


 セリーヌは一瞬だけ俺を見つめ、それから小さく笑った。

 その笑顔は、頭から離れなくなりそうなほど魅力的に映った。

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