表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/380

02 奪われた碧


 南方出身者特有の赤髪と浅黒い肌。小柄な体格だが、その身のこなしは目で追うのも難しい。

 ランクAの斥候(せっこう)役、アンナ。 “神眼(しんがん)狩人(かりゅうど)”という二つ名を持っている。右手には、魔導クロスボウ。魔力の矢を自動生成する優れ物だ。


夢幻翼(レーヴ・エール)、って名前だったか……いい武器だよな」


 思わず口に出すと、アンナは得意げに微笑む。


「ありがと。それはそうと、ここって薬草とか鉱石とか、天然資源が豊富でしょ? “商人の聖域”なんて呼ばれてるし。明日、アンナたちも護衛依頼で来るの。今日はその下見。あ、アンナだけじゃなくてね……」


 そこへ、シモンのわざとらしい咳払いが響いた。


「こんな薄暗い森で生活費稼ぎとはな。冒険者とは根暗なものだ」


 三十歳らしいが、もう少し気を遣えないんだろうか。


「森が根暗? 発想が貧困だな。そのお陰で、あんたの大事な部下は助かったんだろ」


「ぐっ……」


 図星だったらしい。


「ぷっ……だめ、無理。笑い死ぬ……」


 アンナは腹を抱え、肩を震わせている。


「用がないなら行くぞ。ルノーさん、まだ見つかってねぇんだろ」


「なぜそれを知っている」


「街の人に頼まれたんだよ。あんたらじゃ不安なんだとさ」


 シモンの小さな目がわずかに見開かれた。

 正式に捜索を任されているのは衛兵側だ。当然、面白くはないだろう。


「下がってもらって結構。我々が担当する」


「ひとりやられたばっかりだろ。兵長のあんたが出張るくらい危険な場所だ」


「問題ない」


 戦槌(ウォーハンマー)を抱えて腕を組み、尊大に言い放たれた。

 そこまで言うなら、深入りする義理もない。


「そうですか。じゃあ退散しますよ」


 アンナに視線を向けると、猫のような目がきらりと光った。


「手伝ってあげよっか?」


「向こうで話そうぜ」


 アンナの追跡能力があれば、捜索はかなり楽になる。


「待て」


 振り返ると、シモンが頭を掻いていた。


「は? まだ何か?」


「その……なんだ……部下が世話になった」


 あまりにも不器用な礼に、少しだけ笑いそうになる。


「困った時はお互い様、ってことで」


「がるっ」


 ラグが警戒の唸り声を上げた。直後、右腕が強く引かれる。

 いつの間に襲われたのか。白い糸が、手首から剣先まで絡みついていた。


「やべぇ」


 糸を伝い、青白い電流が走る。

 腕が焼けるように痺れた。歯を食いしばり、無理やり糸を引きちぎって飛び退く。


「電撃か……」


 頭上を睨むと、枝葉に紛れる大型アレニエが見えた。

 枝葉の奥に潜んでいたのは、通常種よりひと回り以上大きなアレニエだった。

 胴体だけで、俺が両腕を広げたほどもある。


「木が邪魔で、急所が見えないじゃん」


 クロスボウを構えたアンナの喚きを聞きながら、魔獣に目を凝らす。


「でかいな……」


 その腹部には、白い袋がぶら下がっている。


「卵を抱えた雌アレニエ……依頼書にあった個体か」


「おい、大丈夫か」


 すかさず、シモンが駆け寄ってきた。


「アレニエ・エンセ。討伐ランクBの強敵だ」


 雌アレニエが素早く糸を巻き取る。絡め取られているのは、細長い見覚えのある影だった。


 そこでようやく気づく。右手が軽い。軽すぎる。


「は?」


 息が止まる。胸の奥が、嫌な音を立てて縮んだ。

 あれだけは駄目だ。あの剣だけは。


「返せ」


 叫んだ直後、周囲の木々から、次々とアレニエが降ってくる。その隙に、雌アレニエは森の奥へ後退していく。


「逃がすか」


 ランクがどうとか、危険だとか、そんなことはどうでもいい。神竜剣を持っていかれてたまるか。


「先行するから、付いてきて」


 アンナはクロスボウを背中の留め具に収め、木を駆け上がる。

 相変わらず、猿みたいな身軽さだ。


「頼んだぞ」


 肩までの赤髪を揺らし、アンナが振り返って笑う。

 俺は、眼前へ迫るアレニエたちに向き直った。


「使え」


 シモンが放ってきた長剣(ロングソード)を掴む。


「礼だ。後で返せ」


「助かります」


 受け取った剣を抜き放ち、そのまま踏み込んだ。

 一閃が胴体を断ち切る。アレニエは体液を撒き散らしながら崩れ落ちる。


 だが、違う。重さが合わない。手に馴染まない。


「これじゃねぇ……」


 右手が妙に落ち着かなかった。

 それに、並の武器では竜の力に耐えられない。


「絶対に逃がさねぇ」


 雌アレニエを追いながら、シャルロットの言葉が脳裏をよぎる。


『光る物に反応して、糸で絡めて持ち帰っちゃうんですって。私もリュシアンさんにお持ち帰りされた〜い』


「どうでもいい部分だけ鮮明だな」


 碧色に輝く神竜剣。あれは格好の餌だ。

 完全に油断していた。


「くそっ」


 焦りで注意が散る。踏み込んだ足元から、地面が消えた。


 身体が宙へ投げ出され、そのまま斜面を転がり落ちる。

 激しい衝撃と浮遊感。意識は、そのまま闇へ沈んだ。


※ ※ ※


 完全な暗闇だ。遠くで、淡い光が揺れている。


「目ぇ覚ましたか。ずいぶんうなされてたぞ」


 しゃがれた声に、ゆっくり目を開けた。空になった右手に気づき、指先が震える。


「妙な夢を見てた気がする……」


 夢ならよかった。本当に、夢なら。


「兄貴だの竜だの……お持ち帰りしたいだの。賑やかだったな」


「え?」


 嫌な気分を吹き飛ばすほどの一言だった。最後の言葉は聞かなかったことにしてほしい。

 身体を起こすと、全身が軋んだ。ラグが、左肩へ飛び乗ってくる。


「上から転げ落ちてきやがった。引きずるのは骨が折れたぞ」


 暗がりの中に、老人の輪郭が浮かぶ。


「助かりました」


 剣を奪われた自分の迂闊さに、奥歯を噛み締めた。


「牡鹿亭の若いのだろ。住み込み冒険者が働いてるって、女将から聞いてるぜぇ」


「え?」


「よっこいせ……っと」


 老人がぎこちなく立ち上がり、頭上から吊られた小さな灯具へ手を伸ばす。

 拳ほどの丸い灯具が、わずかに揺れた。


魔力灯(まりょくとう)ってのは便利だよなぁ。昔はデカくて扱いづらかったが、今のは日光で魔力を溜めて、一日中光る」


 光がぶれないよう押さえながら、老人が笑う。


「しかも光量まで調整できる。ほら、ここだ」


 灯具の底を押す。淡い光が少し弱まり、老人の顔が浮かび上がった。

 肩まで伸びた白髪。伸び放題の無精髭。厚手の冒険服に頑丈そうなブーツ。傍らには、大きなリュックが置かれている。


「もしかして……ルノーさん?」


「そうだ」


「どうしてこんな森に?」


「魔獣退治だ。死ぬ前に、少しは世の役に立たんとな。女子供でも扱える護身道具を作ってんだ」


「道具作りが得意なのは、街でも有名ですよ」


 とはいえ、勇ましき牡鹿亭で酒を飲んでいる姿しか見たことがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ