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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.02 ムスティア大森林編

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01 蜘蛛に囚われた森


『“蜘蛛に囚われた森”を探せ』


 あの男の声が、まだ耳に残っている。


 終末の担い手。


 狂った男が残した、例の言葉だ。


「蜘蛛に囚われた森……実際に見ると、ここで間違いない」


「がうっ!」


 左肩の上で、ラグが短く吠えた。


「突き止めるのに、二ヶ月もかかったぞ……あの野郎」


 眼下に広がるのはムスティア大森林。見張り小屋の立つ丘からは、風に揺れる樹海が一望できる。


 穏やかな景色だ。

 それなのに、胸の奥が落ち着かない。


 胸ポケットから羊皮紙を取り出す。

 中心から外へ広がる六角形の道。蜘蛛の巣を思わせる測量図だ。


『ようやく見つけました。この森かもしれません』


 シャルロットの連絡で、冒険者ギルドに呼び出された。

 差し出された地図を見た瞬間、胸の奥がざわついた。


「偶然にしては、出来すぎか」


 森に入ったきり戻らない老人を、連れ帰る。

 それが一番の目的だが、ついでに確かめる価値はある。


「まずは、ルノーさんを探すのが先だな」


 六つある入口のうち、最寄りの道へ足を踏み入れた。


※ ※ ※


「どこにいるんだ」


 鬱蒼と茂る森は薄暗い。膝まで伸びた下草が足に絡む。


 探しているルノーさんは六十を越える老人だ。無茶をする人には見えなかった。

 だが昨日、森へ入ったきり戻らない。


 左肩のラグをちらりと見る。


「ヴァルネットじゃそこそこ有名らしいんだ。奥さんは衛兵に頼んだらしいけど、女将(おかみ)のイザベルさんが“それじゃ足りない”ってさ。で、俺に声がかかったってわけ」


「がう、がうっ」


 イザベルさんに同意するように、力強い声が返ってくる。


「でもさ、もうひとつ気がかりがあるんだ。半年くらい前から、大森林での依頼を受けた冒険者の消息不明が続いてるらしい……関係なきゃいいけどな」


 森の奥に目を向ける。

 風がやんだ気がした。


「ラグに謎の距離制限がなけりゃ、空から探してもらうんだけどな」


「きゅぅぅん……」


「あぁ、落ち込むなって」


 軽く笑い、水筒をあおる。甘みのある野菜飲料が喉を通った。


「やっぱり水にすりゃよかった……弁当まで持たされて、行楽かよ」


 外周を歩いていた、その時だった。


「ひいぃぃっ!」


 若い男の悲鳴が森に響いた。


「冒険者か?」


 腰の剣を抜き、駆ける。


 木々の間で、三人の衛兵が魔獣アレニエに囲まれていた。


 一抱えはある深緑の蜘蛛型魔獣。糸一本で木々を渡り、牙に神経毒を持つ厄介な相手だ。

 すでにひとりが倒れ、痙攣している。


「直線的にしか動けねぇ。目を離すな」


 碧色に輝く刃を振るう。


 振り子のように跳ぶ一体を、軌道ごと断ち切った。

 毒だけ気をつければいい。


 横合いから来た個体を一閃で両断。

 踏み込み、二体、三体。


 気づけば、足元にはいくつもの死骸が転がっていた。


「怪我はないか?」


 若い衛兵に声をかけた瞬間、彼の頭上に影が差す。


「上だ!」


 この距離では間に合わない。


 だが次の瞬間、黄金色の光が木々を抜けた。

 魔力の矢がアレニエの頭部を貫く。


 とどめを刺そうと踏み込んだ、その時だ。


「ふんぬうっ!」


 巨大な戦鎚(ウォーハンマー)が振り下ろされ、魔獣は潰れた。


「潰れてしまえ! 馬鹿タヌキめ!」


 鎚を振るうのは、大柄な男だ。


 角刈りの短髪、角ばった顔。鎧がはち切れそうなほどの体格。

 飛び散る体液も気にせず、なおも叩き続ける。


「兵長、もう大丈夫ですから」


 さっき助けた若い衛兵が止めに入る。


「気が済むまでやらせてやれ。鬱憤が溜まってるんだ」


 中堅らしき衛兵が肩をすくめた。


「でも、タヌキというのは何ですか?」


「ダミアン長官のあだ名さ。兵長、いびられててな。で、魔獣相手に発散してるわけよ」


 これが、ヴァルネット衛兵長のシモン・アングラードか。

 噂以上に危険そうな男だ。


「あなたのおかげで助かりました」


「いや、とんでもない。俺はこれで」


 頭を下げてくる中堅衛兵を留め、早々に背を向ける。


「碧色に輝く刀身……貴様、リュシアン・バティストだな?」


 野太い声が飛んできた。


「え!? あの“碧色の閃光”!?」


「冒険者ごときに色めき立つな」


 若い衛兵を小突き、シモンが睨んできた。


「矢を撃ったのも貴様か?」


「弓を持ってるように見えます?」


 両手を広げて見せると、背後で枝葉が揺れた。


「矢を撃ったの、アンナだから!」


「は?」


 木の上から軽やかに降り立ったのは、小柄な少女だった。


「なんでおまえが」


「それ、こっちのセリフ。まさか、リュー(にい)がいるなんてさ」


 猫のような目を細め、アンナが笑う。


 その背後。

 森の奥が、わずかにざわめいた気がした。

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