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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.01 ランクール編

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10 最悪の誤解


「そうですよ」


「なんで、おまえが答えるんだよ」


 シャルロットに不満を漏らした時だった。


「うひぇぇぇっ!」


 ナルシスが悲鳴を上げ、見たこともない勢いで後ろへ飛び退いた。


「有名なのですか?」


 セリーヌが興味津々といった様子で、こちらを見てくる。


「はい。ナルシスさんは史上最年少でランクCへ昇格した方ですけど……」


 シャルロットは、なぜか自分のことのように得意げな顔をした。


「リュシアンさんは、史上最速でランクAまで昇格した冒険者なんです」


「ったく、余計なことを……」


「なるほど。さすがですね」


 セリーヌに認められるのは嬉しいが、それ以上に照れくささが勝ってしまう。


「ランクが上がったのも、二つ名が付いたのも、気付いたらって感じだ。俺にとっては、あだ名みたいなもんだ」


「またまた。二つ名は、特別な功績を挙げた冒険者にしか贈られないんですから」


 にやつくシャルロットに肘で突かれ、返答に困った。


「名誉なことなのですね。(わたくし)もいつか、そんな二つ名をいただけるのでしょうか?」


「間違いねぇ」


 理由を説明しろと言われても、上手く言葉にできない。それでも、確信はあった。


 規格外の美女。いや、破壊の申し子か。それとも、強欲の守銭奴(しゅせんど)か。


 美人で、天然で、愛嬌もある。そのうえ、あの規格外の魔法を使う腕前だ。いずれ、彼女の名は広く轟くだろう。


「リュシアン・バティスト。君を超える冒険者になってみせる」


 ナルシスは涙目のまま拳を握り締めていた。


「その前に、名付けの感覚を磨け。まぁ、共闘は二度としねぇけどな」


「覚えていろ」


 三流悪役のような捨て台詞を残し、ナルシスはギルドを飛び出していった。


 それを見送り、セリーヌが小さく笑う。


「楽しい方ですね。甘辛ボンゴ虫も、美味しい美味しいと涙を流して召し上がられて」


「あれを食わせたのか……」


 断れなかっただけだろう。あいつもあいつで、大変だったらしい。


 しかし、これでひとまず一段落だ。


 俺自身の目的はまだ道半ばだが、今はランクールからの報せを待つしかない。


「依頼も終わったし、ここで解散か……セリーヌはどうするんだ?」


 別れを意識した途端、胸の奥がわずかにざわついた。


「しばらく、この街に留まるつもりです。探しているものが、近くにある気がするのです」


 その言葉に、ほっとする自分がいた。


「探しものなら、手伝わせてくれないか」


 気付けば、口が先に動いていた。


「あの~。ずいぶん楽しそうなお話ですね」


 シャルロットが険しい顔で割り込んでくる。


「こっちの話だ。詮索するな」


「ひどい……私という者がありながら、この人に手を出すつもりですか」


「は?」


 セリーヌが目を丸くしている。どうやら、これは冗談になっていない。


「嘘をつくな。俺が、いつシャルロットに手を出した? そんなことしたら、おまえの親父さんだって黙ってねぇだろうが。怒りを買って、ギルドを除名されてるぞ」


 シャルロットはセリーヌの前へ立ちはだかり、両腕を大きく広げた。


「気を付けた方がいいですよ。リュシアンさん、スケベで有名ですから。今だって、あなたの胸ばっかり見て……」


 セリーヌは純白の長衣を引き寄せ、慌てて胸元を覆った。


「シャルロットさんのお話は本当なのですか?」


「違う。今は見てねぇ」


「今は、ってことは、確実に見てますよね」


 シャルロットが力強く断言する。


 するとセリーヌは、眉根に皺を寄せた。


「誠実そうな方だと思っていたのに……」


「違うって言ってるだろ」


「それ以上は近付かないでください。あなたとの行動は、お断りさせて頂きます」


 小さな声だったが、その言葉ははっきりと胸へ突き刺さる。


 セリーヌはそのまま踵を返し、ギルドの扉の向こうへ消えていった。


「行っちゃいましたね……」


 シャルロットが呆れたように肩を竦める。


「おまえのせいだろうが」


「でも、胸は見てたんですよね?」


「完全には否定できねぇ……」


「最低です。不潔です。やっぱりスケベじゃないですか」


 お下げを振り乱しながら、シャルロットが指差してきた。


 こんな終わり方があっていいのか。


 胸の奥が、鈍く沈んでいく。


「シャルロット。俺は怒ってるんだからな」


 落ち込む俺を見て、さすがにまずいと思ったのだろう。シャルロットも、急に大人しくなってしまった。


「やり過ぎちゃいました?」


 誤魔化すように、ぺろりと舌を出してきた。


 笑ってはいるが、その瞳には、ほんの少しだけ寂しそうな色が浮かんでいる。


 そんな彼女を残し、俺は打ちひしがれたままギルドを後にした。


 夕暮れのヴァルネットは、人通りこそ多いのに妙に遠く感じる。


 石畳を踏む音も、屋台の呼び込みも、どこか上滑りするように耳を抜けていった。


「これで本当に嫌われたら、どうしてくれるんだよ……」


「がう?」


 左肩のラグが首を傾げる。


 こいつにはわからないだろう。


 ようやく距離が縮まりかけた相手に、“スケベで有名”なんて誤解を植え付けられた男の絶望など。


「笑えねぇ……」


 胸の奥に残る鈍い痛みを誤魔化すように、人混みを掻き分けて歩いた。

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