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王宮から夜会の招待状が届いた。国王陛下の誕生日を祝い公爵から男爵までの貴族全員を招いた大夜会だ。
「きっとそこでウィルが狙われるイベントが起きる」
ルシアには確信があった。あのままヒロインが何もしないわけがない。
何故既婚者を狙うのだろう。独身男性を狙えばいいのに。
略奪しないと生きていられないのだろうか?
夫は人気が高い。他のマダムや令嬢にも狙われるかもしれない。
心配でたまらくなったルシアはウィルに相談しミアとブランに一緒に参加してもらうことにした。
「ウィルお前女の数人くらい簡単に躱せるじゃないか。何で俺が一緒に行くんだよ」
侍従で幼馴染の男は口が悪い。
「ルシアが心配するからさ。変な女がいるから1人にさせたくないんだと。それにブランにはルシアの警護に付いてもらいたいし、一緒に行ってもらえると都合がいいんだよ。陛下に挨拶をしたら直ぐに帰るつもりだ」
「なるほどな。変な女なら消してしまえばいいじゃないか」
「頭可怪しいけど一応伯爵令嬢だからな。これが終わったら考えるさ」
「やり方はひとつじゃないからな」
ブランが不敵に笑った。
「ああ、ルシアを苦しめる奴は許さない」
表情が抜け落ちた顔は見慣れている侍従でもゾッとした。
「おお〜怖っ。何でお前に目をつけたんだか。相手が悪すぎだろう?」
ブランの言葉を聞いたウィルは口の端を僅かに上げた。
夜会当日になった。
ルシアは朝からメイド達に磨かれ、ウィル色の青いサテンのマーメイドドレスにブルーダイヤモンドのネックレスとイヤリング、お出かけで買ってもらった指輪で着飾った。(装備を固めたとも言う)髪は緩く結い上げてある。
戦闘準備は万全だが行く前から疲れた気がする。
だが出席は絶対だ。行かなければ女の戦いに負ける。
夫は陛下に挨拶すれば直ぐ帰ると言ってくれているがそう上手くいくものだろうか。
ウィル、ミア、ブランと味方は3人いる。1人にならないように気を付ければ乗り越えられるのだろうか。
ヒロインが来なければいいと思う一方で怖がってどうする、前を向け、負けるなと鼓舞をする自分がいた。
整いすぎた美貌の夫が正装すると輝きが増す気がする。眩しい。
「とても美しいね。俺の女神。綺麗すぎて誰にも見せたくない。挨拶をしたら早めに帰ろうね」
「ウィルもかっこいいわ。ずっと側にいてね」
「もちろんだよ。もしもの時のためにミアとブロアも付いている。心配はいらないよ」
ミアは男爵家の3女。ブランは子爵家の4男だ。貴族として参加することになっている。
こうして私達は夜会に足を踏み出した。
会場は綺羅びやかな光と様々な色のドレスと多種多様な香水の香りの洪水だった。
夫のエスコートを受け、扇で口元を隠し匂いを防いだ。気持ちだけだけど。
混ざりあった香水ははっきり言って気持ちが悪い。
夫に寄り添い知り合いに結婚の挨拶をしながら移動をする。
あちらこちらで声を掛けられるが夫が対応してくれるので微笑んでいるだけだ。さすが公爵令息だ。卒がない。子爵だが実家の後ろ盾が見えるせいか侮っては来ない。
喉が乾いたので給仕からグラスを受け取り飲もうとしたら、見知らぬ令嬢にぶつかられ赤ワインがドレスにかかった。これが夜会の洗礼?頭の片隅で声がする。
「ああっ、申しわけございません。急いで拭けば落とせるかもしれません。私と一緒に化粧室へ行っていただけませんでしょうか」
「あなたねえ、赤ワインが染みたのに…」
ルシアが答えようとしたらウィルが切って捨てた。
「結構だ。侍女に付き添わせる。ミア急いで着替えを手伝ってやってくれ。ご令嬢貴方の名前は?家に損害賠償を請求する。まだ公爵家にも王家にも挨拶もしていないのにドレスを汚されるとは言語道断だ」
「サ、サンディ子爵家の娘エ、エリサと申します」
令嬢の顔は真っ白になっている。ドレス1枚で普通の平民の年収を超えるのだ。子爵令嬢がお小遣いで弁償出来る額ではない。
「ウィル、ミアと行って来るわ。落ちなかったらそのまま失礼いたしましょう」
「せっかく着飾ったのにこんなことになるなんて残念だよルシア」
冷たかったウィルの表情が私を見て蕩けている。
怯えている令嬢を見ても何も言う気にはなれない。
敵の可能性が高いのだ。同情するわけがない。
ウィルに微笑みかけて控え室へ向かった。その後をブランがそっと追った。
1人になったウィルに近づいてきたのがヒロイン、マリア・サンドルだった。
側に来たと思った途端よろけてウィルに縋った。
「申しわけありません。躓いてしまいました」
たわわな胸を押し付け上目使いの潤んだ瞳で首を傾けた。これで大抵の男は落ちる。きっと彼も……。
「腕を離してくれないか。私は柱ではない」
だが返って来たのは氷のような絶対零度の言葉と凍てつくような瞳だった。
周りの貴族から
「あそこまできつく言わなくても」
「いや、新婚なんだ。奥方以外に触れられたくないのだろう」
「殿方の近くで転ぶなんてはしたないことね」
という雑音が聞こえて来たがウィルにはどうでも良かった。
鬱陶しい女狐をどう始末してやろうかという考えでウィルの頭の中は一杯だったのだから。
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