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第3話 黒き腕

空の裂け目から伸びる黒い腕。


 


それは空間そのものを軋ませながら、

ゆっくりと王都へ降りてきていた。


 


人々は逃げ惑う。


騎士たちは剣を抜き、

魔導師たちは震える手で詠唱を始める。


 


だが——。


 


誰も理解していなかった。


 


“アレ”が、

人間の力でどうにかなる存在ではないことを。


 


「全魔導師隊、展開!!」


 


王都防衛隊の隊長が叫ぶ。


 


次の瞬間。


無数の魔法陣が空に浮かんだ。


炎。


氷。


雷。


上級魔法が一斉に放たれる。


 


轟音が王都を揺らした。


 


「やったか……!?」


 


誰かが呟く。


 


だが。


 


黒煙の奥。


 


黒い腕は、

無傷のままだった。


 


「——は?」


 


騎士たちの顔から血の気が引く。


 


そして。


 


パキッ。


 


空気に亀裂が走った。


 


黒い腕の周囲で、

空間そのものが砕け始める。


 


「伏せろ!!」


 


セレスが叫ぶ。


 


直後。


 


衝撃波が解き放たれた。


 


ゴォォォォォォン!!


 


王都の街並みが吹き飛ぶ。


石造りの建物が紙のように崩れ、

人々が宙を舞った。


 


「ぐっ……!!」


 


セレスは障壁を展開しながら歯を食いしばる。


地面が抉れ、

石畳が砕け散る。


 


だが、

守り切れない。


 


「きゃああああ!!」


 


子供の悲鳴。


セレスは咄嗟に振り返った。


崩れた瓦礫の下敷きになりかけている少女。


 


——放っておけ。


 


心のどこかで、

冷えた声が囁く。


 


どうせ救っても死ぬ。


何度も見た。


何度も経験した。


世界は必ず壊れる。


 


「……っ」


 


セレスは舌打ちした。


 


そして駆け出す。


 


「セレス!」


 


リリアの声を無視し、

瓦礫へ飛び込んだ。


 


崩落寸前。


 


セレスは片手で瓦礫を受け止める。


骨が軋む。


 


「動けるか」


 


少女は涙目で頷いた。


 


「に、にいちゃん……」


「走れ」


 


突き飛ばすように逃がした瞬間。


 


——ブチッ。


 


嫌な音がした。


 


セレスの左腕から、

鮮血が吹き出す。


 


黒い霧。


 


黒い腕から伸びた“何か”が、

セレスの腕を貫いていた。


 


「ッァァァァ!!」


 


激痛。


 


ただの傷ではない。


生命力そのものを喰われる感覚。


 


視界が歪む。


膝が崩れ落ちた。


 


「セレス!!」


 


リリアが駆け寄る。


だがその顔は青ざめていた。


 


「まずい……侵食が早い……!」


 


黒い霧が、

セレスの腕から全身へ広がっていく。


 


「これは……なんだ……」


 


呼吸が苦しい。


魔力が消えていく。


 


死。


 


何度も味わった感覚。


 


だが今回は違う。


本能が理解していた。


 


——この死は終わる。


 


戻れない。


 


「……はは」


 


セレスは乾いた笑みを漏らした。


 


こんな終わりか。


482回も足掻いて、

結局は意味がなかった。


 


「嫌……」


 


リリアが震えた声を漏らす。


 


「こんなの駄目……まだ……」


 


彼女はセレスの胸元を掴む。


 


「あなたが必要なの……!」


 


その瞬間。


 


黒い亀裂の奥。


巨大な瞳が細められた。


 


——歓喜。


 


まるで“回収完了”を確信したように。


 


そして。


 


セレスの脳裏に、

知らない記憶が流れ込む。


 


白い神殿。


無数の棺。


血に染まった魔法陣。


 


そして。


 


鎖に繋がれた、

幼い頃の自分。


 


『13番目、起動確認』


 


知らない声。


 


『死界輪廻システム、正常稼働』


 


「……な、んだ……それ……」


 


頭が割れそうに痛む。


 


すると。


 


リリアが目を見開いた。


 


「記憶が戻ってる……!?」


 


セレスは震える瞳で彼女を見る。


 


「お前……知ってるのか……?」


 


リリアは唇を噛む。


 


そして静かに告げた。


 


「セレス」


 


彼女の青い瞳に、

深い悲しみが宿る。


 


「あなたは、“人間”じゃない」

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