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第2話 止まった世界の少女

空が裂けていた。


 


王都エルディアの上空。


黒い亀裂が、空そのものを引き裂くように広がっている。


まるで世界に刻まれた傷跡だった。


 


「な、なんだあれ……!?」


「魔物だ!!」


「逃げろぉぉ!!」


 


悲鳴が響く。


人々は混乱し、通りは一瞬で地獄へ変わった。


 


セレスは空を見上げたまま動かなかった。


 


——違う。


今までの崩壊とは違う。


 


黒い月が現れるのは七日後のはずだ。


なのに。


なぜ今日、空が裂けている?


 


「未来が……ズレてる?」


 


482回繰り返して、

初めて起きた“異変”。


 


その時だった。


 


ズズズズズ……


 


亀裂の奥で、“何か”が蠢いた。


巨大だった。


空の向こう側にいるはずなのに、

その瞳だけが異様にはっきり見える。


 


——目が合った。


 


瞬間。


 


ドクンッ!!


 


セレスの心臓が大きく脈打つ。


全身に黒い悪寒が走った。


本能が叫ぶ。


 


“アレを見るな”


 


「セレス」


 


隣から声がした。


リリアだった。


白銀の髪を風に揺らしながら、

彼女は静かに空を見上げている。


恐怖はない。


まるで見慣れているかのように。


 


「……お前、何を知ってる」


 


リリアは答えない。


代わりに、小さく呟いた。


 


「来るよ」


 


次の瞬間。


 


空の裂け目から、

黒い腕が現れた。


 


巨大。


あまりにも巨大。


人間など蟻にしか見えないほどの異形。


黒い霧を纏い、

皮膚の代わりに“闇”そのものが蠢いている。


 


「魔物……?」


 


違う。


セレスは瞬時に理解した。


こんな存在、この世界にいるはずがない。


 


“世界の外側”の存在だ。


 


黒い腕が振り下ろされる。


 


轟音。


 


王都の一角が消し飛んだ。


石畳が砕け、

建物が潰れ、

人々が悲鳴ごと押し潰される。


 


「きゃあああああ!!」


 


爆風が吹き荒れる。


セレスは咄嗟に魔法障壁を展開した。


青白い光が周囲を包む。


 


だが——。


 


「ッ!?」


 


障壁に亀裂が入る。


 


一撃。


たった一撃で。


 


「馬鹿な……」


 


今まで数え切れないほど戦ってきた。


竜。


魔王。


禁呪使い。


世界級災害。


 


だが、

こんな“格の違う存在”は見たことがない。


 


「なんで今日なんだ……!」


 


未来が変わった原因。


それは間違いなく——。


 


セレスは隣を見る。


 


リリア。


 


彼女は静かに言った。


 


「今回は、あなたが私に会ったから」


 


「……何?」


 


「本当なら、私はもっと後で目覚めるはずだった」


 


目覚める?


何を言っている。


 


「でも時間がズレた」


 


リリアはゆっくりセレスを見た。


青い瞳が揺れる。


 


「セレス。このままだと今日、あなたは死ぬ」


 


「……だったらどうした」


 


セレスは短剣を抜いた。


 


「死ぬのは慣れてる」


 


482回。


何度も死んだ。


焼かれた。


刺された。


喰われた。


身体を失ったことすらある。


 


恐怖なんて、

とっくの昔に壊れている。


 


だが。


 


リリアは悲しそうに目を伏せた。


 


「今回は違うの」


 


その声に、

初めて感情が混じった。


 


「次に死んだら、あなたは戻れない」


 


——空気が凍る。


 


セレスの瞳が揺れた。


 


「……なんだと?」


 


「死に戻りはもう限界なの」


 


あり得ない。


そんなこと、考えたこともなかった。


 


死ねば戻る。


それが当たり前だった。


482回ずっと。


 


「あなたは知らないだけ」


 


リリアは空を見上げる。


 


「あれは、“あなたを回収しに来た”」


 


空の裂け目の奥。


巨大な瞳が、

ゆっくり細められる。


 


まるで——。


 


獲物を見つけたように。

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