第67話「勇者の使命」
「着いたぞー」
店長の運転する車に揺られ、不安になるほど何も無い山道をひた走ること一時間。一同の眼前に現れたのは、そよ風でも倒れそうなほどの風格を持った……まあ要するにボロ家だった。
「え……? 良さそうな温泉って……。ホントにここで合ってるのかしら……?」
あまりのボロ家っぷりを見て、何度も目を擦って確かめるカリンだったが……
「温泉なんて多少ボロいところの方がいいんだよ」
店長は平然とそう返すのみであった。
「いや、これって多少で済んでる……?」
「ごちゃごちゃ言ってると置いてくぞー」
不安そうな三人をよそに、店長は入り口へと歩いて行ってしまった。
***
店長を追って三人が中に入ると、内装も外観に引けを取らないほどのボロっぷりだった。天井の角という角にはクモの巣が張られ、床の角や隅にはよく見るとネズミの糞などが転がっている。
「すごいですねー。なんだかお化け屋敷みたいです」
中をキョロキョロしながらアオイがポツリ。
「思った以上にボロかったな。まあ泊まるわけでもねえし、温泉さえしっかりしてりゃいいだろ」
「あれ? 一回言ったことあるから来たんじゃないの?」
店長のあたかも予想外だと言うような口ぶりが少し気になったカリンが尋ねる。
「あ? 良さげと言っただけで良かったとは言ってないだろ? 山の中を走ってたらたまたま見つけただけだし」
「確かに……そうだった気がしてきたわ……」
「まあとりあえず、さっさと温泉入ろうぜ」
受付を済ませた一同は、館内奥の方、ところどころ虫食いの目立つ暖簾がかかった方向へと向かっていった。
***
男湯の掃除をしていると、薄い垣根の向こう側から聞き慣れない団体客の声が。
俺がここで働き始めてはや一週間。客が来たのはこれが始めてだ。
「あー……温泉は思ったよりは汚くないわね……」
「まあお世辞にもきれいとは言えないけどね……」
「山の中の露天風呂なんてこんなもんだろ」
「見晴らしもよくて開放感ありますねー」
なんか、どこかで聞いたことのある声だな……。掃除の続きに戻ろうとするが、気になってしまい、いまいち集中できない。
「あー……疲れた身体に染み渡るわね……」
ダメだ。さっさと掃除を終わらせてしまうつもりでいたが、俺の中の勇者の血が「お前の使命を思い出せ」と言わんばかりにざわついてしまい、それを許さない。
勇者としての自分は、あの日心の奥底に仕舞い込んだつもりだったが……。どうやら自分に嘘はつけないらしい。
今こそ己の使命を果たすときだ。
俺は深呼吸を一つして覚悟を決めると、軋む生け垣に手をかけた。
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