第59話「飛ばせ! レモン汁ロケット」
「え? 何? 人の顔見るなり土下座なんかしちゃって?」
あまりに一瞬の出来事だったため、その顔すらよく見えていなかったカリン。事態に頭がついてこれず、困惑している。
「カリン、この人になんかしたの……?」
引いたような目線をカリンへと向けるノア。
「何もしてないわよ!? ……多分」
記憶の奥底を引っ張り出そうとするが、やっぱり特に思い当たる節はない。
すると土下座しっぱなしだったセールスマンが、ようやく面を上げる。
「お久しぶりです! カリン様! 私です! ガウェーインです!」
「ガウェーインって……ああ、あのキャンプ場の?」
どうやら目の前のセールスマンは、キャンプ場で会ったナンパ野郎のうちの一人だったようだ。キャンプ場で会ったときは、やたらガタイの良い金髪のチャラ男といった風貌だった気がするが、今は黒のスーツを着て、髪型もビジネススタイルにビシッと固められているため、全然気づかなかった。
キマイラ事件の後から妙な方向に慕われていたのは感づいていたが、まさかこんな形で再会するとは。
「覚えていただいて光栄にございます! ワタクシめは『マジック&エクスプロージョン社』で新製品の紹介を担当させていただいてます! カリン様もぜひ、わが社の新製品を見ていってください!」
「は、はあ……」
正直テンションについていけないが、元々この「重力強化式レモン絞り器」とやらを試してみる流れだったようだし、そのまま流れに任せることにした。
***
「では、この上の窓からレモンを入れてください」
ガウェーインが球体上部の扉部を開くと、言われた通りにノアがそこにレモンを放り込む。
「後はこの球体内に重力球を発生させるだけ! たったこれだけで、手を汚さず簡単にレモンが絞れます!」
「はあ……」
溜息混じりにガウェーインの話を聞くノア。
「すごーい! どうなるんだろうね、カリンちゃん!?」
「こんな地雷臭しかしない器械に、よくそんな期待ができるわね……?」
ただ一人。アオイだけが目を輝かせて待機していた。
「じゃあいくね」
ノアが球体内目掛けて重力球を発生させる。すると、球体の空いた穴の数々から、果汁が噴水のように勢いよく八方に噴射された。
「……」
そんな光景を見届け、死んだ魚のような目になるノアとカリン。
「見てください、この水圧! この球体内部は可動式の金属板になっていまして、レモンにかかる圧力を劇的に強化することができるのです! そして内部の細い管を通して果汁の水圧を高め、外側の穴から八方へ一気に噴射される、という寸法なのですよ!」
冷ややかな反応をされていることを知ってか知らずか、ガウェーインは嬉々として商品説明を続けていた。よくこんな商材で、そこまで嬉々として喋れるものだ。
「まあ……確かに手は汚れないね。手は……」
壁や隣席にまで飛び散った果汁を見て、ノアがポツリ。
「ていうか、レモン絞りに水圧って必要かしら……。っていうかなんで横にまで穴空いてんのよ……」
「それはですね、下にしか穴が無いタイプの試作品は、その余りの水圧により空を飛んでしまったからです!」
「じゃあその時点で開発諦めなよ……」
あまりのガラクタっぷりに呆れかえる一同。ただ一人を除いては……。
「わー、すごーい! 噴水みたいだったね!? カリンちゃん、ノアちゃん、これ買おうよ!?」
「いや、絶対いらないわよ……」
何がそんなに彼女の琴線に触れたのか。ただ一人、アオイだけが目をキラキラさせ大はしゃぎしていた。
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