第57話「893カフェ『虎留墓』へようこそ?」
「いらっしゃいませー。魔法カフェ『コルボ』へようこそー」
低音ボイスの厳つい男たちによる、来客を出迎える声。
完全にパンク状態となっていた状況の打開のため、ノアが取った秘策とは……まあ、いつも通り「八九三組」のヤクザ達を呼び出すことであった。
ヤクザ5人に客の対応を任せ、3人でキッチンを回すことにより、状況は一変。パンクしていたオペレーションも何とか立て直すことに成功し、徐々に安定感が戻ってきていた。
そして何よりも大きい点が一つ。
「おい、遅いぞ! 僕のコロンビアコーヒーはまだか!?」
イライラした様子でテーブルを叩きながら大声を上げるクレーム客。
そんな彼の元へ、ヤクザ5人の中でも最も筋骨隆々な大男、アオキが対応へと向かう。
「お客様、どうされました?」
引き攣った笑顔と言うべきか、ニヒルな微笑みとでも言うべきか。そんな何とも言えない意味ありげな表情でクレーマー対応に入るアオキ。
「あ、いえ……。私の頼んだコロンビアコーヒーがなかなか来ないなーと思いまして……あはは……」
そんなアオキに萎縮し、クレーマーは露骨に日和ったような態度に早変わりする。
「コロンビアですか……。私の知り合いの売人がいるので持ってこさせましょうか? もちろん、払うもんは払ってもらいますがね」
腎臓の有るあたりを指差しながら、ニヤリと笑みを浮かべるアオキ。
「い、いえ……。大丈夫です。私グアテマラでもなんでも飲みます……」
すっかりビビり散らしてしまったクレーマー。コーヒーカップの取っ手を全力で握りしめると、節度の無い飲み会での一気飲みの光景かの如く、真上を向いて飲み干してしまった。
「よかったです。また何か有ったらおっしゃってくださいね?」
ドスの聞いた低音でそう言われ、すっかり縮こまってしまったクレーマーであった。
「ヤクザ効果すごいわね……。さっきまであんなにいたクレーマーが全然出てこなくなったわ……」
「悪質クレームの類は大抵人を選んで言ってるからね。わざわざその相手にヤクザを選ぶ命知らずはそういないんじゃない?」
クレーム対応に割かれる時間も無くなり、頭数も増えたことで、すっかり余裕の出てきた一同。いや、むしろ余裕があり過ぎるくらいだ。
「そういえばだけど……さっきから一件も注文来てなくない……?」
違和感に気づいたカリンが二人に尋ねる。
「そういえば、そうだね?」
「まさかだけど……あ、やっぱり……」
嫌な予感がして、ノアが客席の方を覗きこむと……
そこにいたのは、ヤクザが5人だけであった……。
「お客さん、みんな逃げ帰っちゃったね……」
「え、ウソ!? さっきまであんなに並んでたのに!?」
カランコロン。
あまりの急変にカリンが驚きの声を上げた矢先、新規の来客が一組。
「すみませーん。いまやってますかー」
「いらっしゃいませー」
「ひい! 失礼しましたー!」
ヤクザが出迎えに向かうと、その新規客もすぐさま逃げ帰ってしまった……。
「どうする? ヤクザ帰そっか……?」
一連のやりとりを見ていたノアがカリンに尋ねる。
「うーん……。今日はもう疲れたから、このままでいいんじゃないかしら……」
疲れ果てた様子のカリンが、投げやりにそう返す。
「あはは……そうだね」
アオイも乾いた笑みを浮かべながらも同意する。
三人は顔を見合わせたのち、テキトーな席に座り込んだ。
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