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第56話「コロンビア」

 未だ客足の途絶える気配のない「コルボ」店内。


 鳴り止まないオーダーの嵐。カリンはその一つ一つを懸命に捌きながら耐えていた。しかし、時間が経つとともに、それにも徐々に綻びが見られ始める。


「ごめん、カリンちゃん。31卓さんの唐揚げカルボナーラ先に作れる? 『スパゲッティなんて麺茹でるだけなんだから5分で出せ』ってすごい怒ってるんだけど……」


「何よ、それ……? 悪いけど『スーパーでスパゲッティ買って茹で時間の数字見てこい』って伝えといて……」


 徐々に遅れる提供と、忙殺により誘発される凡ミスからか、客の一部から容赦ないクレームが相次ぐ事態に発展していた。


「カリン。ドリンクとサイド系はやっとくから、ひたすらメインお願い」


「ありがとう。助かるわ、ノア」


 ノアの援護を受けながら、何とかオーダーを捌き続ける。しかし、そうしている合間にも……


「38卓さんだけど『写真よりもやしが3本少ない』って……」


「生のもやし3本渡すから、どっか差し込んどいて……」


 客からのクレームもまた、次々と発生しているのであった。


 しかも、待たされたストレスによる八つ当たりじみた物がほとんどという有様だ。もちろん、至極真っ当なクレームも中にはあるのだが……。


「4卓さん『俺はコロンビアのコーヒーしか飲まないのに、これはグアテマラじゃないか!? ふざけるな!』だって……」


「知らないわよ! アオイもいちいちそんなの聞いてこなくていいから……」


 普段だと、この手の悪質クレームはカリンが強気に一蹴、もしくは店長が暴力で解決するのだが……。今日はカリンがキッチンに取られ、店長は不在のため、その手は使えない。


「そんなこと言われても……」


 困ったような反応になるアオイ。「悪質なクレームには毅然とした対応を」といっても、彼女の性格上なかなか難しいみたいだった。

 

「はぁ……。悪いけどノア、しばらくキッチンお願い。アタシからガツンと言ってやるわ!」


「それもいいけど、この状況だと他の注文まで遅れちゃうんじゃない?」


「確かにそうね……」


 ぐぬぬと苦虫を噛み潰したような表情になるカリン。


「ごめんね、カリンちゃん……。わたしのせいで……」


「いや、別にアオイのせいではないから謝らないで……」


 アオイの両目には、わずかに涙が溜まり始める。


 そんなアオイの様子を横目で見ていたノアが一言。


「こうなったら、こちらも手を打つしかないね」


 そう言い放ったノアの左手には、ラベンダーカラーのスマートフォンが握られていた。

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