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第53話「働いたら負けだと思っている」

「次やったら即刻死刑だからな。二度とその面見せんじゃねーぞ」


 ぶっきらぼうな態度の看守に見送られ、俺は久方ぶりにシャバの空気を吸うことができた。


 あの日、大男に派手にかち上げられ、そのまま気を失っていた俺。気がついたら俺は見慣れた豚箱の天井を見上げていた。


 辛く苦しい刑務作業の中で俺は一つ気づいたことがある。それは、この世界での俺には勇者としての特権な加護など無いということだ。これからは真っ当に仕事でも探して、慎ましく生きていこう。


 幸い囚人仲間から、スマートフォンとやらの使い方と、良さそうな求人サイトを教えてもらうことができた。さっそく俺でも務まりそうな求人が無いか探してみる。


 お、これなんか良さそうだ。家屋調査してボスに報告するだけでいいらしい。家探し《やさがし》は勇者の得意分野だからな。お手の物というやつだ。


 俺はさっそくその求人に応募することにした。


 ***


 本屋からの帰り道。ノアの目に、見覚えのある人物の影が映った。


「全く、爺さんは……。今度はどこに行っちまったんだか……?」


 身の丈をゆうに超える巨大な木槌を背負った老婆。唐揚げカルボナーラ食い逃げの時の婆さんだ。またしても行方不明になった爺さんを探している様子だ。


 あんまり関わり合いにならない方が賢明そうだ。ノアの直感がそう告げる。足早に背後を通り過ぎてしまおうとした、その時だった。


「おお、アンタ。この辺で爺さん見なかったかい?」


 ちくしょう……。見つかってしまった。


「いや、見てないですね……」


 そう答えようとした矢先であった。ノアの視線の先で、何やら怪しいやりとりが行われているのが目に入った。


「こんにちは。今度ここで温泉を掘るので、お家の水道管を点検させてください」


「おお、そうか。ちょうど、最近蛇口からオレンジジュースが出てくる気がしてたんじゃ。どうぞ、見ていってくだされ」


 20代前半くらいだろうか? まるで物語の勇者みたく、全体的にシュッと整った容貌をした爽やかそうな青年が、おそらく家主なのであろう老紳士と、玄関先で話をしている。


 どうやら水道管の点検をしているとのことだが、その割には服装が「NEET」と書かれたTシャツと短パンだけな上に、工具の一つも持っていなさそうなのが、何か違和感を醸し出している。


 しかしそれよりも、あの老紳士には見覚えがある。唐揚げカルボナーラの時の爺さん。つまり、目の前の老婆が探している人物その人だ。


「あのー……そこにいらっしゃる方とか違います……?」


 それとなく婆さんへと伝えるノア。婆さんは指差された方に振り向き二人の姿を捉えると、突然鋭い眼差しになり、こう呟いた。


「召喚獣の香りがするねぇ」


 召喚獣? 召喚術によって召喚されたもののことを指す総称だということは知っているが、それと今いったい何の関係があるのだろう?


 それに婆さんの、獲物を捉えた鷹の如く鋭い視線は、何故か爺さんではなく青年の方に向けられている。


 このままだと間違いなく面倒くさいことに巻き込まれる。ノアの直感がそう告げ、この場から立ち去ろうとした、その時だった。


「行くよ、お嬢ちゃん! 連いてきな!」


 婆さんに手首を掴まれ、無理矢理連れて行かれてしまった……。

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