第50話「フレンチの本場イギリス」
「ここで働かせてください!」
「却下」
あれから約二時間後、出勤してきた店長はカリンから事情を聞くと、案の定も案の定の不採用通知を出した。
「何でですか!?」
「いや、前にクビにしたヤツわざわざ雇い直す訳ないだろ……」
店長がそう言って席から立とうとすると、メグは慌てて食い下がる。
「ちょっと待ってください!? 私にはもうここしかないんです!」
「いや、別にうちじゃなくたっていいだろ……」
面倒くさそうに頭を掻く店長。
「私が魔法で出す料理の味は既にご存じでしょう? 他のお店でそんなの雇ってくれると思いますか?」
「いや、べつにうちだって雇わねえよ。忙しいんだからもう帰ってくれ……」
今度こそ切り上げようとする店長だが、なおもメグは粘り続ける。
「山よりも深く海よりも高い事情があるんです! お願いします!」
「そうか。じゃあ聞くだけ聞いてやるから、終わったら帰れよ……?」
店長が心底面倒くさそうにそう言うと、メグは自身の身の上話を始めるのであった。
***
フレンチレストラン「プルメラ」はご存じでしょうか? 「早い・安い・不味い」を売り文句にした画期的なフレンチレストランとして一時期脚光を浴びた人気店でした。
何を隠そう、私は元々その「プルメラ」のシェフとして働いておりました。
本来なら、料理が出るまでにもの凄く時間がかかり、店を出る頃には三時間は経っていることもざらで、とても気軽には入れないフレンチのフルコース。そんなフレンチのフルコースを、私の魔法で味を犠牲にして一瞬で召喚することで、短い時間でも気軽に楽しむことができるようにした店こそが、そう「プルメラ」なのです。
その画期的なコンセプトが、特に「昼休みにどうしてもフレンチのフルコースが食べたい」というサラリーマンやOLたちに受け、「プルメラ」は一躍人気店となりました。
そんな感じで経営は至って順調そのものだったのですが、オーナーさんの心の奥底には「おいしい料理でお客さんを満足させたい」という色気がまだ残っていたのでしょう。
ある日突然、フレンチの本場イギリスで三日も修行したという腕利きのアルゼンチン人シェフ、ウマイヨ=メッシさんが料理長として就任されることになり、私は解雇されてしまいました。この前、私が「コルボ」に雇っていただいたのがこの時ですね。まあ「コルボ」も半日でクビになりましたが。
ですが元々「早い・安い・不味い」で成り上がった店です。確かに料理の味は見違える程おいしくなったらしいですが、提供に時間がかかるようになってしまい、元々のお客さん層から大バッシングを受けてしまうことになりました。オーナーのSNSにも「味は美味しかったです」などの誹謗中傷が殺到し、心を病んでしまったようですね。
そんな折、「コルボ」もクビになってハローワーク通いになった私に、オーナーから「戻ってきてください、お願いします。靴舐めますから」とメールがきました。正直「今更戻ってこいと言われてももう遅い」的なラノベ主人公みたいな感情もあったのですが、ちょうど犬のフンを踏んで困ってたところなので、靴を舐めてもらいに戻ることにしました。
しかし、現実とは世知辛いものです。私を雇い直して、以前の体制に戻すこと自体はできても、一度失ってしまった信頼までは戻すことができません。店の借金はアメリカの某白靴下球団かの如く膨れ上がる一方で、先日ついに倒産してしまいました。
***
「と、いうわけなのです」
長い話を終え、なぜかしたり顔のメグ。
「いや、『プルメラ』が潰れた理由は分かったんだが……。それが何でうちで雇ってやらなきゃいけない理由になるんだよ……」
店長は長話のせいで眠そうに頬杖をついている。
「履歴書に『プルメラ』ってあると大抵の店は『ああ、アイツか……』ってなるんですよ。履歴書もロクに読まないのはこの店くらいなので」
「よし、帰れ」




