第49話「早い・安い・不味い」
ある日の開店前。
郵便物の確認のため、ノアがポストのチェックをしている。チラシが数枚だけで、大したものは入っていなさそうだ。そんな中、一番上のチラシの内容がノアの目に止まった。
「へえ、あそこ潰れたんだ?」
そのチラシには「『プルメラ』閉店のお知らせ」と、特に飾りっ気もなく書かれていた。
「ノアちゃん、どうしたの?」
チラシを眺めるノアを不思議に思ったのか、アオイもそれを覗き込みながら、ノアへと尋ねる。
「いや。ただ知ってる店が潰れたってだけ」
「えっと……『プルメラ』? 何のお店?」
アオイが首を傾げる。
「『早い、安い、不味い』の三拍子が売りのフレンチレストラン。『味はどうでもいいけど、どうしても昼休みにフレンチのフルコースが食べたい』ってサラリーマンに人気だったらしいよ」
「へ、へぇー……」
どうやらアオイにはよく分からない世界の話だったようだ。
アオイとノアがそんな話をしている中。
プルルルル。
店の電話が鳴る。
「お電話ありがとうございます。こちら魔法カフェ『コルボ』でございます」
近くにいたカリンが電話を取る。
「あ、カリンさんですか!? 大変なことになったんです!」
受話器越しにいきなり、慌てふためいた声で捲し立てられる。しかしながら、その声にはどこか聞き覚えがあるような気がする。
「えっと……確か、メグ……だったかしら……? いきなりどうしたのよ?」
先日、雇用期間わずか1日のみで解雇された実質日雇い従業員の名前を、記憶から引っ張り出すカリン。
「私の職場が倒産しちゃって! また私を雇ってください!」
「いや、私に言われても……」
別に店長に言うだけ言うのは構わないが……。果たして、かつて一日でクビにした問題児をわざわざ雇い直してくれるだろうか?
「一応店長につた……」
「とにかく! 今からそちらに行きますので!」
「ちょっと!? まだ店長来てな……切れたわね……」
要件を言うだけ言って、電話は一方的に切れてしまった。
まあ、来たらその辺で待たせておけばいいか。カリンが仕込みの作業に戻ろうとした、その時。
バン! と思い切り店の扉が開いた。
「カリンさん、お願いします! ここで働かせてください!?」
「いや、早すぎないかしら!? どこからかけてきてたのよ?」
さっき受話器を置いてから、まだ一分も経っていない。
「そこのドアの前です!」
「もう電話である意味ないわね、それ……」
そんなやりとりをしていると、アオイとノアも近づいてくる。
「あれ、メグちゃん!? 久しぶりだねー!?」
「あ、アオイさんもお久しぶりです! お元気してましたか!?」
純粋に再会を喜ぶアオイとメグ。
「いきなりどうしたの?」
「ノアさんもお久しぶりです! 実はですね、私の職場が倒産してしまいまして……」
「ああ……」
さっき見たチラシの内容を思い出し、何かを察するノア。
「とりあえず、店長ならまだ来てないから、その辺の席にでも座っていてくれるかしら?」
「え? 店長さん来るの待たないとダメですか?」
「いや、そりゃそうでしょ……? 何か急ぎの用事でもあるの?」
カリンが尋ねると、メグは目を泳がせながら答える。
「いや……店長さんに頼むと不採用にされそうなので、いないうちに滑りこんでしまおうかと……」
朝早くに駆け込んできたのは確信犯だったか……。
「今からでもつまみ出した方がいいかしらね……」そんなことを思いながら、眉間を押さえ、ため息をつくカリンであった。
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