第47話「秘密兵器の火炎放射」
「ガアァァァァ!」
男たちの後ろで咆哮をあげるその存在は、左側の頭と胴体がオスのライオン、左の頭が巨大な角を生やしたヤギ、巨大な鷲の翼に、尻尾の代わりに生えた大蛇といった姿の異形の魔獣。合成魔獣キマイラであった。
コイツが行きのラジオニュースで言っていた、研究所から逃げ出したという例のキマイラだろうか? 研究所から100キロ以上の距離を、その巨大な翼で飛んできたらしい。
後方からの咆哮に驚き、後ろを振り返る男たち。
「ぴゃああああ!」
3メートル超の魔獣の姿が目に入ると、情けない声を上げ、その場で腰を抜かしてしまった。
恐怖で動けない獲物の姿を捉え、一歩また一歩と少しずつ滲み寄っていくキマイラ。
なんか、コイツら見捨てて行けば逃げられそうね……。カリンの脳裏にそんな思考がよぎる。踵を返し、その場を後にしようとすると……
「ゔわあぁぁぁん! もう二度とナンパなんてしませんからあぁぁぁ! いのぢだげはおだずげゔぉおおお!」
とても人語を解するとは思えないキマイラに対して、情けなく命乞いをする男たちの声が後ろから聞こえた。
「ああもう! 仕方ないわね!?」
カリンはリュックの右サイドポケットからスプレー缶を取り出し、振り返る。そして、その中身をキマイラ目掛けて思い切り噴射し、そこへ魔法で火を放つ。
小さな火はスプレーのガスへとみるみるうちに引火していき、火炎放射へと姿を変えキマイラへと襲いかかった。
たちまちに燃え上がるキマイラの肉体。自身の身に何が起きているのかすらも分からず、熱さの余りその場で悶え暴れている。
一分弱ほど暴れた後、キマイラは川があることに気づいたのか、とにかくその熱を抑えたい一心で飛び込んでいった。しかし時すでに遅く、火を消すこと自体はできたものの、その体力の全てを使い果たし、その場に力なく倒れ伏してしまった。
何か可哀想なことをしてしまったわね……。少しの罪悪感に苛まれるカリン。でも会見で教授が「失敗作だから長くは生きられない」みたいなことを言っていたし、無理矢理作られた哀れな存在を介錯してあげたと思うことにしよう。
カリンが感傷に浸っているのも束の間、ふと足元の方から声が聞こえた。
「す、すごいでござる……! 君を拙僧の正妻にしてあげるでござる!」
カリンの足元では、腰を抜かして立てない男たちが、この期に及んでそんなことを言っていた。
「どうしてもああなりたいっていうなら考えてあげるわよ?」
男たちにガススプレーを向け、キマイラの遺体を指差し、わざと微笑みながらそう告げるカリン。
「ま、誠にごめんなさい……」
一転してしおらしくなる男たち。
「はあ……」
カリンは一つ溜息をつき、そんな男たちを他所に、テントのある方へと歩いていったのだった。




