第46話「ロンゴミニアド」
「ここまで来ると流石に静かね」
座りやすい大きさの岩を見繕い、カリンは河原へと腰掛る。飲み込まれてしまいそうな夜の静寂の中、川の流れる音だけが耳へと届く。
はしゃぐなとまでは言わないけど、周囲の迷惑は考えてほしいわね……。頭痛が起きそうになるほどのバカ騒ぎからようやく解放され、静けさの中カリンは上に一伸びする。
静かに目を閉じて、耳をすませる。すると、先ほどまでは川の流れにかき消されていた多くの音が聞こえてきた。
何かが水面を跳ねるような音。虫の鳴く声。何かの足音。誰かの話し声。
ん? 話し声……?
何やら嫌な予感がし、カリンはその声の方に意識を傾ける。
「なあなあガウェーイン。ぶっちゃけ今日の女子どうだったよ?」
「んー、60点くらいじゃね? まあ頼まれたら相手してやってもいいかなーって感じ?」
「やはりガウェーイン氏も拙僧と同じ感想ですか? 34番目の愛人くらいならギリ、って感じでしたな」
予感は的中し、何やら聞き覚えのある男たちの声が聞き取れた。しかも徐々にこちらに近づいてきている。
「それよりさー、隣で一人寂しくバーベキューしてた娘の方が可愛かったくね?」
「あ、分かるわー。あのブス共誘ったせいで、話しかけらんなかったんだよなー」
「全く。ブス共のせいで肝心な上玉を逃がしてしまいましたな……。あの娘は拙僧の3番目の妻になれるくらいの逸材だったのですが……」
しかもどうやら自分の話をしているようだ。こんなところで鉢合わせたら、間違いなく面倒くさいことになる気がする。さっさとテントの方へと戻ってしまおう。
「あれ、噂をすればさっきの娘じゃね?」
「お、マジじゃん! ラッキー! ちょっと俺達と遊ぼーぜ?」
「グフフ。拙僧のロンゴミニアドが疼いてきたでござる」
遅かったか……。
テントへと戻る通路の入り口で鉢合わせになってしまった。
「いや、私もう帰るんで」
淡々と告げてすれ違おうとしたが……
「ちょ、逃げなくてもいいじゃんよー?」
男たちの一人に左の手首を掴まれてしまった。
「ちょっと! 離しなさいよ!」
男の手を必死に振り払い、背中を向けないようにして距離を取る。
「そんなに嫌がらなくたっていいじゃんよー」
「いいねえ、その表情。そそるじゃないの」
「ご心配なさらずとも、拙僧がちゃんと気持ちよくしてあげますよ。グフフ」
獲物を前に舌なめずりをする獣の如く、ニヤけた顔で滲みよってくる男三人。カリンはそんな男たちを睨みつけながら後ずさりするが、とても逃げきれそうな状況にはない。
護身用の最終兵器を持ってきてはいるのだが、生身の人間相手を想定したものではない。しかし、そんなことも言ってられなさそうだ。
カリンは、後ろに背負ったリュックの右サイドポケットへと腕を回す。
「何々? 防犯ブザー? 無駄だぜ、こんなとこ誰も来ねーよ!」
「諦めて俺達といいことしよーぜ?」
「グフフ。まずはしゃぶってもらいましょうか?」
「グルルルル」
勝利を確信し、欲望を丸出しに滲み寄る三人と一匹。
ん? 一匹……?
違和感を覚え、三人の後ろをよく見ると……色欲に飢えた獣三人の後ろには、血に飢えた本物の獣の姿があった。




