第45話「このよのおわりみたいなこーる」
ピピピピビッ。
スマホのアラーム音で目が覚める。
まだ眠気も覚めやらぬが、せっかくキャンプまで来て、寝てばかりではもったいない。眠い目を擦って起き上がる。
ちょうどお腹も空いてきた頃だ。
カリンはテントから出て、小型のバーベキュー台を設置し、中に炭をセットして着火剤を塗る。
火を点けるのは簡単だ。魔法の力で炭に火を飛ばし、火を点ける。この瞬間だけが、カリンにとって自分の能力がありがたいものに感じる唯一のタイミングなのかもしれない。
火が安定してくれば、いよいよ本番だ。クーラーボックスに入れてきた食材たちが、遂にその出番を迎える。
カリンが取り出したのは、事前に串打ちしてきた牛肉や野菜の数々。
近年はキャンプブームや写真型SNSに後押しされ、キャンプ飯にも見栄えを重視したものが増えている。もちろんそういう凝った料理は美味しいし、作るのも楽しい。
「だけど、結局こうやってシンプルな焼き物が一番美味しいのよねー」
金網に串の数々を並べながら、カリンはそんな独り言を呟いた。
パチッ、パチッっと炭が弾ける音。肉汁や野菜の水分が滴り、炭が驚いたように立てる音。どこかから聞こえる秋の虫の声。秋の澄んだ空気と、炭火が立てる煙の匂い。
それらを感じつつ、敢えて少しの間、目を閉じる。視界を閉ざすことにより、音や匂いがより鮮明に感じられる気がした。
「日頃の疲れが癒されていくようね」そんなことを思った矢先であった。
「ウェーイン? 呑んでなくない!? ウォウウォウ! ウェーイン? 呑んでなくない!? ウォウウォウ!」
静寂を破るような男女混合のけたたましく騒ぐ声により、突如現実へと引き戻される。隣を見ると、すっかり出来上がった20代前半くらいの男女10名が、周囲の迷惑も鑑みず、酔った勢いのまま騒ぎ散らしていた。
「パッタイ団子団子新香! パッタイ団子団子新香! お団子ショッパイシー、ナメタケホウレンソウー! 球根大根球根大根! 隠元! 中元!」
まるで意味の分からない呪文のようなコールを、思わず耳を塞ぎたくなるような音量でまくしたてる若者たち。
不快感のあまり、せっかくのバーベキューが不味くなりそうではあったが、かといって注意したところでな気はする。カリンは諦めのため息を一つつき、早いうちに食べてしまうことにした。
***
最小限に留めたバーベキューを食べ終わり、足早に片付けを済ませるカリン。依然として、若者たちの喧噪は収まる気配もない。テントに戻って休んでしまってもいいのだが、この距離ではテントの中まででも騒ぐ声が聞こえてきそうだ。
確か少し離れたところにきれいな川辺があった気がする。少しの間、心静かに川辺でも眺めていることにしよう。
そう思い立ち、カリンは川辺へと向かう坂道を一人くだっていった。




