第44話「カリンの休日」
「えっと……。持っていくものはこれくらいかしらね……」
テントに寝袋、テーブルにチェアなどのキャンプ用品を車のトランクへと押し込みながら、カリンは独り言を呟く。
今日明日とコルボの営業が休みのため、カリンは久しぶりに趣味のキャンプへと出かけることにした。
忘れ物がないことを確認し、車のトランクを閉める。
目的地は近場で有名なキャンプ場。本当は静かな穴場スポットで一人テントを貼って、という憧れもあるのだが、女子一人でというのも中々リスキーなので、結局いつもそこに落ち着いてしまう。
せめて誰か一緒に来てくれる仲間でもいれば。心当たりといっても、ノアは根っからのインドア人間だし、アオイは虫が出る度に叫ぶからうるさいし……。
そんなことを考えながら、目的地めざして車を走らせる。始めのうちこそ見慣れた街中だった車窓の景色は、徐々に建物らしい建物も疎らな山道へと変わっていく。
と、その時だった。
「臨時ニュースです。本日13:45分頃、É Fran 魔法大学の地下研究所から、実験に使用していたキマイラ一頭が逃げ出したとの通報が有りました」
ドライブのお供に垂れ流していたFMラジオの音楽番組が、急にニュースに切り替わった。
「え、何? キマイラ? 一体何の研究してるのよ……」
É Fran 魔法大学といえば、前々から怪しい実験をしているとの噂はあったが……。どうやら実験で作り出した合成魔獣が、不手際により脱走してしまったとのことらしい。
「同研究所の責任者である、ぼんげ教授は先ほど会見を開き、『アレは失敗作で三日と生きられないはずだから平気なんじゃないですか? 知らんけど』と、笑いながら報道陣に話しているとのことです」
「ええ……」
余りにもいい加減な対応に、思わず呆れて呟く。
でも É Fran 魔法大学の研究所からだったら、キャンプ場とは100キロ以上は離れている。近隣住民にとってはたまったものではないだろうが、カリンのキャンプには支障はないだろう。
哀れな近隣住民へと内心で合掌しつつ、カリンは車を走らせ、目的のキャンプ場へと向かっていった。
***
「流石にちょっと疲れたわね……」
キャンプ場の駐車場へと降り立ち、大きく上に伸びをする。街中とは比べ物にならない程に澄んだ空気が心地よい。二時間弱のドライブの疲れが、それだけでも少し癒されていくようだ。
平日ということもあり家族連れなどもあまりいない。有名なキャンプ場とはいえ、賑やかさは控え目で静かな雰囲気だ。
「さて、まずはテントを張っちゃおうかしらね」
車のトランクからワンタッチテントを引っ張り出し、空いているスポットに設営する。強度には難があるとはいえ、このお手軽さは女子のソロキャンプにはありがたい代物だ。
テントが張れたら、中に寝袋を敷く。スマホのアラームを30分後に設定し、カリンは少し横になって休むことにした。
完全に寝入るつもりではなかったのだが、横になった途端、昨日までの仕事と二時間ドライブの疲れが一斉に襲いかかる。
程なくしてカリンの意識は、秋の山の空気へと溶けていった。




