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もふ58 サンチェス対レアル


 玉座を実兄の血で穢し、この世を乱世へ導いた暴君、フリオ・サンチェスとエスカミーリョの運命を変えた、その父王ヘルマン・サンチェスの訃報だった。



 ヘルマンとエスカミーリョの母の交わした契約により、フリオ・サンチェスは産まれた瞬間から時期首領となった。


 反対に、本来ならば首領の嫡男である筈のエスカミーリョは、いち貴族の息子として育てられた。


 しかし、フリオ、エスカミーリョ、そして、ダーク・エルフでありながら代々獣人の首領に仕える家に生まれたレアルは、幼い頃より互いに支え合い、信頼し合って大きくなった。


 若き三人は、力を合わせて魔族の理想郷を築くための手始めとして、秘密の誓いを立てた。


 人間とは違い、魔族は口先だけの誓いなどしない。契約は絶対であり、覆ることはない。




 幼い頃より、兄のように慕っていた従兄弟のエスカミーリョ。


 自分に対して言い知れぬ複雑な想いを抱いていたに違いないのに、そんな素振りも見せずに、いつも助け、庇ってくれた。


 人好きする人柄、その端麗で猛々しい容姿に、どれほど憧れたであろうか。



 しかし、



「アンドレア姫はどうなるのだ。」


 魔族と人間の和平の証としてやって来た姫。


"魔族の獣人がこんなに可愛くて優しい熊ちゃんだって知ったら、本当の公爵令嬢もお嫁に行きたいって思うわ。"



"私、こんな気持ちになったの生まれて初めてです。サンチェス様のお嫁さんになりたいです……!"


 アンドレアの言葉が、眼差しが、フリオの頭をよぎる。



「レアル、まだ、だめだ。もう少し時間がいる。」


「しかし、フリオ様。我ら三人で共に約束を交わしたではないですか。その時が来たら、本来の後継者であるエスカミーリョに全てを託すと。」


「あの時はまだ俺は幼かった。その意味をろくに理解していなかった。」


「けれども契約は絶対です。覆すことはできません、我らのうちの誰かが…………。」


 さっ、と、レアルの顔から血が引いた。



 そう、契約は絶対だ。


 誰かが死なない限りは。




「……なりません。」


 レアルは右手を広げ主人の前に突き出した。


「下がりなさい、レアル。」


 立ちはだかるレアルを前に、首領ドン・フリオ・サンチェスは静かに言った。



 足を踏み出したフリオの前に、羽音と共に使い魔ピアが躍り出た。


 電気を帯びた黒い霧が立ち込め、風がおこり、フリオの毛が黒い霧の中へ流される。



 退け。


 フリオは塵を払うように、ふっ、と、息を吐いた。


「止めろ、ピア、お前の敵う相手ではない!」


 レアルの声が後ろに聞こえ、ピアの目前にシールドが現れた。



 しかし、ほんの一瞬、フリオの方が早かった。



 ピアは石のように身体を硬直させ、硬い石の床の上に落下した。


 遠のく意識の中で、ピアは以前も同じ事があった事を思い出した。



 あの時の相手はヘルマンだった。



 レアルの母が咄嗟にピアにシールドを張り絶命には至らなかったが、今回は間に合わなかった。



 硬直したまま床に転がるピアの上を跨いでさらに先を行こうとするフリオの前に、なおもレアルは立つ。



「行かせません!」


 レアルの掌から電気を帯びた黒い玉が形作られ、そこから黒い炎がフリオ目掛けて噴き出した。



 下がれ!



 フリオは両眼をかっ、と見開いた。


 刹那、彼の身体から凄まじい風が起こり、レアルの放った黒い炎を弾き飛ばした。


「!」


 レアルはその衝撃波をまともに受け、後方へ吹っ飛んだ。


「レアル様!」


 遠巻きに見ていた側近の魔女達が仰向けに倒れたまま動かなくなったレアルに駆け寄った。


 そうしているうちに、フリオは姿を消していた。




 はっ。


 何か、悲鳴のようなものが聞こえたような気がして、アンドレアは目を開いた。


「サンチェス様?」


 隣で寝ていた筈の夫の姿はなく、例の巨大な肖像画がアンドレアを見下ろすのみだ。


 ぞくっ、と、背筋が寒くなる。


 夜中とは言え、まだ寒さに震えるような季節ではないのに。


「サンチェス様、どこにいらっしゃるの? お返事をして下さい。」


 アンドレアはドン・サンチェスの毛糸で編んだ肩かけを羽織り、ベッドを出た。


 指にはめられたリナレスの指輪が、締めつけられるように痛い。



 サンチェス様……!





 いつもお読みいただきありがとうございます!

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