もふ成分薄めの番外編 お手伝い妖精の幸せ 2
そんなお手伝い妖精イズマルの愛して止まない若い首領夫婦が、無謀にも護衛も伴わずにドラゴンの棲まう森へ赴いたという。
その噂が、屋敷の奥の厨房でかまどに覆いかぶさって仕事をしているイズマルの耳に入る前に、アンドレアが厨房へ訪れた。
アンドレアが厨房へやって来て、あれこれ手伝ってくれたり、献立を聞いたりするのはいつもの事だ。
しかし、今日はひとりの女を伴っていた。
ピンクゴールドの豊かな髪の毛と、同じ色の鎖帷子を纏い、彼女自身からもほんのりとピンクゴールドの光を放っており、時折、白い火柱がピリピリと立っている。
左肩には、白いふわふわした可愛らしいものが乗っており、黒く小さな二つの瞳でこちらを見ていた。
不思議な人だ。
それに、この世のものとも思えぬ美しさ。
肩の上の生き物に対しても、言い知れぬ愛しさを感じる。
イズマルは彼女を見るなり、目を、いや、心をも奪われた。
「サンダードラゴンたるデノング殿のおいでになるところではありません。」
二人の後ろからレアルの声が追いかけて来た。
「下等なエルフめが、この私に命令するのか。」
デノングが冷たく言い放った。
屋敷中どこを探しても、レアルに対してこんな物言いができる者などいない。
レアルは眉をぴくっ、と、上げた。
ドン・サンチェスが見たら、毛を逆立てて平謝りに謝る表情だ。
自分の不注意で娘を迷子にしておいて、首領と妃自ら送り届けたのにも関わらず、礼を言わぬばかりか、勝手にヒトの屋敷を歩き回り下等だの何だの、無礼極まりないドラゴンだ。
しかし、むっとした顔のまま、アンドレアの後ろへ下がった。
「ドラゴン!?」
イズマル以下、厨房で動き回っているお手伝い妖精達の手が止まった。
「こちら、デノングさんと、お嬢様です。」
「ち。」
アンドレアがイズマルの方を向いた。
「そして、こちらが、あの素敵なチェリーパイやバタースコッチケーキを作って下さったイズマルさんです。」
「はっ!?」
イズマルは急に自分の名を呼ばれ、思わず跪いた。
「デノングさんは、イズマルさんのお菓子をひと口食べて、すっかりファンになってしまったんです。まあ、当然ですけど。」
ふふんっ、と、自分の手柄のように胸を張るアンドレアの後をふくれっ面のレアルが引き継いだ。
「で、どうしても其方の顔を見たいと、せっかくドン・サンチェスとアンドレア様がセニョリータ・サントゥアリオをご自宅へお送りしたのに、こうしてわざわざまた屋敷へ戻って来たと言う訳だ。」
「さよう。イズマルとやら、苦しゅうない、面を上げよ。」
しかし、デノングの言葉にも、イズマルは頭を上げる事ができない。
ダークエルフのレアルをして、下等呼ばわりするドラゴンが自分のようなみっともないお手伝い妖精を前にしたら、どんな言葉を投げかけられるかわかったものではない。
見た目は美しい女だが、実質城内最強のレアルを黙らせるほどだ。怒って屋敷を壊してしまうかもしれない。
イズマルは頭を床につけたまま、震える事しかできなかった。
ふと、かまどの中から甘い香りが漂ってきた。
「これは、何だ?」
デノングが鼻をひくひくさせ、じゅるっ、と、ヨダレを拭きながら尋ねた。
イズマルは、はっとして顔を上げた。
かまどから目を離したら、せっかくのお菓子をだめにしてしまう。急いで立ち上がり、かまどの中からとろとろのマシュマロとチョコレートをぐつぐついわせた熱々のチョコレートプディングを取り出した。
「ふおー!」
「ち!」
ピンクゴールドの光を放つデノングが一層輝いた。
「い、いずまるとやら、これはなんじゃ!」
「マシュマロ入りチョコレートプディングにございます。」
恐縮しながら答えるイズマルと、チョコレートプディングを覗きこむデノングの目が合った。
二人の間にピンクゴールドの火柱が散る。
デノングの頬もピンクゴールドに染まり、少しだけ身をひいて目を伏せた。
「ましゅ……? ちょこれーと、ぷ? ずいぶんと長ったらしい名前だ。」
「も、申し訳ありません。」
「い、いいえ、其方を責めたのではありません。聞いた事もない、不思議なややこしい言葉に混乱しただけです……。素敵な、素敵な名前だ。お菓子も……、それに、」
……あなたも。
デノングは心の中でそう言ったのに、イズマルはその声をはっきりと聞いた。
自分の娘の名の方がよほどややこしいくせに。
レアルは心の中で毒づいた。
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