もふ成分薄めの番外編 お手伝い妖精の幸せ 1
全3話の番外編です。
「この素晴らしいお菓子を作った方にぜひお目にかかりたいわ。」
菓子職人のイズマルは、城へ招かれた貴婦人からそんな事を言われて、呼び出されることが多くなった。
人間の姫が輿入れする事になり、ドン・サンチェスの計らいで人間のスイーツのレシピがたくさん輸入された。
魔族にとっては、見た目も味も目新しく、特に若い婦人に喜ばれる。
しかし、自分から呼びつけておいて、ずんぐりとしたお手伝い妖精で中年男のイズマルが厨房から顔を出すと、誰もが困った顔をするばかりか、それきり、お菓子を口にするのさえやめてしまう。
皆、ダークエルフのような容姿端麗な美男子パティシエでも期待しているのだろう。
ダークエルフがなぜ城の厨房で働いていると思うのだろうか?
貴婦人というものは案外、我々お手伝い妖精なんかよりもずっと、頭が悪いのかも知れない。
お菓子に罪はないのに。
イズマルは手付かずのまま下げられるお菓子を見る度に溜め息をついた。
当然のことながら、イズマルのお菓子はドニャ・アンドレアに殊更愛され、今回もこうしてドン・サンチェスの避暑に同行させてもらえる事になった。
この人間の妃は、イズマルのような一般的に他の魔族より知能も魔力も低いと言われるお手伝い妖精に対しても、まるでドン・サンチェスの側近のレアルやエスカミーリョに対するそれのように丁寧に親しげに接してくれる。
厨房へ足げく通い、食べ物を物色しているアンドレアを、妃の品格に欠ける、などと言う者もいるが、自分や自分の手がけたお菓子を大切に扱ってもらえる事はイズマルには素直に嬉しかったし、アンドレアが城の中庭でドン・サンチェスの膝に座らせてもらい、二人仲良くお菓子を食べている姿を見ると、誇らしさに胸が躍った。
アンドレアは、噂では、こちらへ嫁ぐ際、長く疎遠だった両親から絶縁されたと言う。
自分だったら、娘が魔族の首領、或いは、人間の王と結婚できたら誇らしくてたまらないのに、人間はやはり理解できないところがある。
長く戦が続いたのも当然といえば当然だ。もちろん、戦は無いに越したことはないのだが。
そして、それ以上にドン・サンチェスの事も尊敬していた。
お手伝い妖精を消耗品の矢のように扱っていた戦好きの先代首領とは正反対のドン・サンチェスは、緊張感の無い外見などと散々揶揄されているが、イズマルは彼のその優し気な姿が好きだったし、アンドレアが日頃から力強く主張する通り、イズマルのお菓子は他の誰よりもドン・サンチェスに似合っていた。
アンドレアやドン・サンチェスが、自分の娘か息子だったらなあ。
別に、首領や妃の父になりたい訳ではない。
あんなに素敵な娘や息子と夕食を囲んだり、誕生日や新年を皆で祝うのはさぞかし楽しかろう。
もちろん、テーブルの真ん中には、美味しそうなお菓子がたくさん並んでいるのだ。
年甲斐もなく、イズマルはそんな事をよく夢想したが、俺は頭の悪いつまらないお手伝い妖精なんだから、下らない想像をするのは当たり前じゃないか、誰に迷惑をかけるわけでも無いのだから、と考えていた。
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