もふ55 もさもさママとスイーツ
このもふもふしたみっともないクソックマは魔族の首領、フリオ・サンチェスに違いない。
有り余る魔力をこんな不快極まりない悪戯に使いやがって。
デノングはピンクゴールドの髪を振り乱し、どっちが前か後ろかはっきりしない緊張感のない姿で呑気にもさもさに溺れているドン・サンチェスを睨みつけた。
「私の美肌をこんなにしてくれちゃって! どうしてくれ……」
「ちー!」
しかし、皆まで言い終わらないうちに、ちーちゃんがふわふわと飛び出した。
「まあ、サントゥアリオ!」
デノングは両手でちーちゃんを優しく包み込んだ。
「お帰りなさい。迎えに行けなくてごめんなさいね。」
先ほどの剣幕などどこへやら。涙ぐんでちーちゃんに頬擦りをした。
「ち。ち。」
「ちーちゃん、お母さんに会えて良かったですね。」
感動の再会を間近で見ることができたアンドレアも涙ぐんだ。無理を言って連れてきてもらった甲斐があったと言うものだ。
「控えよ、下郎。サントゥアリオを安っぽい名で呼ぶでない!」
しかし、デノングはアンドレアに鋭い目を向けた。
「ほらね、だからあれ程ちー殿と呼ぶよう俺が……。」
「同じだ!」
そら見たことかと訳知り顔のドン・サンチェスの言葉にさらに鋭い声を上げる。
「サン……?ちゃん? のママさん、初めてまして、私、アンドレアと申します! あの、お近づきのしるしに、チェリーパイはいかがですか? 」
アンドレアはドン・サンチェスのもふもふと、抜け殻になっているサンダードラゴンのもさもさを掻き分け、手に下げていた籠を差し出した。
「はあっ!? チェリーパイだとぉ!」
クソックマにしがみついているこの女は人間に見える。
魔族もどうしようもないが、人間はそれに輪をかけてどうしようもなくちっぽけでみみっちくて臆病な生き物だ。
サンダードラゴンであるこの私がこんなに怒りに燃えているのに、自己紹介をしている呑気者が人間? しかも、なぜか獣人の発するのと同じ魔力を感じる。
アンドレアがドン・サンチェスの(毛糸で編んだ)腹巻きや毛糸のぱんつを身につけているのを知らないデノングは、胡散臭げに彼女を見た。
「それから、バタースコッチソースがたっぷりかかったケーキに、レモンとポピーシードのスコーンもありますよ。」
「ばたー? すこっち? それに、すこーん?」
訝しみつつも、何だかわからないがとても心躍る名称の何かを並べられ、デノングは籠の中を覗きこみ、チェリーパイをひと切れ取った。
パリパリのパイ皮に、真っ赤なサワーチェリーとカスタードクリームが挟まっている。
崇高で偉大な自分にはおよそ縁のない、下等な生き物の下等な何かだが、眺めていると、うずうずしてきて、目の前から消し去りたくなってきた。
おのれ、下郎め。
成敗!
デノングは手にしたチェリーパイをひと口、はむっ、っと、かじった。
甘酸っぱいチェリージャムに、とろとろのカスタードクリーム、そしてサクサクのパイ生地が口の中で合わさり舌の上で溶けていく……。
「ふおぉ〜〜。」
デノングは電気でぴりぴり髪を逆立てながら目に感動の色を浮かべた。
「ね、うちのお屋敷の料理人さんのお菓子は最高なんです。」
アンドレアがもふもふもさもさしながらも誇らしそうに言った。
恍惚とチェリーパイを味わっていたデノングは、はっ、と、我に返り、アンドレアを睨みつけた。
この下等な人間め。これしきの事で何を勝ち誇っているのだ。この私をこんなモノで懐柔できると思っているとは、信じがたい呑気者だ。
下等な生き物は下等なモノもろともまとめて成敗してやる!
しかし。
下等な生き物だが、初めてできたサントゥアリオのお友達でもある。
お友達のお宅に遊びに来るのに、手土産を持参するのは見上げた心がけだ。
「…………まあ、私の背中で立ち話もナンだし、ちょっと上がっていけ。」
デノングが、ふわり、と、片手にちーちゃん、片手にチェリーパイを握ったまま宙に浮くと、ドン・サンチェスと、彼にしがみついているアンドレアも宙に浮かんだ。
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