もふ54 もふもふとドラゴンママ
「いっかげつも! こんなもっさもさでいろって言うの!? 恥ずかしくて外を歩けないじゃないのよっ!」
今度はドン・サンチェスの背中の方から甲高い女の声がした。
アンドレアとドン・サンチェスが顔を見合わせ振り返ると、ピンクがかった金髪に真っ白な肌、髪と同じくピンクゴールドの鱗のような鎖帷子を纏った女が立っていた。
「ええと、貴女は?」
ドン・サンチェスにしがみついたままアンドレアは尋ねた。
「たぶん、サンダードラゴンの化身ですよ。この辺りに棲まうサンダードラゴンと言えば、貴殿はデノング殿とお見受けしますが。」
ドン・サンチェスも、もさもさに溺れないように犬かきならぬ熊かきをしながら答える。
「うっさいわ!」
女は金切り声でがなり立てた。
ʕ•ᴥ•ʔ
デノングはこの山地一帯を縄張りとしているサンダードラゴンだ。
本来の棲みかは、真夏でも雪が残るほどの標高の高い岩ばかりの山だったが、子育てのために先日この谷底にある鍾乳洞に寝ぐらを変えたばかりだった。
デノングの愛娘、サントゥアリオは食べ盛り。
空が授けてくれるかみなりと、栄養のある松の実をたくさん食べて、いちにちも早く私のような立派で美しい成龍になって欲しい。
そんなふうに早る気持ちが昨晩の無理な飛行に繋がり、雷雲の中でサントゥアリオを落っことしてしまったのだ。
結界には何の反応もないから、自分の縄張りにいない事は判っていた。きっと、魔族の縄張りの盆地に落ちたのだろう。
かみなりをお腹いっぱい食べたところだし、ふわふわで儚げな外見の割に丈夫な子だから命の危険はまずないが、サントゥアリオの飛行可能距離と速度では自分で帰ることはできないだろう。
地面にびっしりとたかっている、ちっぽけで低脳な魔族なんか吹き飛ばして愛娘を迎えに行きたいところだが、流石に全魔族を敵に回すのは分が悪いし、下手なことをすればドラゴンの仲間うちからもひんしゅくを買いかねない。
デノングは苛立ちながらピンクゴールドの鱗に覆われた長い身体をくねらせてしばらく盆地を旋回していた。
ええい、ままよ。突っ込んじまうか。ドラゴン連中には後で謝っておけば良い。
痺れを切らしたデノングが天空から稲妻の矢を降らせようとしたその時、
盆地の底から、
ピカッ!
『お友達に送ってもらうから、帰り道を教えてね。』
お利口ちゃんのサントゥアリオから『電話』がきた。
さすが我が娘。可愛いから誰とでもすぐに仲良くなっちゃうのよね。
ピシャーン!!
『わかったー。気をつけてねー。』
デノングも『電話』を返し、ホッと一安心して谷底へ引き返した。
程なくして、サントゥアリオと二人の侵入者の気配が結界に触れたので、稲妻で道案内をしてあげた。
娘が初めて家に連れてくるお友達だから、たくさんもてなしてあげよう。
「サントゥアリオちゃんのママってイケてるね。」
なんて言ってもらえるように、綺麗にしていなくちゃ。
……そう思っていた矢先。
ぐおーっ、と、いう謎の雄叫びが谷中に響いたかと思ったら、デノングが自慢にしているきらきら光るピンクゴールドの鱗からみるみる白い毛が生えてきて、哀れ、サンダードラゴン、デノングは、巨大なイモムシの様な姿になってしまったのだった。
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