もふ53 もふもふ必殺技
アンドレアを背負ったまま駆け出したドン・サンチェスは、放電する毛が風になびき箒星さながらだ。
奥へ進むにしたがい、下草がはびこり、前を行くのも困難になったドン・サンチェスは、たっ、と、土を蹴った。
そして、ほぼ垂直に伸びるマツの太い枝を伝い、辺りを見渡せる高さまで登った。
既に日は沈み、彼方の山の向こうがぼんやり紫色に光るのみで、ドン・サンチェスの頭の上には重たい雲が広がっている。
ピシッ!
「わ。」
空から稲妻が落ち、ドン・サンチェスの鼻先をかすめた。
ピシ!
ピシ!
ピシ!
「わっ。」
「わっ。」
「わっ。」
次から次へと稲妻が落ちて来て、その度にドン・サンチェスは木から木へと飛び移る。
そのうち、森の切れめまで追い詰められ、ドン・サンチェスは崖に飛び出し、そのまま谷間に落下した。
「なるほどね。」
落下しながらドン・サンチェスは呟いた。
「何が、なるほどなんですか?」
背中のもふもふの中からアンドレアの声が響いた。
「この谷の底がちー殿のお家なんじゃないですか?」
「ち!」
「やっぱりね。攻撃していたんじゃなくて、案内してくれていたんだ。しかし困ったな。」
ドン・サンチェスは、落下しながら首を傾げた。落下中なので金色の毛が上に流れてゆらゆら炎のようになっている。
「飛行魔法が使えないんだった。どうやって着地したものか?」
「ち。」
「えええーっ!」
背中で驚愕するアンドレアに、
「あ、アンドレア姫は心配ないですよ。俺がクッションになりますから。」
相変わらず呑気な声で返す。
「だ、だ、だめですっ! サンチェス様がぺっちゃんこになっちゃいますぅぅーっ!」
「心配ご無用。実は以前から温めていた魔法があるのです。」
ドン・サンチェスは、すうーっ、と、息を吸い込むと、谷底を睨み、牙を剥いた。
ぐおぉぉーーーーぉおお!!
その咆哮は、断崖に跳ね返り幾重にも重なり谷底まで響いた。
「ひっ。」
轟音がびりびりと背中にしがみつくアンドレアにも伝わって来る。
サンチェス様は何をしたの? 一体どうなるの?
アンドレアはぎゅっ、と、目をつむった。
そして、
ぼっ、
ふーーん☆
二人とちーちゃんは、真っ白なもさもさしたモノの中に沈んだ。
「ぷ、ふはあっ。」
ドン・サンチェスの背中にしがみついたまま、真っ白なもさもさに突っ込んだアンドレアは、もさもさに溺れそうになりながら、もさもさ掻き分けドン・サンチェスの前に回り込んだ。
「あら? サンチェス様の毛が元に戻ってます。」
つい先ほどまで金色に輝き、パチパチと放電していたドン・サンチェスの毛が、もとのクリーム色に戻っている。
「きっと吸収されたんでしょう。」
ドン・サンチェスは白いもさもさに溺れないように、平泳ぎのように必死に手足を動かしながら答えた。
「吸収? 何に? それに、ここはどこ?」
「それは……。」
「ちょっと! 何これ、どう言うつもり!?」
ドン・サンチェスがアンドレアの問いに答える前に、白いもさもさを震わせて声がどこからか響いてきた。
「ち!ち!」
アンドレアの肩に乗っているちーちゃんが騒ぎ出した。気がつけばちーちゃんも発光がなくなり、元の白いテニスボール大のふわふわに戻っている。
「この声は、もしかして、ちーちゃんのお母さん?」
「ち!」
まあ! とアンドレアは感嘆の声を上げる。
「じゃあ、この、もさもさちゃんがちーちゃんのお母さん? サンダードラゴンって、巨大なもさもさだったの!?」
「なわけ、あるか!!」
もさもさ中を震わせ怒号が響いた。
「この、モジャモジャのクソ熊が! よくもやってくれたね!」
高い崖から突き落とされたドン・サンチェスは落下の衝撃を和らげるため、魔法でサンダードラゴンをもさもさにしてしまい、長く巨大なもさもさが出来上がってしまった、ようだ。
「すみません。咄嗟の事で。まあ、ひと月も経てば元に戻りますよ。」
ドン・サンチェスは呑気に励ました。
「ひ、ひとつきーー!?」
再び、もさもさ中に怒号が響いた。
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