もふ48 やきもちもふもふ
「冗談はさておき、本物のサンダードラゴンの幼生ならば、今頃母親が血眼になって探しているでしょうから、早く返してあげないと。さらって来たなどと誤解されては大変ですからね。」
「レアルまで何を言うんだ。こんなちっぽけな綿クズがドラゴンな訳ないだろう。わっ、わっ。」
ドン・サンチェスが急に踊り始めた。
「ガロ・ジュニアめ、毛の中でモゾモゾするな! キモチワルイー。」
生き物の姿は毛に埋もれてしまったが、動きに合わせてさわさわと毛がなびいている。
「ちーちゃん嬉しそう。」
「アンドレア様、ちーちゃんとは?」
「ドラゴンちゃんのことです。ちーちー鳴いてるから。」
「ほう。」
「ちょっと、二人して妙に和んだ会話してないで早く取って。間違えて潰したらどうするんだ。」
ドン・サンチェスがジタバタ動き回ってダンシング熊ちゃんになっているというのに、小さな「ちーちゃん」に心を奪われている今日のアンドレアの心臓はびくともしない。
何だか虚しい。
「早く取ってってば!」
ドン・サンチェスは踊りながら叫んだ。
ʕ•ᴥ•ʔ
「失礼ながら、ドン・サンチェスは学生時代はオールAの秀才と伺っておりましたが、保健体育の授業は真面目にお受けにならなかったようでございますね。」
鳥人族の魔女、セニョリータ・パパゲーナは、ドン・サンチェスに冷ややかな目を向けた。
「この生き物は私達の種族とは全く縁もゆかりもありません。」
「ち。」
「ほら、言った通りでしょう?」
「ハイ、申し訳ありませんでした。」
再び毛糸のお面の上に乗せられたちーちゃんを見ながら、勝ち誇っているアンドレアの横でドン・サンチェスはきまりが悪そうにしっぽを垂れている。
「やっぱり、ちーちゃんはサンダードラゴンの赤ちゃんですよ。ね、セニョリータ・パパゲーナ、そうでしょう?」
「うーん、確証はありませんけど。」
セニョリータ・パパゲーナは、ちーちゃんと『いきものだいずかん』を見比べながら言った。
「少なくとも違うと断定はできませんわ。松ぼっくりの実を食べると放電すると書かれていますけど……。」
「松の種類については何か書いてあるのか?」
「いいえ、レアル様。それについては特に。」
松ぼっくりだと? けっ、と、ドン・サンチェスは鼻で笑ったが、アンドレアもセニョリータ・パパゲーナも、レアルまでもがちーちゃんを囲んであれこれ話し合っていて、誰もこっちを向こうともしない。
「松ぼっくりなら、今朝、立派なやつを見つけたので、食べさせてみましょう。」
アンドレアは収集物を貯めてある缶を持って来て、まつぼっくりを取り出し、松笠の間に挟まっている松の実を取り出した。
「…………。」
構ってオーラを激しく感じたアンドレアが後ろを振り向くと、ドン・サンチェスがそっぽを向いてお茶をすすっており、しっぽだけぴょこぴょここちらを伺っている。
「サンチェス様、ちーちゃんに松の実あげてみますか? 魔族の首領を代表して。」
「べ、別にあげたくないけど。興味無いけど。でも、どうしてもって言うなら、あげてやってもいいけど。本当はやりたくないけど。」
ドン・サンチェスは突き出た鼻はそっぽを向け、汗を飛ばしながらもアンドレアから松の実をひったくった。
面倒だなあ……。セニョリータ・パパゲーナは心の中で考えた。
「ほら、綿ボコリ、これでも食べなさい。」
ドン・サンチェスがちーちゃんの口先に松の実を差し出すと、
「ちっ。」
ちーちゃんは小さなくちばしで松の実をついばみ、飲み込んだ。
「わあ、食べた、食べた。」
そのあまりの可愛らしさに、さっきまでお株を奪われご機嫌斜めだったドン・サンチェスも思わずぱああーっと顔が輝き、キラキラ熊ちゃんはアンドレアの心をも掴んだ。
大きなふわふわと小さなふわふわの可愛いもの同士の交流を傍らで眺めるのは得難い体験だ。
次の瞬間
ピカッ!!
突然ちーちゃんが発光し、しばらく遅れてバリバリと切り裂くような轟音が中庭中に轟いた。
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