もふ47 もふもふと迷子
その日、アンドレアは避暑地にあるドン・サンチェスの屋敷の中庭をひとりで散歩していた。
ドン・サンチェスはレアルに拘束されて公務に励んでいるし、セニョーラ・カミラは今日はお休みをもらって、夫のエスカミーリョを引きずって夜のプレミア公演へ着ていくドレスを張り切って選びに行ってしまった。
昨晩は風が強く吹いていたので、中庭のそこここに小枝や木の葉が落ちている。
アンドレアは人間の世界ではあまり見かけない珍しい形や色の葉っぱを探しては、栞にして両親への手紙に同封していた。
公爵家を追われ、出家して聖職に就いた両親は世捨て人のようになり、以来、一度も会っていなかったが、魔族に嫁ぐと決まったその日に人づてに絶縁を言い渡された。
手紙なんか書いても返事をもらえないのは解っているから、日記を綴るようにして両親へ宛てた手紙は出さずに引き出しにしまったままにしている。
「そう言うこともありますよ。俺も父とは上手くいってないし。」
ドン・サンチェスがしっぽをぴょこぴょこさせて、何でも無いように言ってくれるのが救いだった。
こうしていつものように地面に落ちた葉を探していると、
ち。ち。
と、葉っぱの影から、真っ白な綿の玉がモゾモゾ動いているのを見つけた。
「まあ。」
アンドレアが散乱している枝や葉を掻き分けて見ると、テニスボールほどの大きさの真っ白な綿のかたまりに、真っ黒い小さな瞳をキョロキョロさせ、小さな口ばしを持つ、鳥の雛のような生き物が転がっていた。
「どうしたの? お母さんは?」
アンドレアは両手でその生き物をすくいあげた。
ち。ち。
その生き物はアンドレアを見ても怖がる様子はなく、甘えるようにアンドレアの手の平に身体をすりつけた。
「ふふっ。かわいい。」
アンドレアの顔も思わずほころぶ。
「いらっしゃい、サンチェス様に頼んでお母さんを探してもらうわね。」
そうして、両手で包むようにして屋敷へ連れ帰った。
ʕ•ᴥ•ʔ
「わかったわ。きっとこの子は森に棲むサンダードラゴンの赤ちゃんに違いありません。」
中庭のあずま屋で、庭で拾ったふわふわの生き物を前に、アンドレアは城の図書室で借りて来た『いきものだいずかん』を見ながら声を弾ませた。
その生き物は、先日アンドレアが皆から不評を買ったドン・サンチェスの(毛糸で編んだ)お面の上にちょこんと乗っかっている。
「まさか。」
公務を終えおやつのシュークリームを食べながらアンドレアを見守っていたドン・サンチェスは半信半疑だ。
「サンダードラゴンなんかがそうそう人前に姿を見せるはずがありませんよ。きっとドン・ガロの隠し子ですよ。こいつは小さい頃のガロにそっくりだ。」
ドン・サンチェスは口の周りについたカスタードクリームを舌でぺろっ! とさせたが、いつもなら緩みきった顔で見守ってくれるアンドレアは、その小さな生き物に夢中でこちらを見もしない。
「友好関係にある鳥人族にケンカを売るような発言はおやめ下さい。」
傍らで紅茶を飲んでいたレアルが言った。
「別に仲良くないし。あいつは子供の頃は俺よりぼっさぼさだったのに、羽毛が生え変わったら短毛になってカッコよくなっていたんだ。親友だと思っていたのに、とんだ裏切り者だ。」
ドン・ガロは魔族界ではエスカミーリョと人気を二分するセレブ美男子なので、ドン・サンチェスはちょっぴり嫉妬している。
「あら、サンチェス様もカッコ良いですよ。ほら、今日なんて頭の毛がちょっぴりはねて、やんちゃな感じ。」
すかさずアンドレアが励ましたので、
「そう? ふふふ。」
ドン・サンチェスはご満悦だ。
しかし、
「ちー、ちー。」
と、例の綿みたいな奴が情け無い声で鳴くので、アンドレアの関心はすぐにそちらへ移ってしまった。
「どうしたの? お腹が空いたのかしら?」
「フスマでもあげますか。」
心配そうに覗きこむアンドレアに、ドン・サンチェスは素っ気なく言った。
アンドレアは長い時間をかけて解読した『いきものだいずかん』のブラックサンダーに関する記述を指差した。
「サンダードラゴンの主食は電気ですって。サンチェス様、かみなり出せますか?」
「かみなり!? ガロの子を始末するつもりですか? ご落胤を闇に葬り去るとは、アンドレア姫もなかなか闇が深い。」
「あっ、そうだわ。」
震え上がるドン・サンチェスはスルーしてアンドレアはその生き物を彼の頭の上に乗せた。
「えっ、何、何!? 」
「サンチェス様の毛に起きる静電気がごはんになるんじゃないかしら。」
「名案ですね。静電気除去用に身体に飼っておくのも良いですね。」
レアルが調子を合わせて妙な事を言い出した。
「何なの? ちょっと、もう……。」
ゆっくりお茶をいただきたいのに。
ドン・サンチェスは溜め息をついた。
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