もふ44 もふもふとえんがちょお姫様
ホセとペドロを町の自警団に引き渡し、アンドレアとカミラは馬の松風号と共にドン・サンチェスの別邸へ戻った。
厩へ松風号を連れて行ったカミラよりひと足先にアンドレアが屋敷へ入ると、レアルから開放されたドン・サンチェスが出迎えてくれた。
「アンドレア姫、おかえりなさい。カキ氷はどうでしたか?」
「はい、とっても美味しかったです。紅茶クリームに乗ってるチーズケーキが特に美味しくて、ひとりで食べてしまいました。」
そう言いながらアンドレアはドン・サンチェスのお腹に飛びついた。
その時、ぞくぞくっ、と、ドン・サンチェスの毛が逆立ち、ただでさえ通常の三倍のしっぽがこれ以上ないくらいに膨張し、思わずアンドレアを引き離してしまった。
「な、何だ? この、いやーな、感じは……?」
アンドレア姫に抱きつかれ、生理的な嫌悪を感じるとは、俺は一体、どうしてしまったのだ!?
アンドレアも、いつもなら膨張したしっぽに大喜びしそうなものだが、ドン・サンチェスが自分に向ける明らかな嫌悪感に戸惑っている。
あっ、もしかして……。
「もしかして、これのせいですか?」
アンドレアは手袋の中にしまっておいた二つの鉛の腕輪を取り出した。
「こ、これは……!」
ぞわわわわー、と、ドン・サンチェスの毛が総立ちになった。
「きゃーーー!」
ドン・サンチェス他、周りにいた使用人達が蜘蛛の子を散らすようにアンドレアの前から消えた。
鉛の腕輪を手にしたアンドレアは、例のあのお面とショールのヘンテコスタイルのせいでより不気味さを醸し出している。
「あ、あ、アンドレア姫! そんなものどこで拾って来たんですか! 早く捨てて! あ、いやダメ、その辺に捨てちゃダメ!」
柱の影に隠れたつもりでもぼさぼさの毛が全然隠れていないドン・サンチェスが、それでもなるべく身体を隠しながら叫んでいる。
「それが、私達が湖で水鳥を見ていたら、突然……。」
アンドレアは先ほどのカミラの大活躍を話したくて興奮して腕輪を振り回した。
「いーから! 隠して、隠して! 早く、早く!」
「あ、ハイ。」
アンドレアが慌てて腕輪を隠したものの、誰も、ドン・サンチェスでさえ近くに寄って来ない。
「危険物処理班を呼べ! 大至急だ、何をしている!」
柱の影ででぼさぼさをはみ出させたドン・サンチェスが大声で叫ぶと、程なく分厚い皮で作ったローブを纏い、仮面をつけた魔導士が数人がかりで鉛の腕輪をどこかへ持ち去った。
「お清め! お清め!」
ドン・サンチェスは魔女に持って来させたセージの枝に火を点け、柱の影からしっぽを振り回して煙を屋敷中に行きわたらせ、特にアンドレアには念入りに煙を送った。
「けほっ、けほっ、サンチェス様、煙たいですう。」
「我慢してください。アンドレア姫、ずいぶんと汚染されているようなので、すぐにハーブの蒸し風呂に入って下さい!」
「お、汚染? 私が?」
煙にむせながらアンドレアが尋ねた。
「そうです。除染のためにお清めのハーブをたくさん燻した蒸し風呂に入って来て下さい。さあ、さあ、お前達、早く支度して。」
ドン・サンチェスは柱の影から魔女達を急かした。魔女達も慌てて支度に走る。
もう充分にセージの煙をで燻されているというのに、この上ハーブの蒸し風呂とは、私は燻製にでもされるのだろうか?
危うく誘拐されそうなところを危機一髪で逃れて来たと言うのに、人の話を聞きもしないでえんがちょするなんて、何だかみんな感じ悪い……。
アンドレア姫はちょっぴりムッとしてしまった。
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