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もふ42 鉛の腕輪


 しまった!



 カミラは自身の浅はかさを後悔したが遅かった。


 アンドレアの腕にはめられた魔力を封じる力を持つ鉛の腕輪がカミラの魔力に反応し、一瞬、動きが遅れたその隙に、カミラ自身の腕にも腕輪がはめられてしまった。


「ああっ……!」


 カミラはがくりと膝をついた。


 身体が鉛のように重く、腕が焼けるようで、息をするのがやっとだ。


 魔力のないアンドレアにとっては鉛の腕輪はただの腕輪に過ぎないが、世事に疎い彼女でさえ、鉛の腕輪の存在は知っていた。


 カミラの明らかな異変に只事ではないと悟ったものの、


「カミ、何っ……、んっ、んむっ!」


 カミラの名を呼ぼうにも、どういう訳か口が思うように動かない。


 気がつけば、先ほどドン・サンチェスのかけてくれたジャスミンの花数珠が首に絡まり、もがけばもがくほど首を締め付けられ、身体が硬直し、座りこんでいるカミラを助け起こす事もできない。


(どうして? く、く、苦しい、カミラさん……!)



「おい、ホセ、早く手を貸せ!」


 ペドロの呼びかけにホセも姿を現したが、遠巻きに見ているだけだ。


「腕輪を隠してくれなきゃ俺も近寄れねえよ。」


 ペドロは、ちっ、と、舌打ちしてカミラの左手の手袋をとり、腕輪が隠れるように巻きつけた。


 手袋を外したカミラの手を見たホセは叫んだ。


「おい、こいつの指を見ろ。リナレスの指輪をしているぞ。獣人と婚姻関係にある女だ、こいつがアンドレア・カブレラだ。」


「違っ! わたっ! んむっ!」


 違う、アンドレアは私よ、そう言わなけれはカミラが酷い目に遭わされる。


 しかし、ジャスミンの花数珠はますます強く首を締めつけ、上手く言葉が出てこない。


「アホか、んなもん見りゃわかるよ。こんなみずぼらしい変なのが」


 ペドロはアンドレアを顎でしゃくった。


「首領の妃な筈があるか。」



 ……やはり、狙いはアンドレア姫だったのか……。


 カミラは朦朧とする意識の中考えた。


 幸い、花数珠のお守りがアンドレア姫の口を封じているし、こいつらは私とお姫様を間違えている。


 何とかお姫様だけでも逃して差し上げなければ……!


 

「んっ、んむっ! んむっ!」


 アンドレアは言葉を発するどころか、身体を動かすこともできない。はらはらと頬から伝う涙をどうする事もできず、流れるに任せていた。



「しかし、へえー。」


 ペドロは青ざめてうずくまるカミラの顎を指で支え、ぐっと上へ向けた。


「ケダモノの女にしておくのは惜しいくらいにいい女だな。」


 ぷっ、と、カミラが吐いた唾がペドロの頬に飛び、じゅっ、という音と共に皮膚の焼ける不快臭が辺りを漂った。


「うわーっ!」


 ペドロは両手で顔を押さえた。


 ホセは思わず後ずさった。


 鉛の腕輪をつけながらも魔法が使えるとは、並の魔法使いではない。この女、只の貴族の娘だと思っていたのに、とんでもなく強力な力を持つ魔女だ。


 

「このアマ!」


 逆上したペドロがカミラの頬を打った。


「カミ、んーっ!」


 アンドレアは涙を流して唸り声をあげるばかりだ。


「バカ、むやみに触るな、腕輪が完全に力を奪うまで少し時間をおけ。」


「ちっ!」


 ホセの言葉にペドロは忌々しげに舌打ちした。


 愚鈍なケダモノの分際でこの俺に向かって偉そうな口を叩きやがってとでも言いたげだ。



 ホセの言葉通り、時間が経つにつれ、カミラは見る見る弱っていった。はじめは肩で息をしていたが、今はそれすらもできずに小刻みに小さく息をするのが精一杯で、自分で自分を支える事もできずにいる。


 ジャスミンの花数珠は相変わらずアンドレアの首に絡みつき、言葉と身体の自由を奪っており、涙を流しながらぐったり身体を横たえるカミラを見守る事しかできない。



「ふんっ。」


 焼け焦げた頬を押さえなざらペドロはカミラの顔に唾を吐いた。


「畜生、手こずらせやがって。さあ、来い。ケダモノの旦那じゃ満足できなくなるくらい楽しませてやるよ。」


 ペドロはカミラの顔をこちらへ向けさせようと髪をぐっと掴んだ。


「んっ、んっ、カミっ!」


 アンドレアはただただ涙を流す事しかできない。


 どうしよう、私のせいでカミラさんが……!


 誰か、誰か、誰か助けて!



 その時、



 かっ!



 と、カミラの指輪から赤い光柱が立ち、炎が噴き出した。次の瞬間、ペドロの身体に豪炎が取り憑き、絶叫がこだました。


「ペドロ!」


 ペドロは炎に巻かれたまま動かなくなった。


「こいつ、鉛の腕輪が効かないのか?」


 獣人のホセの顔が、小さな人間の女を前に次第に恐怖で硬直してゆく。



 「あ……ド……レ……さま、はや……く、に、にげ……!」


 息も絶え絶えに声を絞り出し、身体を起こす事も出来ないこの女のどこにあんな凄い力があるのだ。


 そうだ、きっとさっきの火炎で力を全て使い果たしたに違いない。そうに決まっている。


 芝居なんかじゃない、相当弱っているから、一撃で仕留められるだろう。


 ホセが右手をかざし、カミラに向かって雷を放つのとほぼ同時に


「ぷはっ!」


 花数珠の締め付けをとかれたアンドレアがうずくまるカミラに覆いかぶさった。


「カミラさんっ! 危ないっ!」




 いつもお読みいただきありがとうございます!


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