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もふ40 ペドロとホセ


 ここから数話は、女子達がちょっとしたトラブルに巻き込まれるお話です。


 もふもふはしばらくお休みです。


 ドン・サンチェスの別邸のあるこの盆地は四方を高い山々に囲まれている。


 この山地一帯はドラゴンの縄張りなのでそこら中にドラゴンの結界が張り巡らされており、転送魔法も飛行魔法も使うことはできず、盆地の中へ入るには、飛行用のドラゴンを使うか、険しい山を自力で越えるかしか手段は無い。


 ドラゴンの縄張りの山を歩いて越えるのはまず不可能だから、飛行用のドラゴンを所有する限られた要人や富裕層しか立ち入る事は出来ない。故に、高水準の治安の良さを誇っている。



 しかし、何にだって例外はある。


 要人や富裕層だからといって安全な人間とは限らないし、まして、その友人や使用人ともなると、どんな人間かもはっきりしない。


 特に、金持ちは芸術家崩れが大好きだから、ちょっとでも見てくれに自信のある男ならば、売れない役者のフリをして、退屈そうにしているマダムに近づくチャンスさえあれば良いのだ。



 その男達、本来ならば名前など必要のないただの男だが、獣人の方がホセ、そして人間の方はペドロ言う。


 むろん、本名ではない。彼らはいくつも名前を持っているし、互いの本名も知らないが、それでも別段困らない。


 獣人と人間でつるんでいるからと言って、お互いの種族を認め合い、尊重している訳では断じてないし、改めて言うまでもない話だが、彼らは友人ですらない。


 単に、その方が仕事をする時に都合が良いというだけだった。



 その日、ペドロが湖の桟橋に係留している一艇のヨットに潜り込んで酒を飲んでいるところへ、ホセがやって来た。


「サンチェスの奴が女を置いてひとりでホテルを去っただと?」


 ホセの知らせを聞いたペドロは起き上がった。


「ああ、でもって、サンチェスが連れていた人間の女がたぶん妃だ。アンドレア・カブレラ。今は使用人みてえな人間の女とテラスに二人だけだ。」


「ふん、異種婚なんざ、穢らわしい、虫唾が走る。売女にも劣るクズ女め。」


 ぺっ、と、ペドロは唾を吐いた。


「しかし、そいつが本物のフリオ・サンチェスだと何故わかる? 最近はまた長毛が流行り出してきたから、この避暑地にも長毛の野郎がウロウロしてるぜ。」


「間違いねえよ。あのクリーム色の毛は毛質は違えど親父のヘルマンそっくりだ。」


 ホセはペドロの隣に腰掛け、酒瓶を口につけた。


「ちぇっ、何だよ、全部飲んじまいやがったのか。」


「うるせえな。酒なんか後から幾らでも買えるだろ。ヘルマン・サンチェスねえ。ヘルマンが首領だった頃は俺らにとっては良い時代だったな。」


 ペドロはニヤリと笑った。


「サンチェスは和平交渉で無理矢理押し付けられた人間の女なんかに金を出すかな?」


 ホセはまだ半信半疑だ。さっきも遠目で様子を伺っていたが、リナレスの指輪があったとしても、あんなのと結婚するくらいなら鶏ガラをとった後の鶏の方が数段マシだ。


「女の生家の公爵家でもいいよ。それも難しいなら売りとばすさ。獣人の妃なんて珍しいから、需要はあるだろ。」


 戦と聞けば、兵に紛れて戦場へ赴き、魔族、人間お構いなしに身分のありそうな負傷兵を捕まえて、身代金と交換をする。


 魔族と人間、どっちにつくとか、どっちが正しいとか、そんな事は考えたこともない。より高い値を付けた方に引き渡す。


 捕まえた奴らの所持金や金目の物を拝借する事もあるが、苦情を言われた事もない。


 みな、涙を流して命を取らなかった事を感謝するんだから、俺達の生業はむろん、人助けだ。傷を追ったまま放っておけば、野犬かモンスターに喰われるかするだけなのだから。


 しかし、いつの間にやら戦は終わり、泰平の世とやらがやって来てしまった。


 今更、歓楽街の客引きやけんか屋なんかに戻るのもつまらないから、そろそろこんなキナ臭い家業からも足を洗い、新しい事を始めたいが、それには元手がいる。


 何かひとつでかい仕事をして、田舎にでも雲隠れして、後は悠々自適に暮らしたい。


 それが二人の計画だった。


「アンドレアは魔女なのか?」


「知るか。」


 ホセの問いに、ペドロは素っ気なく答える。


 何でそんな事を俺が知ってるんだ。獣人ってのは、魔力も高いし力も強いのに、ひとりじゃ何も考えられない愚鈍な奴ばかりだ。


 ペドロは腹の中で舌打ちをした。


「けど、少なくとも側用人は魔女だろう。どっちにせよ、この鉛の腕輪があれば大丈夫だ。」


 ペドロがポケットから鉛の腕輪を見せたので、ホセは顔を引き攣らせつつ後ずさった。


 人間は力もないし、こいつを始めほとんどの人間には魔力のカケラも無いクズばかりだ。


 しかし、魔族には真似できないモノを持っている。


 文字を操り新しい魔法を生み出したり、魔法を封じる技術がそうだ。


 あの鉛の腕輪をあいつが持っていなけりゃ、獣人の俺がこんなちっぽけなクズの使いっ走りみたいな事をしなくても良いのに。


「まあいいや。さ、早いとこ行こうぜ。サンチェスの奴が戻って来るかも知れねえからな。」


 ホセは手にしていた空の酒瓶を湖に投げ捨てた。




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