もふ37 もふもふとデート
ドン・サンチェスは、変なお面を頭からすっぽり被りヨタヨタしているアンドレアを、一緒に連れて来た馬の松風号の背中に乗せてやった。
大好きな奥さんとお忍びデートと言うよりは、これから絞首刑か銃殺刑が執行される死刑囚を連行しているようだが、まあ、いいか。
「どこへ行くんですか?」
アンドレアはお面をつけたままモゴモゴ尋ねた。
「屋敷から大きな湖が見えたでしょ? 松風で湖を一周しても良いし、ボートに乗っても良いし、どちらも素晴らしい眺めですよ。」
「まあ、素敵。今は何にも見えませんけど。」
「…………行きましょうか。」
ドン・サンチェスが松風号の手綱を持って歩き始めようとしたその時、
「待って、待って、待って下さーい! 私も連れてってー!」
屋敷からセニョーラ・カミラが転がり出てきた。
こちらもいつもの色の濃いローブではなく、明るい色彩のドレスに、つばの広い帽子にサングラスをかけている。
「まあ、カミラさん素敵! 女優さんみたい。」
アンドレアはお面を目が覗くところまで上げ、ドレスアップしたカミラに心からの賛辞を贈った。
「うふふ。ありがとうございます。お姫様こそ、その……、」
アンドレアは再びお面を被った。
「えっと、えっと……うふふふっ。」
カミラは笑って誤魔化した。
「ところで、セニョーラ・カミラ、貴女も湖へ行くのかい?」
「はい、初めてだから道がわからなくて。お二人のお邪魔はしませんから、湖畔のセレブ御用達の有名ショップ街まで送って下さいな。」
「貸本屋へ行く時は俺を置いてけぼりにしたくせに。」
「何ですか? ドン・サンチェス。」
「いいえ、セニョーラ・カミラ。俺は何も言いませんよっと。」
ドン・サンチェスはカミラをひょいっ、と、抱え、松風号に跨るアンドレアの後ろへ乗せて手綱を引いて歩き始めた。
「オラ・ドン・サンチェス、そちらは奥方様ですか?」
「まあ、噂に聞いていた以上に素敵な奥方様ですこと。」
往来を行く人々は、ドン・サンチェス一行に気づくと、皆、道を開けてくれ、ドン・サンチェスはその度に軽く会釈をした。
アンドレア姫のこのヘンテコなお面を見て、「噂に聞いた以上に素敵」と判断するとは、セレブといえば、流行を牽引する存在だと言うのに大丈夫だろうか。
ドン・サンチェスは自国のセレブの美意識を憂いた。
湖畔にある大きなホテルの前までやって来ると、ドン・サンチェスはボーイに松風号の手綱を渡した。
「さあ、着きましたよ。まずはおやつにしましょう。ここのホテルのティーラウンジのカキ氷メガ盛りをぜひアンドレア姫と一緒に食べたくて、何ヶ月も前から楽しみにしていたのです。俺は今日は紅茶ミルクにチーズケーキをトッピングしたのを頼むので、アンドレア姫はそれ意外にして下さいね。おすすめは、抹茶クリームがかかったあんこ別添えの奴です。」
しかし、アンドレアはヘンテコお面に加え、やっぱりドン・サンチェスの毛糸で編んだらしいショールを肩に巻きつけ、てるてる坊主の様になりながら申し訳無さそうに言った。
「実は私、こちらでは少々寒くて……。暖かいお茶で充分ですわ。抹茶クリームのはまた今度。」
「何ですか。女子ともあろうお方がスイーツを前にしてだらしがない。」
ぷんぷん! と、憤慨するドン・サンチェスにカミラが取りなすように申し出た。
「お二人がお嫌でなければ、抹茶クリームは私がご一緒させていただきますわ。お姫様もひと口どうぞ。せっかくのドン・サンチェスお薦めスイーツなんですから。」
「まあ、嬉しい。もちろんですわ。」
アンドレアはモゴモゴと同意した。本当にカミラは頼りになる
流石、セニョーラ・カミラは気が利きくな。アンドレア姫の側用人に取り立てた甲斐があると言うものだ。
ドン・サンチェスも満足そうに頷いた。
ようし! これからメガ盛りカキ氷を食べるぞ!
ドン・サンチェスは、武者震いをして、しっぽをぞくぞくっとさせた。
「この毛糸のお面は失敗でいた。サンチェス様のご機嫌の姿がちっとも見えないんだもの。」
アンドレアが悔しそうに言った。
「なら、ホテルの売店で新しい仮面を購入しては? おしゃれなベネチアンマスクがたくさんありますよ。」
ドン・サンチェスが素早く提案する。今にも売店へ駆け出しそうな勢いだ。
「そうだ、目のところをボタンじゃなくて穴を開けたらいいわ。今日のところはこれで我慢しましょう。」
しかし、アンドレアは自己完結してしまったようだ。
「…………。」
ドン・サンチェスとセニョーラ・カミラは、ヨタヨタ歩くアンドレアを間に挟んでホテルのティーラウンジへ入って行った。
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