もふ35 もふもふ飛行
「わらわはドラゴンが苦手での。あやつには乗りとうはない。」
ドン・サンチェスやカミラがいそいそと避暑地へ行く支度をしているのを傍で眺めながら、アンドレアはドニャ・カサンドラの言葉を思い出し、少しだけ不安になっていた。
当然の事ながら、アンドレアはドラゴンを見た事はない。
しかし、高い知能を有し、とても気位が高い生き物だと皆が口々に言う。
馬でさえ、気に入らない相手が跨ると後ろ足を蹴って騎手を振り落とすくらいだから、もしも、ドラゴンの機嫌を損ねて飛行中に落とされたらどうしよう。
「大丈夫ですよ。ドラゴンと言っても、飛行用のドラゴンは種類が違うんです。馬よりもずっとお利口で大人しいですよ。」
ドン・サンチェスは請け合った。
「ただ、飛行高度が高いので母はそれが苦手なようです。」
ドン・サンチェスに伴われ城の中庭へ出ると、全身を固い鱗に覆われ、背中にコウモリのような羽根をもつ数頭のドラゴンが、車輪が二つ付いただけの軽装の輿を付けられて待っていた。
ドン・サンチェスは、アンドレアをひょいっと抱え、控えている中でも一番立派な輿を付けたドラゴンに乗った。
「移動中はちょっと寒くなりますが、いつものように俺にしがみついていれば問題はありません。でも、アンドレア姫は初めての飛行ですから、ゆっくり行きましょうね。」
「私共も後に続いて参ります。あちらでお会いしましょう。」
レアルがそう言うと、ドン・サンチェスは頷き、軽く舌打ちをして手綱を引くと、ドラゴンは身体を起こし、羽根を広げて宙へ舞った。
空を飛ぶのだから、上からの景色を楽しみたいと考えていたアンドレアだったが、なるほど、ドン・サンチェスの言う通り、ドラゴンの飛行高度は高くものすごい速さで飛ぶので、下を見下ろすどころか息をする事も難しい。それに、とても寒くて空気が刺すようだ。
アンドレアはドン・サンチェスの背中にくっついて身体を埋めている他は無かった。
ドン・サンチェスは冷たい風を受けご機嫌のようだ。
器用にドラゴンを御しながら時折口笛を吹いたり、歓声を上げている。
アンドレアは背中に身体を埋めながら、公爵家で昔、将軍の語っていた魔族の駆るドラゴンの騎馬隊の話を思い出していた。
上空から火を噴くドラゴンに跨り次々と襲い来る獣人に、友軍は苦戦を強いられたと。
この夫にも、恐れを知らぬ獣人の血が流れているのだ。
そう考えると、アンドレアの胸に複雑な思いがよぎる。
「アンドレア姫、お疲れ様でした。着きましたよ。」
夫の声に、アンドレアは目を覚ました。
どうやら、ドン・サンチェスにしがみついているうちに眠ってしまったようだ。
「どうです、こっちは涼しいでしょう?」
夫から身体を離し、輿を降りると、一足先に到着していたレアルやカミラ、そして避暑地の別邸の使用人らが総出で出迎えてくれた。
しかし、皆、落ち着かない様子であさっての方を見ていて、こちらをまともに見ようとしない。
どうしたのかしら。私、どこか変かしら? アンドレアは不安になって周りをキョロキョロして、傍に立つ夫の方を見た。
すると、そこには……。
強風を受け、身体の毛が全部後ろへ流れたまま、寒さで凍りついていそのまま固定された
オールバック熊ちゃん
が、ご機嫌で立っていた。
きゅーーーーん☆☆
最近は暑さで動きの少なかったドン・サンチェスだけに、久々にアンドレアの胸がときめき心臓も大喜びで収縮した。
「どうしました?アンドレア姫?」
「サンチェス様、ライオンちゃんみたい……。」
「ほう、ライオン。」
俺の勇ましい姿を百獣の王に例えるとは、流石はアンドレア姫。
「気に入ったのなら、しばらくこのままでいましょうか。」
「はいいい、ぜひ、ぜひ……!」
「さあ、いらっしゃい、屋敷を案内しますよ。」
目のやり場に困り戸惑うレアル以下使用人達を残し、二人は手を繋いで仲良く屋敷へ入って行った。
おしゃれなドニャ・アンドレアがこんな姿になるのを嫌がり、ドラゴンに乗りたがらないのも頷けると言うものだ。
オールバック猫ちゃんも、絶対、かわいいのに。もったいない。
そう言えば、さっき、何だか複雑な気持ちになったような気がしたんだけれど、なぜだったかしら?
アンドレアはふと思ったが、後でゆっくり考えようと、今この場の幸せに集中した。
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