もふ33 もふもふお母さまの想い
魔族の領地の中でも最北端の、最標高にある盆地は要人や有名人達の避暑地となっている。
今年は新婚のドン・サンチェスが奥方を伴い例年よりも早めにバカンスに来るらしいと噂になり、国中のV I Pやセレブも大移動を始めた。
多忙な首領に謁見するには、いくつもの面倒な手順を踏まねばならないばかりか、口うるさいレアルの関門を通り抜ける必要がある。
しかし、避暑地ならば、ちょっとしたパーティーや催しなどで普段ならば近づくこともできないドン・サンチェスと話をするチャンスもあるのだ。
しかも、今年は人間の奥方を同伴しているのだから、奥方と近づきになれば、色々と都合の良い事もありそうだ。
ドニャ・アンドレアが魔族を代表するデザイナー、セニョーラ・バタフライのティアラを着けて自国へ里帰りした事も伝わっていたから、同じように上手く売り込めば新しい市場を開拓できるかもしれない、などと考える実業家も多数あったし、純粋に首領の妃を歓迎したいと考えている者もそれ以上にあった。
ʕ•ᴥ•ʔ
最近は暑苦しさ故にドン・サンチェスがもふもふさせてくれなくなったのが寂しかったアンドレアも涼しい避暑地へ行けることを喜んだものの、姑のドニャ・カサンドラは城に残ると聞き、社交家の彼女なら当然行くものと思っていただけに、少なからず落胆した。
「ドラゴンには乗りとうはない。」
訳を聞くアンドレアに、魔導学院の魔女達の作り出す涼しい風にもふもふの毛をそよそよさせながらドニャ・カサンドラはそう答えた。
「ドラゴン?」
「さよう。あの一帯はドラゴンの領地を通らなければならんから、転送魔法は使えんのじゃ。飛行用のドラゴンに乗って行くしかないのじゃが、わらわはどうも、あのドラゴンが苦手での。」
「でも、私がいない間に毛が絡まったりしたら……。」
アンドレアはいつものようにふわふわの義母の毛を丁寧に梳かしながら心配そうに呟いた。
「アンドレア様、心配はご無用です。ドニャ・カサンドラのおぐしは私達が責任を持ってきれいに致しますわ。」
新顔の側近の魔女がブラシを片手に言った。
この魔女は、先日のドン・サンチェスの縮れに縮れたドレッドロックスをきれいにほどいた功績で、ドニャ・カサンドラの側近に取り立てられたばかりだった。
「其方が皆を啓蒙してくれたおかげで、毛づくろいの腕もずいぶん上がったのじゃ。礼を言うぞ。」
ドニャ・カサンドラのその言葉に、他の側近達も笑顔で頷き合った。
アンドレアがここへ来たばかりの頃は、人間の妃など、保守派の側近達には快く思われていなかったから、ドニャ・カサンドラの目の届かないところでは、彼女達はアンドレアを見えない者として扱っていた。
しかし、最近は徐々に彼女達の心も溶けてきて、首領の妃としてのアンドレアを認めてくれたようだった。
アンドレアはドニャ・カサンドラや側近達ににっこりと笑いかけたものの、何だか寂しいような気持ちになって奥座敷を後にした。
ドニャ・カサンドラの居る奥座敷では、自分の役目はもう無いような、そんな気持ちになったのだ。
「アンドレア様、少しお寂しそうでしたわね。」
アンドレアの去った奥座敷で、竜人の魔女が言った。
この魔女は、先日のセニョーラ・カーマの謁見で贈られたラベンダーの冠と花束がアンドレアの手によるものと聞いて以来、ひときわアンドレアに好感を抱いていた。
「あやつも城の生活に慣れてきた事だし、いつまでもここで遊んでおる訳にはいくまいて。あやつにはあやつの役目があろう。」
アンドレアの編んでくれたしっぽを撫でながらもドニャ・カサンドラは言う。
「わらわも早く孫の顔が見たい。」
「フリオ様のお小さい頃は本当にお可愛らしゅうございましたね。ふわふわと綿毛のようなかたまりが、ころころ城中を行き来して。」
年嵩の魔女が顔をほころばせた。
今も可愛いけど。
可愛すぎるけど。
魔女達は心の中で同意しあった。
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