もふ30 もふもふ大失敗
ドン・サンチェスは、アンドレアが図書室で借りてきた本をパラパラと繰り始めた。
「ふむふむ、なるほど。これは若者の中でもおしゃれに感心のある少女達をターゲットにした本のようですね。」
「はい、そのようです。」
「さすがはアンドレア姫。獣人族の文化をルッキズムの視点から分析をしようとなさっているんですね。」
「いいえ、若い女の子の読む本ならば語彙も少ないでしょうからおバカな私でも、と……。」
「またまた、ご謙遜を……、何っ!? こ、これは……! 『寝癖を直すおまじない』、『湿気で広がったしっぽを元に戻すおまじない』、おおっ……! ふむふむ、何という事だ……。」
ドン・サンチェスはアンドレアそっちのけで本を読んでいたが、ハッとして顔を上げた。
「アンドレア姫、もしやこれは賢者セルバンテスの魔術書では? この俺の為にご禁制破りを……!」
「いいえ、図書室で借りたものです。」
「知らなかった。我が城の蔵書にこんな物があったとは……!」
ドン・サンチェスは狂喜してページを繰っていたが、あるページの前ではたと動きを止め、目を見開いた。
「何ぃぃっ!? 『長毛ちゃんはもう卒業っ!ロックススタイルで短毛ちゃんに大変身!』 だと!? 」
「それ、それです。チョーモーチャン、タンモーチャンって何でしょう? 随所に出てくるんです。」
「し、仕方ありません。今日は特別にこのページを終わりまで読んであげましょう。勉強熱心な貴女に負けました。」
「よろしくお願いします、サンチェス様!」
ご公務で疲れておいでだろうに、私の為に本を読んで下さるなんて、サンチェス様はなんてお優しい方だろう。
早くたくさん読めるようになって、サンチェス様の国の人々のお役に立てるようにならなければ。
アンドレアはそう心に誓った。
翌朝……。
「アンドレア様、これまで我慢を重ねて参りましたがもう限界でございます。」
側近のレアルが厳しい口調でアンドレアに詰め寄っていた。
「貴女様がドン・サンチェスの毛はご自分のものと思い込み、やりたい放題とは言え、いくら何でもこれは行き過ぎです。」
「…………。」
レアルの強い口調に、アンドレアは口答えもせずにしょんぼりとうなだれている。
寝室のベッドでは、ドン・サンチェスが頭から布団を被り、啜り泣いていた。
ところどころはみ出しているクリーム色の毛は、ちぢれにちぢれ、互いに強く絡まり合い、櫛やブラシではとてもほどけたものではない。
城中の魔女が騒動員で魔法を解かねばならなくなった。
(ああー、これは、例のあのおまじないをかけちゃったのねー……。)
(あたしの友達も大失敗してたわ。)
(かなりしつこくかけたみたいね。全然元に戻らないわ。)
(ドン・サンチェスの魔力は強力だから。)
魔女達は読心術でレアルに聞こえないように会話をした。
そう。魔法を使えないアンドレアがおまじないで毛を縮れさせることなどできるはずがない。
ドン・サンチェス自らおまじないを唱え、こんなになってしまったのだ。
アンドレアは可哀想な夫がレアルに叱られない為に、勘違いされても誤解を解かずにしおらしく頭を垂れている。
大抵のもふもふなら受け入れられるアンドレアだが、三年はお風呂に入っていないかのようなドレッドロックス熊ちゃんは流石に「無い」と思った。
レアルがブチ切れるのも当然だ。
「良いですか、今度こんな騒ぎを起こしたら、金輪際、図書室の本はお貸しできません。お判りいただけましたか!?」
「はい、申し訳ありませんでした。」
アンドレアは深々と頭を下げたまま、ぷりぷり寝室を出て行くレアルを見送った。
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